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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
22.戴冠式

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その5

「遅れて申し訳ございません」

 ヤルスは、部屋に入るなり、頭を下げた。


 部屋には、エリオとロジオール公が着席していた。


 これは、王族2人とエリオが面会した後日の話である。


「どうぞお掛け下さい」

 エリオは、ヤルスに着席するように勧めた。


「私は、正式に公爵位を継承した訳ではないのに、出席してもよろしいのでしょうか?」

 ヤルスは、席に着く事を躊躇った。


「陛下から内定を頂いているので、問題ないでしょう。

 それに、これは公式の会議ではなく、私的な懇談会みたいなものです」

 エリオは、やれやれと思いながらそう言った。


 貴族なので、形式が重要である。


 だが、エリオには未だにピンときていないようだ。


 とは言え、貴族以前に、こう言った国政に影響を及ぼすような場合は、前提条件としては参加資格というものは大事だろう。


 況してや、エリオは懇談会と言っているが、三公会議という名称が一応付いている。


 ヤルスは、エリオにそうは言われたが、席に着こうとはしなかった。


 ロジオール公の意見を聞こうとしていたからだ。


「私の方も問題ない。

 と言うか、寧ろ、私の方が、この場にいていいのかと感じている」

 ロジオール公は、ニヤリとしながらそう言った。


 場を和ませるために言った事だろう。


「冗談が過ぎますよ」

 エリオは、変わらずやれやれと言った感じで言った。


「とは言え、息子のクルスが早く爵位を譲れと言わんばかりに圧力を加えてくるのだよ」

 ロジオール公は、顔は笑っていた。


 とは言え、内心はどう思っているのやらと言った感じがした。


「ロジオール公、頼みますよ。

 今回の事で、只でさえ、人材がいなくなってしまったのですから、そういう冗談は止めて頂きたい」

 エリオは、珍しくうんざりといった感じで言った。


 まあ、エリオがうんざりする時は、大体は自分に仕事が回ってくる時だった。


 今回もヤルスが籠もってしまった為に、余計な仕事が回ってきたと被害者意識を前面に出していた。


 それを察したのか、ヤルスは少し居心地が悪いといった感じになった。


「これで、ヘーネス公も復帰。

 今回、私の妻まで動員する事で、その人材不足を補おうという事か……」

 ロジオール公は、感心したような呆れたような表情をしていた。


 公の妻とは、ラ・ミミの事である。


 王嗣として、正式に仕事を割り振る事になりそうだった。


 と言うか、この会議は、今後の国政運用に関してものである。


 無論、エリオが提案し、まずは公爵間の根回しから始めていた。


「現在、と言うか、元々、我が国には使える人材を遊ばせておく程の余裕はありません」

 エリオは、何時になく力説していた。


 この裏には、自分の負担を減らそうとしているのが見え見えだった。


 でも、まあ、主目的はそうだが、結果的には、国力の増強を狙っているものである。


 なので、建前を堂々と主張できるという利点があった。


「と言う事で、ヘーネス公、貴公にも、サボっていた分、働いて貰います」

 エリオは、会話に入ってこないヤルスに向かって軽口を叩いた。


「はぁ、了解しました」

 ヤルスは、真面目なので、面を喰らったと言った表情をした。


 これで、まあ、ヤルスも会議に入りやすくなった事は確かだ。


「で、その結果がまずは海軍に現れたという訳だな」

 ロジオール公は、何故かニヤリとしていた。


 ホルディム家亡き後、エリオが海軍全軍を把握する事になった。


 たぶん、王国にとってはいい事だと思う。


 だが、エリオには、人材不足が先に目に付いた。


 これまで、ホルディム家を用いる事で、その事を回避していた。


 性格には難があったが、用い方によっては十分使えるレベルだとエリオは思っていた。


 それに評価する部分もあった。


 ホルディム家の財力であり、その源となる商業力である。


 歴代のクライセン公では珍しく、その重要性をエリオは理解していた。


 そして、海軍の兵力を維持する為に、大いに利用していた。


 そう言う事なので、お金に関しては、立ち居かない可能性も出てきた。


 懸念点である。


 とは言え、こう言った事を想定していなかった訳ではなかった。


 流石に、稀代の策略家である。


、一応、これまで色々と保険を掛けていた。


 でも、まあ、上手く行くかどうかは、畑違いの事もあり、怪しい所がある。


 この辺は、追々ではなく、これから常々考えていかなくてはならないだろう。


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