chapter2-プロローグ
「悪い、一緒にやれねえわ。」
とある少年は、幼馴染にそう告げた。
師の死去から6年。
力を急速につけた男の子には、夢があった。
この村の英雄を止めてくれた、あの男のようになりたい。
そんな夢は、幼馴染はよく知っていた。
毎日のように語っていた夢なのだ、心底からそれをかなえたいという欲望を持っていたいことを痛いほど知っている。
だから、なのだろう。
彼が唐突にそう告げたことに、驚きはしなかった。
「・・・じゃあ、もう会えないのかな。それは寂しいな。」
立派に成長した少女は、寂しそうな笑みでいう。
笑顔で見送りたかったが、どうやら完全にそうすることは無理らしい。
「そんなことないだろう。
おまえは絶対に死なないし、俺たちはまた会える。」
こちらも立派に成長した金髪の少年は、確信してた。
旅に出ようとする少年のことを、心底から信頼している。
「わかってるじゃねぇか。ああ、俺は絶対に死なねぇ。
んで、呪怨剣士に会って・・・いつか土産話しにしてやるよ!
例えば、好きな女のタイプとかな?」
「ちょっと!」
「おいおい・・・」
不敵に、しかし子供のように張り切る男の子に少女は頬を赤くして抗議して、金髪の少年は苦笑した。
夢が大きく、だがこいつならやれるだろうという想いが捨てられない。
なら、まあ仕方ない。
きっと村の人たちは止めやしないだろう。
この男の子のやんちゃっぷりは誰もが知っている。
寂しくなるだろうが、快く見送るだろう。
「だから、約束しろ。
ユピテル、エオス・・・お前らも死ぬな。」
そう、彼らはもう狩人なのだ。
常に命の危険が伴う戦士たち。
だが再会を夢見るなら、生きていなければならない。
とても当たり前だが、しかしこの世界では難しいこと。
それでも、兄妹は力強く頷いて
三人で、拳を合わせた。
「ああ、ベオ。約束だ。」
「私たちも、生きるから。」
「なっつかしいなあ、おい。」
想いふけりながら、雪山を歩く。
マフラーとマントを羽織った、あの日から大きくなった少年ベオ。
村を出て一年。そう、ちょうど師が亡くなって7年。
旅する狩人の一人として、異名もついにつけられた。
その名を、暴君餓狼。
運命の芽が出た物語、その一端を担う男である。