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Off JT

 ピンポーン。


 家のチャイムが鳴り、小早志(こばやし)は玄関へ向かう。


 ガチャ。


「お届けものでーす」


「ご苦労様です」


 配達員から荷物を受け取り、部屋に戻る。


 荷物を床に置き


「ついに……」 


 と、部屋で1人、小早志は言葉を()らす。


 先日、ネット注文したあれ(・・)が届いたのだ。


 そう。いま流行りのVRゴーグルだ。


 今やVRゴーグルは数多くの種類が存在するが、小早志が買ったVRゴーグルは、off(オフ) JT(ジョイタイム)という名前の物だ。


 ちなみに、このオフジョイタイムという名前には、学校や仕事がお休みの日に楽しい時間を過ごしてほしい、という開発者たちの思いが込められているそうだ。


 また、開発者たちによれば、このオフジョイタイムは他のVRゴーグルより仮想現実の世界をより一層リアルに体験でき、ゴーグルを装着するだけで仮想現実の世界に入り込むことができる優れものらしい。


 ただ、オフジョイタイムについてわかっていることは先ほどの文字情報だけで、色や形、その他の諸々の情報は一切わからない。


 実に謎の多いオフジョイタイム。


 しかし、ついにその全貌が明らかとなる。



 小早志は期待に胸を膨らませながら、まず、段ボールに貼られたテープを剥がした。


 ダンボールを開くとそこには、カラフルで複雑な模様が描かれた箱が入っていた。


「ほほう」


 豪華にデザインされた箱から、中身のゴーグルへの期待が高まる。


 小早志はダンボールから箱を取り出し、箱を包んでいる透明なフィルムを取り去った。


 さあ、ついにオフジョイタイムをご対面だ。


 ゆっくりと蓋をあけるとそこにはーー。


 グレーカラーのVRゴーグル。


「……へ?」


 小早志が間抜けな声を出すのも無理はない。


 何しろこのVRゴーグル、よくある他のVRゴーグルと形や色がほとんど同じで、まったく個性がないのだ。


 パチモンをつかまされたのだろうか、と疑いながらも小早志はゴーグルを手に取り、観察を始めた。


「……ふむ」


 これといって言及することはない普通の外観だ。


 まあ、機械だろうと大事なのは中身だ。人間と一緒さ。


 小早志はそれらしい言葉を思い浮かべながら、ゴーグルを装着し電源を入れる。



「うわぉ!」


 思わず驚きの声を上げる小早志。


 目の前に広がる景色はーーいや、小早志がいる世界はまさに仮想現実。


 現実の自室から、一瞬にして別の世界に入り込んだ小早志が今いる場所は、大草原の真ん中だ。


 仮想現実といえども、現実と変わらないものの見え方、空気感、感触。


 もう一つの現実世界にワープしたかのような感じだ。


 ただ、現実と異なるところを挙げるとすれば、ゲームチックな画面が目の前に現れること。


 ちなみに、画面操作はスマホを操作するようにタッチやスワイプをすることで操作できる。


 今見える画面には職業選択という項目が表示されている。


 剣士、魔法使い、狩人……。


 小早志は画面をスクロールしていく。


 盗賊、格闘家、召喚士……。


 RPGでよく見る職業が並ぶ。


 さらにスクロールしていく小早志だったが、ふと手を止めた。



「……地球の救世主?」


『地球の救世主』という謎の職業。


 小早志は画面に映るその文字をタッチして詳細な説明を表示させる。


【この地球の平和を担う職業。輪廻の一部】


 と、画面には表示されたが、いまいち意味がわからない。


 ただ1つ言えることは……。



「かっこいい!」


 救世主、地球の平和、輪廻。


 この言葉が小早志の中に眠る少年の心に火をつけた。


 きっと、ヒーロのように強くてかっこいい職業に違いない。


 小早志はそう考え、興奮状態になりながら『地球の救世主』を職業として選択した。


 選択すると同時にピロリーンという音が聞こえ、そして目の前が真っ暗になった。


