その10
折角のエリオ艦隊とサラサ艦隊の初対決である。
物語的には、ここから大いに盛り上がってほしいものである。
エリオ艦隊の選択肢としては、海岸線を地道に行くか、海岸線を離れて砲撃戦に転じるかである。
サラサ艦隊の選択肢は、海岸線に踏み込まずにそのまま行くか、海岸線へと進路を向けて砲撃戦に持ち込むか、距離を取ってエリオ艦隊をこちらに誘き出すかである。
王都に撤退という選択肢もあるのだが、エリオ艦隊の方は、それがなかなかしづらい位置関係にある。
これは自業自得というものである。
一方のサラサ艦隊は、指揮官の性格上、それはないだろう。
そうなると、この後の展開は……、まあ、言わないでおこう。
きっと、思いも寄らない事が待ち受けているに違いない。
そうでないと、いけない!!!盛り上がらない!!!!
いつしか、両艦隊に駆け引きのような動きが見られるようになる。
エリオ艦隊は撃って出るぞとばかりに海岸線を離れたり、戻ったりしていた。
サラサ艦隊は、何度か誘い出そうと、一旦距離を取ったりしていた。
また、海岸線へ突撃するような構えも見せていた。
サラサ艦隊の方が選択肢が多いので、擬態行動も種類が多くなる。
擬態行動とうっかり書いてしまったが、初対決で盛り上がる筈が、そうではない理由はここにあった。
傍目から見ると、虚々実々の緊迫する駆け引きが展開されているようには見えた。
実際の行動中、エリオは、
(……)
と思っていたり、サラサは、
(……)
と感じていたりしていた。
2人は実に清々しいまでに、やってやるぞという感は全くなかった。
それどころか、エリオはいつものやれやれ感満載で、サラサは思いっ切り不機嫌な表情で、淡々と命令を下していた。
2人の性格は大きく異なるのだが、考えている事はほぼ一緒だった。
こんな事で、下らない損害を出すなんて、馬鹿らしい。
要するに、今、物語が盛り上がらないのは、この2人のせいであると言って過言ではなかった。
この状況下で、2人の性格から言うと、派手な戦闘どころか、散発的な戦闘にも成り得ないのだった。
それも、こんな状況がもう1週間以上続いていたが、お互いの艦隊が暴発する素振りさえもない。
これは2人の指揮能力の高さから来るものである。
サラサ艦隊は、指揮官がアイドルそのものなので、サラサに対しては絶対的忠誠を誓っていた。
対して、エリオ艦隊は、敵対関係なので、失敗して敵を喜ばせる訳にはいかないという使命の元、水兵達は団結していた。
まあ、要するに、どちらも、水兵の一兵一兵に至るまで、暴発する要素が全くないのである。
だから、もう物語的に盛り上がるというのは不可能なのかも知れない。
とは言え、この1週間以上、こんな状態を続けられるエリオとサラサは称えられるべき者達だとは思う。
だが、しかし、やはり、この2人の精神的構造はおかしいと思わざるを得ない。
そして、物語的にも有り得ないと思う。
「前方、東方艦隊、40隻以上、こちらに向かってきています」
シャルスとバンデリックは同時に自分の指揮官に報告した。
どうやら、物語的にも救いの手が差し伸べられたようだ。
この報により、サラサ艦隊は撤退を開始した。
エリオ艦隊はそれを確認した後に、東方第1・2艦隊と合流し、ティセルへと向かったのであった。
砲弾が1発も撃たれない戦いだった。
なので、引き分けと言いたい所だが、エリオ艦隊のティセルの到着を遅らせる事に成功したサラサ艦隊の判定勝ちと言った所だろう。
でも、一方的に転進させられたサラサ艦隊は、心情的には負けたと考えているだろう。




