面談
「佐藤先輩。どうしたんですか?」
投影されている画面を見ながら、やはり投影されたキーボードと音声で入力していた加藤が、入ってきた女性に向かって言った。
「あんたの被験者はどうなっているの?」
部屋の隅にあるソファに、どんと乱暴に座った。“?”と思いつつ、
「気になりますか?」
超高級AI内蔵されているダッチワイフのAIメンテナンスの相談があったが、ダッチワイフという言葉に嫌悪感がでたのか、
「そんな物、科学の対象になるか。」
と言って、声を上げて拒否したのであるから。
「いいから教えなさい!」
仕方なく、彼女に現状を説明した。
「信じられないわね。AI相手に、口頭でのカウンセリングなんかかしているの?」
高飛車に、叱りつけるように言われて、流石に加藤も、断ったあんたには言われたくはないよ、と心の中で毒づいたものの、
「あまりにも人間的なんでね。人間相手と同じやり方のカウンセリングなら、と思ったんですが。それに、色々と分かりましたから。」
そう言って、彼女に未推敲の報告書の写しを彼女の前に出現させた画面を映し出した。意外なことに、それを読んだ彼女は、意外なことに、
「なかなか面白いわね。」
彼女は、大学院の藤原研究室に属してAIのメンタル研究で早くから評価される一方、AIメンタルコンサルタントとして、各企業から引っ張りだこだった。だから、今回の藤原教授の知人からの打診は、受ける余裕もなかったはずである。
「先生。私も加わってもいいですか?」
「え?」
「いいんじゃないか?加藤君もいいだろう?」
これでは、選択の幅がないじゃないか、と加藤は思ったが、反論しなかった。
「ちょっと今、悩んでるというか、いきずまっているところがあって、この案件になんかヒントがありそうなので。」
弁解するように言った。
「佐藤先輩が加わってくれると頼もしいですから。」
本音ではあったが、反面面倒くさいことにならないかと不安でもあった。
「マスター。寂しいです。」
3人は、本当は3体と言うべきだが、一戸の認識では3人になっている、寂しそうな表情で彼の前に並んで座っていた。
「私も寂しいが、どうしても、というから…。まあ、二泊三日だから我慢してくれ。」
彼女たちのメンタル・メンテナンスをたのんでいる大学の藤原研究室から、今までの面接カウンセリングでは不十分なので、大学の施設での泊まり込みでの検査が必要だと要請があったのだ。一戸が側にいない方がいい、とも言われた。特に、新しく加わった女性、業界誌でも名前が出ている人物だが、の態度が不安だったが、無料でやってもらっているので断れなかった。
「二~三日使えなくても大丈夫でしょう?」
「いつも身近にいる者が、いないと寂しいものです。」
そう言い寂しそうな顔をしている一戸を、心の中で加藤はフンと思った。
その日、3人というか、3体の到着を待っていた佐藤は、思いがけない訪問を受けた。
「佐藤さん。お客様ですよ。美人が3人!」
学生が、食堂でコーヒーを飲んでいた彼女を呼びにきた。
「そんなアポはなかったわよ。」
「でも、受付で今日検査ということになっていると言って、研究室を探して来たんですが?」
「とにかく行くわ。」
半信半疑で研究室に行くと、3大会が応接用ソファーに座っていた。
「何で…、いえ、どうやって来たの?」
「柏キャンパス駅まで列車で、後は徒歩で。」
オウが答えた。
「自分でやって来たの?」
「他にどういう方法があるのかしら?」
ギャクが、疑わしそうに尋ねた。実は、加藤は彼女達が、梱包されて送られてくるものと考えていたのだ。
「何かご不満?」
帽子で、悪魔の角を隠しているオウが疑うような眼差しで尋ねた。
「いいえ、予想より、早く着いたから。」
慌てて弁解した。
「そうですか。とにかく早く始めて、早く終わりましょう。」
長い耳を、やはり帽子で隠したギャクが素っ気なく言った。
「そもそも面談以外にということ自体が理解できませんわ。」
いつもの巫女姿ではない、落ち着いたワンピース姿のツウが不満そうに言った。
「本当の内心の声を知るためには必要なのよ。」
そういう彼女に、3人は疑わしいという視線を向けていた。
彼女達に反応器をつなぎ、目の前に、彼女らの状態の内容が画面に打ち出されると、加藤は何故か心が落ちついていた。加藤が質問すると、写し出される画面から彼女らの声聞こえ、画面にデータが表示された。彼女は、それを前にして、落ち着く思いを感じた。対面では、何故か、彼女は違和感や圧迫感を感じてしかたがなかったのである。
加藤は研究、仕事で行き詰まっているのではと思っているようだが、それは違う、と佐藤は心の中で断言した。順調そのものだ、現に企業からは業績が改善されたとの評価とお礼を言われ、依頼は次々きている。彼女は、あえて心の中で、問題はない、と叫んでいた。
しかし、そうではあっても、AIとの間での会話で、ここ最近、何か我足りない、自分がAIから非難されているという感じがしてならないのである。