chapter1-2
オレの産まれはあまりに例外的だった。
世界樹の呪いの時点で、既に成人男性に近いカタチでどこから湧いたのか、気がついた時には世界樹の下にした。
かつて世界を絶望に落としたあの日、人々がいなくなった世界樹の周辺を彷徨う。
厄人として産まれたはずの彼は、何故か意識があった。
その周辺にいる厄人が、自分の同類だと直感で理解した。
しかし何故か、その同類は自分に襲いかかってくる。
何度も身体を貫かれた。
何度も身体を食われた。
何度も身体を切り裂かれた。
何度も
何度も
何度も
何度も
血肉がどれだけまき散らされようとも、当たり前のように再生していく。
痛みと苦しみで、わけもわからず彷徨いながら傷ついて、それでも死ぬことなくずっとずっと走り続けた。
「可愛いわね。何もわからずおびえ切っている癖に、生を諦めきれず血反吐を吐きながら逃げているなんて。」
誰だかわからない。
嘲笑うような、慈しむような、異常なほど情熱的で妖しい女性の声。
影も形も見えやしないのに、どこか知っているような・・・そしてその声がオレを怯えさせる。
「でもこのままだと、きっと殺されるだけね。
傷つき怯えるさまを見続けるのも飽きてくるし・・・いいわ。猶予をあげる。」
ため息交じりの声が聞こえた瞬間、オレの目の前には紅い刀があった。
誰なのかもわからないモノを受け取ることに躊躇する。
けれど、選択肢は何もない。
所詮ここでのたうち回るしかないオレに選択肢などないのだ。
「生き延びなさい。時が流れたその時に─────」
手に取る、吸い付くように手になじむ感覚がした。
その瞬間・・・
「────今度こそ、愛してあげる。」
──────
「・・・ニーズさん?」
顔を覗き込む男。
最近狩人になることができた、あの若い男だ。
昔を思い出していたら、どうやら時間が来たこともだれか近くにいたことも気が付かなかったらしい。
「・・・悪いな。少し考え事をしていた。」
オレは苦笑しながら、鞘におさまった紅月を持って立ち上がる。
時間は夜。
今宵もまた村の周辺に沸いているであろう厄人を狩るために出発する。
今回は村の新人のレクチャーも含まれているため、こうして一緒に行くことになった。
「オマエの名前を聞いてなかったな。」
「あ、そうか・・・。俺の名前はジンです。」
ジンという青年は腰に剣をさげている。
あの朝に剣で素振りをしていたことを考えれば当然だろう。
あとは属性なのだが・・・。
「お互いの戦力は知っておいたほうがいいですよね。
俺は炎属性適正で、火炎魔法使いです。威力はまだ大したことはありませんが、充分戦力になると思います。」
シンプルかつこれ以上なく戦闘向き。
武器に付属するもよし、放射するもよし。
爆破魔法と比べ瞬間火力はないものの、汎用性は高い。
「把握した。孤立しないようにすることは絶対に心がけるようにな。」
「了解です!」
──────
「わかっていたけど・・・しぶとい・・・!」
「切り裂ける技量が足りないなら抉れ。仕留めきれないにしても、再生が遅れるように手を尽くせ。」
夜の平原で沸いた、黒い瘴気をまとった歪んだ人型が十数体、俺たちは二人で応戦した。
自分の腕に自信はあった。
なければそもそも狩人になろうとしてはいない。
そしてこれが初陣。
厄人を一体狩るくらいは十分できる。
殺し方は身に着けている。
けれど、相手が多数なら話は別。
すぐに殺し切らないと、あるいは安全にならないとほかの厄人からの攻撃がやってくる。
数はそれだけで脅威だ。
特に、厄人のように丈夫で死ににくい化け物など。
剣を突き立てても、燃やしても、焦りのせいで思ったように切り裂けない。
これが実戦なのだと理解させられる。
同時に腕前も大事だが、経験もまた力なのだとも。
「そう、このように。」
ニーズさんはお手本のように心臓部分を狙って刀を突きさし、抉るようにして抜いた。
たったそれだけで厄人は死ぬ。
それ以外に、足のどちらかを抉るように傷つければ再生が遅れる。
どれだけ雑だろうとも、傷ついた箇所が深ければそれでいい。
「うおおっ!!」
ニーズさんは刀のみでそれを成している。
では、俺は?
決まっている、打てる手を打つ。
剣に炎を纏わせて、厄人を抉る。
ただの斬撃よりも質が悪い。
燃やして再生を遅らせてより傷つける。
ただ傷つけるよりも、よっぽど楽に止められるし魔力も安上がりだ。
「それでいい、それを繰り返して慣れていけ。」
「は、はい・・・!」
─────
「・・・これで済んだな。」
「か、勝った・・・生きています・・・!」
筋もいい、教えられたことをすぐに実践できる柔軟さもある。
将来有望だ。いい狩人になるだろう。
もう少し経験を積めば、すぐにでも一人前になる。
当然調子づかなければの話なのだが。
依頼されている契機であれば、そのあたりのことだって教えてやれる。
無駄に歳は食っているのだ、それくらいの偽善はやらせてもらおう。
それはさておきだ。
いまこの瞬間、そんな水を差すようなことは言えない。
「よくやった。胸を張るといい、これでオマエは確かに誰かを守れたんだ。」
いまできる、精いっぱいの祝福をくれてやろう。