<裏のおはなし>③
少し短めです。第一話はこの部分で完結します。
木立の陰から、そっとアデラインとウォーディントン伯爵を見守っていたグレイアムとサイラスは、二人が楽しそうに語り合いながらカフェに向かって歩き出すと、同時に大きな溜息をついた。
「よし! これで上手くいくだろう! ウォーディントン伯爵は、カフェでモットレイ子爵夫人に、『アデライン嬢のお力をお借りしたいことがある』と申し出るはずだ――。
そして、レディ・アデラインが、彼の新著の植物画の描き手を引き受け、二人は自然と恋に落ちる……、いや、もう落ちているのかもしれないな?」
「サイラス様の方も、そのように上手くことが運ぶとよろしいですね」
「ああ……、そのためにも、二人には早々に婚約してもらわないと……。ん? おいグレイアム、おまえ今、何と言った?」
サイラスが目をやると、ひとくせある近侍は、水仙の花に手を伸ばし、「美しゅうございますねえ」などと、何も聞こえなかったような顔でつぶやいた。
*
時は戻って、その日の朝のこと――
サイラスの祈りが通じたのか、空は雲一つなく晴れ渡り、絶好の外出日和となった。
宮廷図書館の玄関に止まった馬車から、ベージュ色のドレスのブリジットが降り立つと、サイラスは、嬉しさのあまり思わず彼女の手を取ってしまった。
彼女を作業室へ案内し、レイノ語で書かれた古い叙事詩の翻訳を依頼した後、サイラスは貴賓室で着替え植物園へ駆けつけた。
計画通り、ウォーディントン伯爵と薬草園で落ち合い相談をすませると、最後ににっこりと微笑みながら、サイラスは言った。
「今、水仙の花が見頃を迎えていて、毎日たくさんの人々が植物園を訪れているようだ。時間があるなら、伯爵も水仙の咲く草原へ立ち寄ると良かろう。水仙は、王都に春を運ぶ花――。何か、嬉しいできごとを運んできてくれるかもしれぬ」
「それは、楽しみです。お言葉に従い、この後立ち寄ることにいたしましょう」
入園時からアデラインたちを監視し、彼女が一人になったことを確認したグレイアムが、薬草園の入り口に姿を見せていた。
グレイアムは、右手で自分の肩を叩き、「万事上手くいっている」という合図をサイラスに送ってきた。
サイラスに別れの挨拶をし、草原の方へ歩き出した伯爵の後を、二人はこっそりつけて行った。
そして、木立に隠れて、この後の成り行きを見守ることにした。
草原でアデラインと出会ったウォーディントン伯爵は、予想通り、彼女のスケッチに目をとめ声をかけた。
アデラインも、楽しげに言葉を返し、二人はあっという間に意気投合してしまった。
グレイアムがカフェに現われると話がややこしくなりそうなので、仕事の都合で行かれなくなったという伝言を、前もってリース子爵夫妻への旅土産とともに、カフェの給仕係に預けてある。
今頃は、グレイアムの不在など忘れて、夫人たちはおしゃべりに夢中になっているだろう。そこへ、アデラインとウォーディントン伯爵が現われて――。
*
「さて、そろそろ我々も撤収するか――。わたしは、王宮へ行き、陛下に薬草園での打ち合わせの結果を報告してくる。ついでに、『ウォーディントン伯爵が、最近良いお相手に巡り会えたようです』と、陛下に耳打ちしておこう。
その後は宮廷図書館へ戻り、レディ・ブリジットと一緒にゆっくりと語らいの時間を過ごす――」
「楽しいご予定が待っていて、羨ましい限りです。わたしは、ブリジット嬢の妹たちが出かけている音楽サロンに顔を出してみます。知り合いがおりますので、水仙の花束でも届けるつもりです」
「次の標的である妹たちの下調べをするのであろう? まったく、おまえというやつは、いつもながら手際が良いことだ!」
植物園を出た二人は、次の目的地へ向け別々の馬車に乗り込んだ。
サイラスは、お忍びのときに使う王宮の西門へ――。
そして、グレイアムは、懇意にしている花屋へ――。
それぞれの思惑を乗せて、春の香りを含んだ風が吹き抜ける王都の道を、二台の馬車は軽快に駆け抜けていった。




