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<裏のおはなし>①

「アデライン嬢のご婚約が成立? それはめでたい! しかし、喜んでばかりはいられませんね。まだ、三人も残っておりますから――」


 今日も、ブリジットが宮廷図書館を後にするや否や、彼女との語らいを思い起こし、幸福な時間を過ごしていたサイラスの元に、どこからともなくグレイアムが姿を現した。


 サイラスは、アデラインとウォーディントン伯爵のその後について、ブリジットから聞いたままをグレイアムに話した。ついでに、ブリジットの心の憂いを、自分の言葉で晴らしてやれたことも――。


「『愛とは、見つめ合うことではなく、ともに同じ方向を見つめることである』――ですか? それは、まさしくあなたのお気持ちですね! まったく、どこから見つけてきたんですか、そんな名台詞! まさか、ご自分でひねり出したわけではありませんよね?!」

「さる有名な小説家の言葉だよ! ああ、レディ・ブリジットが、言葉に込めたわたしの思いに気づいてくれないものかな?」

「がっかりさせるかもしれませんが、まだ、ブリジット嬢は、あなたがどこを見つめているのかすらわかっておりません。同じ方向を見つめるためには、さっさと次の計画に取りかかることですよ!」


 いつまでもブリジットのことを思い浮かべ、サイラスがぼんやりしているので、あきれたグレイアムは、貴賓室での話し合いを早々に打ち切った。

 急いで王宮へ戻り、夕食を済ませ、今は二人でサイラスの居室に籠もっている。


 ここ二週間は、ウォーディントン伯爵の訪問などもあり、ブリジットやアデライン以外のモットレイ家の人々は、個々に外出する機会が少なかった。

 計画を進めるのが難しい状況だったが、来週は好機到来となりそうだ。


「来週のモットレイ家の予定だが、レディ・アデラインは、もちろんウォーディントン伯爵と外出する。下の二人の妹たちは、家庭教師が来るとかで夫人と共に家にいるらしい。肝心の上の妹のレディ・クラリッサだが、モットレイ子爵と一緒に、レドモンドの森へ乗馬に出かけるとの話だ」

「子爵と一緒に乗馬ですか――。いかにもクラリッサ嬢らしい春の楽しみ方ですね」


 グレイアムは、懐から書き付けを取り出した。

 クラリッサ・モットレイに関する情報が、びっしりと書き込まれている。


 クラリッサは、今年十九歳になる。

 かつては、姉に憧れ、家庭教師になることを夢見たこともあった。

 しかし、彼女は、本を読んだり詩を書いたりすることよりも、遠乗りをしたり山歩きをしたりして体を動かすことを好む活動的な娘だった。


 今でも姉を尊敬し慕っているが、自分は同じようにはなれないと気づき、自分に合った生き方をしようと考えている。

 馬車を御すこともでき、ちょっとした体術も身につけているそうで、婦人たちの集まりでは、護衛役のような存在になっている。


 長身で、少しばかり広い歩幅で歩く彼女を、やや淑やかさに欠けると評する者もいたが、誰に対しても気配りができる心優しい女性であるようだ。


「ダンスもなかなかお上手で、相手が苦手そうだとわかれば、それとなくリードをしてくれるそうです。彼女のおかげで恥をかかずに済んだ、と仰る男性もおりましたよ」

「それはまた、稀有な個性をおもちのご令嬢だな。相手探しは、なかなか難しそうだという印象だ――。

しかし、わたしは知っているぞ。乗馬や山歩き、釣りや狩りにまで付き合えるような女性でなければ、妻に迎えるわけにはいかぬと言って、独り身を貫いている男を――」


 サイラスが、ニヤリと笑ってグレイアムを見ると、グレイアムもうなずきながら彼を見返し、その男の名を口にした。


「ラーウィル辺境伯のご子息、パトリック様でございましょう?」

「ご明察だ! この世に、おまえが知らないことはないようだな、グレイアム?

ラーウィル家は、隣国メーネハスとの国境沿いを領地とし、代々、国境監視の役割を担ってきた。山林が大半を占める、農耕には不向きな土地だが、毛皮や肉などの取引でなかなか実入りは良い」

「おや! 六年間も国を離れていらしたのに、辺境の状況などに随分とお詳しいようですね?」


 普段ならサイラスが、情報通のグレイアムをからかって言う台詞だが、今日は、わざと大仰に驚きながらグレイアムが口にした。

 「小憎らしい奴め!」と独り言ちたあと、咳払いをしてサイラスは説明した。


「ラーウィル辺境領に接して小さな王領があり、そこには離宮が建っている。わたしがいずれ押し込められる隠居所だな。

幼い頃は、兄上と一緒に毎年そこを訪れていた。わたしより四つ上のパトリックは、よく離宮に来てわたしたち兄弟の相手をしてくれたものだ。

パトリックの妹が生まれたときには、わたしは名付け親を頼まれた。フィオーナと名付けたその赤子も、今年で十四になる。長いつきあいだよ」


 サイラスが十二歳の時、幼少時には乳兄弟として過ごした二つ上のグレイアムが、正式に専属の近侍に任じられ彼の元へやってきた。

 いずれ留学に出ることが決まっていたので、それからは、彼と共に語学や武術、社交術などを学ぶ時間が増え、離宮を訪ねることもなくなってしまった。


 サイラスが留学に出発するとき、パトリックはフィオーナを連れて、わざわざ辺境から王宮へ見送りに来てくれた。

 それ以来、サイラスは彼らに会っていなかった。


 離宮での暮らしや二人のことを懐かしみ、物思いに沈んでしまったサイラスに、グレイアムが茶の入ったカップを差し出した。


「遠からず、わたしたちは離宮の住人となるのですよね。そうなれば、ラーウィル辺境伯家とも親しく関わることになりましょう。

パトリック殿には、彼の地で、ぜひ幸せな家庭を築いていただきたいものです。わたしたちが穏やかに暮らしていくためにも――」

「わたしだって、パトリックの幸せを願っているさ! おまえよりも純粋に――。パトリックはめったに領地を離れることはないのだが、わたしが帰国したので、今年の社交シーズンは、珍しく王都屋敷に滞在しているようだ。フィオーナも連れて――」

「それは好都合ですね。フィオーナ嬢が、まだ社交界へのデビュー前なので、先頃の宴にはおいでにならなかったようですが、王都にいらっしゃるのならいろいろとお声をかける機会はありますね」

「そうだな……。よし! レディ・クラリッサの相手は、パトリックに決めよう。出会いの場は、来週金曜日、ブルーベルが咲き始めた王都郊外のレドモンドの森だ!」


 今夜も机上には大きな紙が広げられ、二人は思いつくままにそこに書き込んでいく。

 日付も変わろうかという頃、練りに練った新たな筋書きが出来上がり、二人はようやく寝台に横になることができたのだった。


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