謀計の翼 【月夜譚No.64】
たとえ翼を手に入れたとしても、鳥のように大空を飛べるとは限らない。――そんなことは、最初から解っていたのだ。
空を飛ぶ為の翼を手に入れて、さあ飛ぶぞという段階で、翼の動かし方を知らないことに気がついた。
空の青さに魅入られてそこに行きたいと願い、ここまで頑張ってきた。だが肝心の翼の使い方が判らないのでは、まるで意味がない。翼を手に入れた時の安堵感から一転して、絶望の最中に突き落とされた。
足が地に縫い付けられたようで、見上げる蒼穹はどういうわけか翼を手に入れる以前より遥か遠くに感じる。地面の上にいるはずなのに、地中深くまで潜ったみたいだ。夢見た青はくすんで暗んで、美しく見えていた頃の景色が思い出せない。
こんなことなら翼なんて要らなかった。手に届かなくとも、美しい空のままでいて欲しかった。
――だが、翼はこの背に生えている。もう前のようには戻れないのだ。
クツクツと、腹の底から笑いが零れた。戻れないのならば、今をどうにかするしかない。飛ぶことができないのならば、今いるこの場で足掻くしかない。絶望に沈んだその瞳の奥に、一閃の光が怪しく灯った。