逆もまた真なり
「この野蛮人。私の夫を離せ!」
夫とは、チンパンジーである。キョロキョロと、自分の妻と叫ぶ女の方に不安げな視線をおくっていた。外見では、彼女もチンパンジーに見えるが違う。空港警備員に別々に連れて行かれる、二人を見送りながら、一戸は同僚の肩に手を置いた。
「あいつらこそ野蛮人じゃないか!」
ゴルルは、吐き捨てるように言ったが、一戸は、彼らの星系の人種問題に介入するつもりはなかったが、
「まあ、どこも同じだな。」
人間に似た生物を連れてくる地球人達も多いが、その逆も多い。
「次の検査にいくぞ。」
「ああ、分かっているさ。みんなが待っているからな。」
隣のターミナルに移動する。他の二人は既にきていた。
「一戸の専門よ。」
からかうような調子で、カナは舌をちょろちょろさせながら言った。
物件は、AI付きダッチワイフや等身大フィギュアの中古だった。他の星系の知的存在のこうしたものを集める、愛玩することが、各地で流行だった。この方面でも、変に凝った日本製は人気で、中古ですら引き合いが多い。その一方で、貴重な、AI機器等を取り外して、あとは捨ててしまい環境問題が発生する場合もある。そのため、新品か中古で動くものしか輸出が認められないと法律が改正されているのだ。
「通電、稼動検査の資料は提出されているよ。書類自体は問題点はないな。」
ピヨが、資料を画像に出して言った。
「ふーん。それなら問題点はなさそうだな。」
一戸はそう言いながら、並ぶダッチワイフ等を見まわった。何気なく見まわしていたが、ある場所でピタッと止まった。ツカツカと歩み寄り、顔を近づけた。
「おい、こいつは人間だ。」
一戸が叫んだ。人間だと分かったというより、AIダッチワイフ等ではないと感じたのである。すると、若い女が駆けつけて来て、
「そんなことはありません。私達は、中古品だけを、集めているだけですから。」
全く動揺も見せず、にっこりと微笑んだ。
「何かの間違いじゃないすか?」
その微笑みのせいか、和田が躊躇した。カナと多唐が足を思いきり踏んづけた。
「まあ、調べて何もなければ、かえって信頼かが増す、証明される訳だから、いいことじゃなかな。」
ピヨが、宥めるように言って、一戸と生体、DNA等の検査を始めた。直ぐに、人間の女だと分かった。号が空港特務警官に通報した。簡単に事情聴取をしたが、
「私達は、中古品だけを集めました。」
逃げようとするわけでもなく、声を、あげるでもなく、微笑んで続けた。それは、空港税額特務警察当局に連行される時も変わらなかった。彼らにも、丁寧に、頭を下げてから、特務警官について行った。
「逆もあるのね。」
ゴルルの方を悪戯っぽい目で見た。昨日は、不法輸出国され、シップバックされた廃棄AIダッチワイフ等の中に、ネオンを混ぜていた案件があったからである。その時も、発見したのは一戸だった。その時の輸入業者の男は、あたふたする、騒ぐ、怒鳴り声を上げても見苦しかったが。
「しかし、ゴルル。これはどういうことなんだ?」
「ネオンをペットにするのが最近の流行なんだが。その流れで、地球人はより高級なペットという発想なんだろう。」
「ゾッとする話しだが、分かる気もするな。これはいろいろ広がっているかもしれないな。」
一戸が思案気に言った。
「どの星系向けのダッチワイフにも気を付けないといけない訳か。ん…俺達型のダッチワイフも関係してくるか?」
「全く、男達は。」
「日本は、自分の需要から、技術を開発してきたから、それに技術のこだわりがあるから、あんたらの星に需要があるとはいっても、直ぐには対応出来ないと思うよ。日本以外で生産して、出されるやつだから、俺達の仕事にはならないんじゃないかな、当分は。」
「じゃあ、直ぐに見分けがらつくから、一戸ほどの変態は必要ないという訳ね。」
「おい、変態は酷すぎだろう。」
そう言って、4人は笑い合った。
「そう言えば、明日、彼女達を引き取る日なんだろう?」
「ああ、そうだよ。待ち遠しいよ。」
わざとそういう言い方をしたのだが、本心でもある。明日は土曜日で休日だった。
「だから、変態なのよ。でも、彼女達を大切にね。私も彼女達が好きよ。」
「お前も、オタクでやっぱり変態だよ。痛いよ!」
カナルがピヨの足を踏んだのだ。また、4人は笑い合った。