解放してあげなさいな。
「ご主人!」
「マスター!」
「主様!」
3人は、一戸を見ると飛びついてきた。彼が、必死にバランスを取らないと倒れてしまいかねないくらいに、しがみついてきた。
「ギャクも、オウも、ツウも、私は逃げないし、消えたりしないから、そんなにしがみつかないでくれよ。動けないし、倒れそうだ。」
とエヘラエヘラした表情で、本当は必死に表情を固く、キリッとさせようとしていたのだが、全く効果がなかったのである。
「メンテナンスの礼もしなければならないし。」
「嫌~。もっと臭いを嗅ぐ!」
「マスターのエキス不測。」
「主様の官職をもう少し。」
彼がこまっている?と、
「彼女達に変態的行為をさせていないで。ここが何処か、判断してもらいたいわね。」
3人は一斉に振り向くと敵意むき出しの態度を取った。一戸は、昔、彼の実家に通っていた野良猫兄弟が、彼に懐いて、その時も彼に庭でじゃれついていたのだが、知らない女性が、道から、多分猫好きだったのだろう、声をかけてきたら一斉に、“シャー!”と威嚇を始めたのを思い出した。
「よせよ。彼らには、無理をお願いしたのだから。」
彼は3人を離し、姿勢を正して、
「今回はありがとうございました。」
深々と頭を下げた。3人もそれにならって、頭を下げた。本来の担当である加藤は、慌てて、
「こちらこそ、研究にご協力いただいてありがとうございました。」
と頭を下げた。
「検査結果と私見は、後日、1週間後くらいにメールでお送りします。」
加藤の後ろ姿から佐藤が、彼を押しのけて前に出て、
「少し、お時間をいただけないかしら?彼女達の悩みについての見解をお伝えしたいの!」
睨みつけて、有無を言わさない感じで言った。
同意して、彼女に命じられるままに、3人を残して彼女とともに部屋に入った。彼女は、自分だけ椅子に座ると、
「彼女達の精神的苦痛の原因はあなたよ!」
断罪するかのようだった。しかし、彼女は、彼女達が、彼から廃棄されることになるを心配しているのだとは言わなかった。
「彼女達を解放してあげなさい!もう、引き受けてくれるボランティア団体に話しをつけといたわ。」
一戸は、少しの間黙っていたが、
「お断りするよ。私には彼女達しかいないのだから。彼女達が望むのなら別だが。」
彼女は、汚物を、見るような目を彼を向けた。
「彼女達のプログラムは、あなたのためにしか向けられていないのよ、それを言い出せるはずがないでしょう!彼女達しかいない?は~、女性に見向きもされないタイプよね、男と同棲すればいいでしょう?」
「女性が駄目だから男に、なんて言うのは真面目な同性愛の人たちに失礼だろう。」
もう嫌だ、という表情を返した。
「なんでそんなとき差別的なの?私の知人には、同性愛男性カップルがいるわ。あんたとは比べて、ずっと素晴らしい人達よ。」
二人は睨みあった。それに負けて、
「彼女達にあなたに対するマスタープログラムを削除させて頂戴。あなたにとっても、いい話よ。」
「嫌だね。」
そう言って、立ち上がって、一戸は背を向けて歩き始めた。
「やっぱり、あなたは彼女達を大切に思っていないのね。」
彼は歩みを止めた。
「どうして、そんな結論になるのかな~。」
「何を言っても分かってもらえないようね。彼女達のことは、保護したいと思っている団体に連絡してあるわ。後悔するわよ。」
「まるで脅迫だな。」
「セクハラに、ヘイトよ。」
彼の背に投げつけた。彼は、反論しようとしたが、諦めてまた歩き出した。そして、部屋から姿を消した。
「ふん、ゲス野郎!」
彼女は、最近手に入れた、他星系から密輸入された幻覚性植物のエキスの瓶を鼻もとに持ってきた。
「マスター!」
「ご主人。早く帰りましょう。」
「主様。我慢できなくなる。」
そう言って、抱きついてくるのを咎めることなく、
「ああ、分かっているさ。」
ひとかたまりとなって、彼ら4人は帰路についた。
「先輩…、何処に連絡を取ってあるんですか、ヤバイところじゃないでしょうね?」
“確実にヤバイ団体だ。善意と信じているだけ、さらにヤバイ。”だいたい察していたが、深入りすると困難な選択を迫られそうだったので、あくまで分からないふりを装った。彼女を信じたかったというところもあったが。
「何馬鹿なこと言ってるのよ。あ、そうだ、バーチャル・3D・リアリティ上の恋愛をしろと言ってやろう。それでも、」
彼女の言葉が聞こえないように、レポートと報告書の作成に没頭していた。