夢のある世界
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「ここまで来たか……」
誰も踏破したことのないダンジョンの最下層。
その奥深くにいる魔物を討伐し、ついに未知の秘宝とご対面だ。
「親父も誇らしいだろうな」
「まさか12歳で成し遂げるなんて」
1人ではここまで来れなかった。
サポートに徹してくれた父さんの友人たちの力も大きい。
多分、父さんや母さんだったら、もっと呆気なく踏破してしまっていただろう。
だけど、あの2人はもう隠居いたということで表舞台には出ないようにしている。
だからこそ、ここからは俺が頑張る番だ。
サポートがあったとはいえ、最後の魔物は強かった。
ここまでの道のりも先頭を切って進むのは恐怖もあった。
でも、やり切ったからこそ、自分の成果だと胸を張っていうことができる。
「じゃあ、開けるぞ」
人類が初めて出会う宝は武器か魔道具か。
いずれにせよ俺にさらなる力を与えてくれるのは間違いない。
「これは……魔導書ですかね?」
宝箱の中には本が入っていた。
表紙には見たことのない文字が書いてある。
「すぐには使えなさそうだな。国の研究所に送って調べさせよう」
この場で効果がわからないのは残念だ。
何とも喜びにくい。
「中に書いてある文字も読めないな」
どこの言語で書いてあるのだろうか。
エルフやドワーフが使う言葉ならそれなりには読める。
俺が知らないとなると、ピクシーか竜族辺りか?
ただ偉大な発見であることは間違いないだろう。
今までは実力はあると自負していても、自分の成果と言えるような出来事はなかった。
それでは人々は安心して生活できない。
誰が見ても疑いようのない、確かな力を俺は手に入れるんだ。
「……かえろ……」
「ん?」
「どうした?」
「いや、なんか声が……」
「…………変えろ……」
「誰だ!」
俺の声が空虚に響き渡る。
「誰もいないぞ」
「ここまで来て疲れてるんですね。帰り道も気を抜かないように行きましょう」
疲れか……
確かにここまでずっと気を張っていたのが緩んだのだろう。
だが、やけに頭はスッキリとしている。
「ああ、こんなとこで死ぬ訳にはいかないな。
俺は世界を変えるんだから」
ダンジョンを踏破したという成果は王様から直々に国民へと伝えられることとなった。
俺もその場に立ち合うが、まだ幼いのでスピーチはしなくてもいいらしい。
魔物と戦うのには慣れたが、人前で話すのは緊張するのでありがたかった。
本当は父さんや母さんもそばにいてほしかったが、あの2人が出てくると俺が霞んでしまうので、今日も裏方だ。
宮殿のテラスの下には間近で話を聞こうと国民たちが押し寄せている。
俺の成果は皆に笑顔を与えられたようだ。
手を振る俺の顔も自然と笑顔になる。
「よかった。これでみんなの生活もより良くなるんだ」
俺がダンジョンを踏破したことで、喜んでくれる人がいる。
その理由は様々だろう。
魔物の恐怖から解放されたもの。
新しく便利な道具を得られたもの。
……いや、そんな人いるのか?
ダンジョンからは魔物が外に出てこないように管理されていた。
俺が手に入れた秘宝もまだその効果はわからない。
途端に俺は気分が悪くなってきた。
「顔色が悪いようじゃが、大丈夫か?」
「す、すみません、人の多さに当てられたみたいで……」
もう俺の目には国民の笑顔は入ってこなかった。
ガリガリの体躯。
同じデザインの服。
広場の周りにはお腹を空かせた子供も座っている。
ただただ神に祈る老人もいる。
俺が手に入れたものは何だ?
虚無の中に吸い込まれる感覚がした。
「テオ、大丈夫か!」
国王からの発表が終わった後、俺はその場に倒れこんでしまっていた。
どんなに強い魔物を前にしても狼狽えることのない両親が動揺しているのを見て、少し安心してしまった。
「うん、もう大丈夫」
「ここまで頑張ってきたから疲れが出たのかしらね」
これは疲れなのか?
身体は元気だ。
だが、言いようのない気持ち悪さがある。
「あのさ、俺がダンジョンを踏破して世界はより良くなったのかな?」
「そりゃそうだろ! こいつはすげえことだぜ!」
「そうよ、今日のみんなの喜ぶ顔を見たでしょ?」
「そうなんだけど……」
そうじゃない。
そういう話じゃないんだ。
「でも、まだ食べ物に困ってる人もいるし、服もぼろぼろだし」
俺の悩みを聞いた父さんは笑い出した。
「コイツは大物だ! もうそこまで考えてやがんのか!」
「そうね。まだまだ私たちも頑張らないといけないかもね」
「ああ、隠居なんで言ってたのは甘かったかもな。魔王がいた頃はもっと酷かったんだ。食べ物も服も奪い合いだ。
でもな、俺や母さんが魔物を倒して倒して倒しまくった。
そしたらみんな安心して、農業をしたり、裁縫をしたりできるようになったんだ」
「昔は本当に酷かったわよね……
魔王を倒して安心してたけど、まだやらなきゃいけないことがありそうね」
まだまだ世界には危険な魔物がいる。
魔王軍の生き残りも潜んでいる。
父さんたちは改めて戦う意欲を増したようで、久しぶりにドラゴン狩りに行く計画を立て始めた。
でも、それであっているのか?
確かに魔物を倒して世界は平和になった。
人々は裕福になった。
「でも、魔王はもういないじゃないか」
父さんたちはキョトンとした顔をしている。
「そうね。だからこそ新しい魔法を研究する時間があったわ」
「ああ、俺も新しい技を編み出していたところだ」
ダメだ。
何かが噛み合わない。
新しい魔法は山を一つ消せるかもしれない。
新しい技は水平線まで切り裂けるかもしれない。
でも、だから何なんだ?
子供の俺にはそれ以上の言葉は出せなかった。




