その7
「反乱も終息し、まずは一安心と言った所か……」
ロジオール公は、しみじみとした感じでそう言った。
「そうですね。
ラ・ラミ様の功績が大きいと言えますね」
エリオも珍しくしみじみとした感じでそう言った。
「そうだな」
とロジオール公はエリオに同意してから、一呼吸置いて、
「それにしても、今回はヘーネス家に多大な犠牲を強いる事になってしまった」
と溜息交じりに、心痛な面持ちで続けた。
「それに関しては、面目ないと思っています」
エリオも心痛な面持ちでそう言った。
「とんでも御座いません。
元々、我が家の身から出た錆です。
我が家が責を負うのは当然の事。
それどころか、家まで残して頂き、私が相続する事も許されたのです。
軽すぎるぐらいです」
黙っていたヤルスは、恐縮したようにそう言った。
寡黙なヤルスなのに、これ程長く言葉を発したのは、心からそう感じているのだろう。
「軽いという事はないと思いますよ。
ラ・ラミ様の王位継承権の放棄と出家。
これは大変な事です。
また、これにより、反乱の火種を消す事が出来ました」
エリオは、ヤルスの言葉に驚いたのか、目をまん丸にしていた。
エリオは、物事を客観視しすぎる傾向がある。
その目から見ると、バランスが取れていない気がするのだろう。
だから、驚いていた。
とは言え、当人であるヤルスから見ると、これでもまだ足りないという自覚があるのだろう。
だから、ヤルスは恐縮していた。
一体どっちが正しいのかと問われると、どっちも正しくはない気がする。
取りあえずは、反乱が収まり、ヘーネス家も無事に存続でき、良かった良かったと言う事で話を進めたいと思う。
全く無責任である。
「まあ、戦争の天才がこう言っているのだから、間違いなくそうなんだろうな」
ロジオール公は、空気が怪しくなってきたのを察して、軽口を挟んだ。
流石に年長者である。
「人を戦闘狂みたいに言わないでください」
ロジオール公の気遣いを察したのか、エリオも、同調する様に軽口を発した。
「……」
それに対してのロジオール公は、エリオをまじまじと見てしまった。
このロジオール公の態度で、雰囲気が一転したのは言うまでもなかった。
……。
そして、しばらく沈黙が流れてしまった。
とは言え、そんな長い沈黙ではなかった。
「確かに、貴公は、先代のクライセン公と違うな」
ロジオール公がそう口を開いたからだ。
表情は、至って真面目である。
たが、その心は明らかに揶揄っていた。
ある意味、妙な雰囲気にまたなってしまいそうだったからそうなったのだろう。
(うちの家系は、戦闘狂と思われているらしい。
分かってはいたが、まあ、元々海賊の出身だからな……)
エリオは、エリオで自分の気持ちを心の中で留める事にした。
一応事実なので、反論するのも何だかなと感じたからだった。
……。
エリオが発言を止めたので、場に一瞬沈黙が再び流れた。
何だか、上手く話が回らないでいた。
「ところで、今回の件、ラ・ラミ様の助けがなかったら、貴公は反乱を終息させる事が出来たか?」
ロジオール公は、今度は本当に真面目に聞いてきた。
沈黙を破ると同時に、この際だから聞いてしまえと言った感じだった。
と同時に、こういう場合は、はぐらかさないで本音で話した方が、上手く進むとも思ったのだろう。
「無理でしょうな。
武力は万能では無いので、散発的に反乱が起きる可能性があるでしょうな」
エリオは、溜息交じりにそう言った。
それに奔走させられる自分を想像した為である。
「それをラ・ラミ様が抑えてくださると?」
ロジオール公は、更に質問を続けた。
「はい、少なくとも反乱の数自体が一桁、いや、もしくは二桁は軽く違うでしょうな」
エリオは、真面目にそう答えた。
「と言う事だよ、ヘーネス公。
戦略の天才がそう言っているんだ。
貴公は堂々としていればいい」
ロジオール公は、ニヤリとして、ヤルスに話を振ってきた。
「はぁ……」
ヤルスは、思わぬ展開だったので、力無くそう答えた。
でも、まあ、一応の納得には至ったようではある。
エリオよりはマシだが、ヤルスも覇気という点では、難がある。
とは言え、武官ではなく、純粋な文官なので問題はないだろう。
それはともかくとして、取りあえずは、これで問題なく話せる雰囲気作りは出来たようだった。




