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街歩き

街歩きは良い。

注意深く観察していると商売のネタが至る所に存在している。

例えば、この聖ガレリア学園がある王都の宿屋はどれも見た目は良いが実は宿泊客は少ないことがわかる。

一般的な宿屋は冒険者が移動の途中に立ち寄る場所だが、王都の周りには魔物が少ないので、冒険者が泊まることは少ないのだろう。

しかし、冒険者が泊まってくれないと、お金は入ってこない。

では、どうして見た目が良いのか?

これは王国の政策によるものだ。

他国の来賓も招く場所として、見た目が見窄らしいことが許されない。

もちろん、外壁を直すのに補助金も出るが、それでも宿の経営を圧迫しているのは間違いない。


「……ということは長期間色の変化がない塗料が売れるか? いや、それだと既に売られているから、魔力で汚れを弾かせるか。しかし、できたとしても価格が……」


商売のネタを見つけても解決策も思いつかないと商売にはならない。

わかりやすい商売のネタは既に誰かがやっているものだから、簡単には良い解決策など出てこない。

街歩きはそんな時の気分転換にも良いものだ。


「ん? あそこにいるのはアイナたちじゃないか」


アイナ、リマ、ミーシャの3人が仲良く買い物をしている。

休日に遊ぶほど仲良くなっていたのだな。

お互いにアクセサリーを選びあっているようだ。

しかし、こうして見ると3人とも目が覚めるような美女だ。

赤髪で明るい笑顔を振りまく活発なアイナ。

黒髪で雰囲気だけは清楚なリマ。

ミステリアスだがどこか気品を感じる金髪のミーシャ。

三者三様だが、それがまた人の目を引いている。

ああも目立つと逆に軟派な男も声をかけにくいようだ。

代わりに声をかけやすいのは、気弱そうで小動物のような可愛さを見せる、そうちょうどそこの角にいるような女の子だ。

うん。

まさに声をかけられている。

迷惑がっているのはここからでもわかるが、強くは拒めていない。


「あ、あの……、もう帰るところなので……」

「いいじゃんいいじゃん! もう少し俺らと遊んでこーぜ」

「そうそう、まだ明るいんだから帰ったら損だよ!」

「い、いえ、大丈夫ですから……」

「まあまあまあまあ、暇っしょ?」

「さあさあ、とりあえず行ってから考えようか。良い店知ってんだー」

「や、やめ……」

「ちょっと」


男たちが無理矢理に手を引っ張って連れて行こうとすると、鋭い声がそれを静止した。


「あ? 君も一緒に行きたいの?」

「おー、3人も! 俺らの両手で足りるかな」

「大丈夫だろ、いざとなりゃ、もう一本手は生やせるし」


男たちは汚らしい笑い声をあげる。


「胸くそ悪いセンスやなー」

「……下品」

「さっさとその手を離しなさいよ」


アイナが絡まれていた女の子から男を引き剥がそうとする。


「ああ? なんだてめえらケンカ売ってんのか?」

「そうよ」

「はははっ、お前、相手はよく見てケンカ売れよ、なっ!」


男はアイナに殴りかかったが、案の定、軽く跳ねられてしまう。


「痛ててててっ!!!」

「てめえ!」

「2人がかりとはダサいやっちゃな」


リマが足を引っ掛けて男を転ばせる。

アイナはその隙に女の子と位置を入れ替えて、男からの距離を空けさせる。

街道を行き交う人たちも騒ぎに気がついたようで、巻き込まれないように離れる者や、逆に野次馬として近くで観戦しようとする者もいる。

その人混みがさっと道を開けるように動いたかと思うと、厳つい見た目の男たちがぞろぞろとやってきた。


「おいおい、ダンホ、こんな女の子にいじめられちゃってるのかよ」

「あんま舐められることしてんなよー」

「だ、ダークジェノシスだ……」


ダークジェノシスとはこの辺りでは有名なチンピラ集団だ。

元決闘士のメンバーも多く、高い武力を誇るチームだが、その実力よりも素行が悪いことで有名となっている。


「兄貴、すまねえ……」

「まー、上玉を3人も見つけたってことでチャラにしてやるよ」

「さあ、お嬢さんたち行きますよー」

「触んな、ゲス野郎」


アイナたちのことも無理矢理に連れていこうとする男の手を怯むことなく打ち払った。


「ほう、少し痛めつけた方が素直になるかな」


数十人の男たちが逃げ場を塞ぐようにアイナたちを取り囲む。

これはまずいか?

