サボってたら笑顔で怒られました。
俺は今、絶賛サボり中である。
しめ縄のかかった枯れ木に、巨大なナタを立てかけ、ヤンキー座りで一息ついていた。
そして、さっきのことを思い返す。
俺は、つい、上司に聞いてみたのだ。
「どうして俺、地獄に来たんですか?」
って。
そしたら。
「いいところでしょ?」
って、あれはどういう意味だったんだろうか。
ここ、地獄ですよ?
良いところなわけがないでしょ。
「はぁ、できれば、もっと、前向きな世界な所が良かった……」
不満のつぶやきが、ため息とともに零れる。
そんな見渡す世界は、紅蓮の色彩。
まさしく地獄絵図。
ひしめく罪人の悲鳴、嗚咽。
どこまでも続く、断罪のループ。
この俺の勤務地は、『等活地獄』と言うらしい。
俺はここで毎日、三国〇双みたいなことをさせられている。
「どうしてこうなった……」
なぜ地獄なんだ。
そんな俺の二度目のつぶやきに、
「人材不足だから……」
と、返答する涼やかな声。
俺はギョッとする。
居たんですか、上司!?
ヤンキー座りの俺が、真横を見ると、和装の裾と、脚が見えた。
さらに見上げると、長い黒髪の少女が立っている。
まるで、等身大《1/1》日本人形みたいな、美しい娘さんだ。
「って、地獄って、人手が足りないんですか?」
「うん」
子供っぽく返事をされる。
「最近、死人が多いから」
俺は前世の記憶がほぼ無い。その時の社会情勢など、何も覚えちゃいない。
でも、きっとそれだけの何かがあるのだろう。
「死人が多いから、罪人も多いってことですよね?」
「うん、そう」
「皆、想いもしないんでしょうね。本当に地獄があるなんて……」
「罪のある者を、簡単に楽にさせるほど、この世界は愚かじゃない」
「……俺だって、きっと、死んだ先にはもっと、素敵なことがあると思っていただろうに」
まさかこんなことになるとは。
「この世界は、どこかでかならず帳尻合わせがあるの。現世で賄えない分は、地獄で支払ってもらうことになる」
からんころん、草履の音を響かせて、少女が俺に前に回り込む。
「ところで……」
はい?
少女の膝が折りたたまれる。
座り込んだ少女に、真正面から見つめられる。
ちょっと照れる。
「……あなたの帳尻合わせだけれど」
「え?」
「この前のノルマが、残り7万5千と482人、残っているわ」
え? 嘘、あのノルマ マジだったの!?
っていうかどうやってカウントを……?
「今日の分を足すと、残り17万4千998人……」
あれ?
なんか嫌な汗が出てきましたけど?
「さ、立って」
あ、これは許されない流れ!
え、笑顔が怖いです、先生!
しゅたっ、っと俺は勢いよく立ち上がる。
さーせんしたっ!
がし、っとナタをつかみ取り、俺は一目散に、『地獄無双』を開始したのだった。
有象無象の罪人たちに、俺は果敢に斬りかかっていく。
ノルマのために、ノルマのために!
「おりゃああ、しねええ!」
いや、もう死んでますけどね、きみら!
ノベルアップ+にて。
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