 しかし、すぐに目の前は明るくなり視界を取り戻すが……。



「ここはどこだ?」


 と、小早志が疑問に思ったように、今いる場所は先ほどの草原ではなく、小屋の中のような場所に変わっていた。


 状況を理解するため、小屋を見回すがここにあるのはベッドくらいだ。


「それならば!」


 小早志は小屋から飛び出し周囲を確認する。


「なにぃー!?」


 周りは緑の大群。


 見上げれば空。いつもより青が近い気がした。


 この小屋は樹木に囲まれており、そして標高が高い場所にある。


 つまり、山奥だ。


「いや、しかし、なるほどな」


 小早志は、急にテンションが高くなったり、急に冷静になったりすることがある。


 そう、熱しやすく冷めやすいアルミニウムのような男なのだ。


「とすれば、次は……」


 と言い、小早志がおもむろに手を前に出すと、ゲームチックな画面が目の前に現れた。


 そして、小早志はその画面にある【持ち物】という項目を選択し、現在の持ち物を表示させた。



【持ち物】

 シャベル



 小早志が持っているのはシャベルだけだった。


「……ふむ」


 と1つ呟き、次に自分の格好を確認する。


 上はTシャツで、下はジーパン。


 いたって普通の服装だ。


「……ふーん」


 小早志は何かを理解したような表情を見せた後、眉をひそめた。



「これのどこが地球の救世主だ!」


 ドカーン。


 想像とは全く違う現実(正確には仮想現実)に、小早志の怒りの感情が火を吹いた。


「地球の救世主って何なんだぁー!」


 感情のままに叫ぶ小早志だが、幸いにも周囲に人は居ないので変な目で見られることはない。


「さて、わからないときは人に聞くのが一番だ」


 やはり感情の起伏が激しい小早志なのだが、先ほども言った通りここは山奥で、周辺に人の気配はない。


 それゆえ、人に会うためには山を下って街まで行かなければならない。


 ここから街まではそれなりに距離があるし、この山はそれなりに傾斜があるから歩くのが大変だ。



 ――しかし、案ずることなかれ。


 この小早志。


 趣味は登山で、山を登ったり下りたりする事が全く苦にならない。


 そんなわけで、あっという間に街に辿り着いた小早志は、 適当に街の人に話しかけた。



「こんにちは」


「ああ、こんにちは。見ない顔だね」


「さきほど、あの山に誕生した者です」


「そうかい。それで何の用だい?」


「僕の職業が何なのか。それが知りたいんです」


「それなら最初に選んだだろ? 戦士とか魔法使いとか……」


「はい。僕は地球の救世主という職業を選んだのですが、詳細がよくわからなくて」


「地球の救世主?」


「はい。この職業の詳細を知りたいのですが、その様子だとあなたは知らないようですね」


「……そういうことなら万屋(よろずや)に行くといい」


「どういうことですか?」


「まあ、行けばわかるさ」


「わかりました。ありがとうございます」



 小早志は早速、万屋に向かった。


「こんにちは」


「いらっしゃい」


 万屋の店主が返事をすると、小早志の目の前に再びゲームチックな画面が現れ、買うことのできる道具が表示された。



【苗木A】

 80ジュルム

 地面に植えれば成長し、木となる。成長には3日かかる。



 表示されたのは、これだけだった。


 ちなみに、ジュルムというのがこの世界のお金の単位で、小早志は現在100ジュルム持っている。


「あの……剣とか杖は売ってないんですか?」


「ああ、それはだね、商品は君の職業に合ったものが自動的に選別されるようになっているんだよ。だからもし、君の職業が魔法使いだったら、杖の項目が画面に出てくるよ」


「なるほど。あの……僕の職業は地球の救世主なんですけど、どうして苗木が買えるんですか? 何の関係があるのでしょうか?」


「あー、君は地球の救世主を選んだのか。実はな、その職業は通称もりびと(・・・・)と呼ばれているんだ」

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