助けに行きたいところだが、今日はライアンの見た目で来てしまっている。

記憶にあるアイナなら、心配することはないと思うが……


「またえらい大人数やな」

「……弱者の生存戦略」

「この子を守りながらってのがちょいキツいわね……」


俺が助けに行くか悩んでいるとアイナと目が合ってしまった。


「あ、あんた! ちょっとこの子を頼むわよ!」

「え、ぼ、ぼく?」

「そうよ! 戦えなくても壁くらいにはなりなさいよ!」


アイナは女の子を俺に預けると男たちに向かっていった。


「ウォーターシャワー!」


アイナの手から初級水流魔法が放たれる。

しかし、文字通りシャワー程度の水圧しか出ておらず、男たちはニヤニヤと笑いながら避けることすらしていない。


「こんな魔法しか使えなくて俺たちにケンカ売ってたのか!」


男たちが次々とアイナに襲いかかる。


「そんな遅い攻撃当たるわけないでしょ」


男たちは攻撃を受け流されると、その勢いで地面に叩きつけられていく。


「な、なんだテメエ格闘家か!?」

「違うわよ! アタシは魔術士よ!」


アイナが放つ魔法はダメージを与えられていないが、その身のこなしだけで、少しずつ男たちを削っていく。


「ちっ、ラチがあかねえ。あっちを囲め!」


男たちは一番弱そうなミーシャに狙いを定めて動き出した。


「……リマ」

「ええでええでやったれや。ウチはいつでもウェルカムやで」

「……ありがとう」

「どうしたー?今更ビビって謝っても遅いからなー」

「……口臭い」

「ああん!?」


男が怒ってミーシャの髪を掴もうとする。


「……カウンター」


その動きを利用して、ミーシャがお得意のカウンターを放つ。

男の腕がミチミチと音を立てて捻り上げられ、ぐしゃりと音と飛沫を上げる。

もちろん、ミーシャの腕も肩までぐしゃぐしゃだ。


「ああ、ミーシャ。どうして貴女はミーシャなの! ほい治癒魔法」


変なテンションになったリマが即座にミーシャを回復させる。

さすがに今回は相手の男までは回復してあげないようだ。


「ぐあああああああ!!!!!」

「や、やべえ……」

「なんだあれ!? シャレにならねえぞ!」


男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。


「ふー、なんとかなったようやな」

「……正義は勝つ」

「あの、ありがとうございました!」

「う、うん、いいのよ……」


助けられた女の子は御礼を告げて去っていったが、なぜかアイナの元気がない。


「アイナどうしたん?」

「……ネックレス」

「うん、さっき戦ってる時に千切り取られちゃった」


どうやら、さっきの買い物で買ったばかりのネックレスを取られてしまったようだ。


「思ったよりも鈍ってたのかな……」

「……残念」

「今から取り返しに行くか?」

「ううん! いいのまた今度買いに行こう!」


アイナは何とか笑顔を作り、残りの休日を楽しむために、また街へと戻っていった。




「あいつら許さねえぞ……」


ダークジェノシスのアジトには緊急招集がかけられていた。

百は超えるであろうメンバーが集結している。


「いいか、ターゲットは女3人。見た目の特徴はここに書いた通りだ。多少似ているやつがいたら片っ端からめちゃくちゃにやっちまえ!」

「ったく、雑魚ほどよく群れるな」

「誰だ!」

「ちょっと探し物をしてるんだ。ああ、答えなくていい。俺も片っ端からぶっ倒した後にゆっくり探すから」


街の外れにあるダークジェノシスのアジトは街の中心部の王宮からでも場所がわかるほど強く輝いた。

その後、王都で彼らを見た者はいないようだ。




「おはよ。昨日はいきなり任せて悪かったわね」

「う、ううん、全然。大丈夫だった?」

「あんなやつらにはやられないわよ。まあちょっと悔いは残るけどね」


次の日の朝もアイナは少し元気がなさそうだった。

ああいう武力を盾に街の治安を乱しているやつらは、世界の発展にも不必要なやつらだ。

せめて魔物を倒すために冒険者をするか、スポーツとして盛んな、人に夢と希望を与える決闘士であれば、まだ理解できるが、あのような奴らは粛正されないといけない。


「あれ? このネックレス……」


戦うことは好きではないが、それ以上に許せないものも、まだまだ世界には多そうだ。


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