不法投棄?
街なかを金髪の女がフラフラと歩いていた。外見は30代半ばに見えるが、整った顔立ちの美人である。一戸が、近づくと初めは警戒していたが、直ぐに気を許したように、彼に向かって微笑みを浮かべた。彼が大丈夫だよ、と言っているうちにバタッと倒れた。彼が、安心させている最中に、麻酔剤を撃ち込んだのだ。すると、後ろから、ピヨが、
「一戸は、妙に気を許してくれるな?」
「人徳と言え。どうだ?」
「メタル星系のルンバよ。でも、どうして?こんなところに一匹で。」
通報で急行したのだが、
「捨てられたんだろうな、若くなくなって。」
彼が吐き出すように言うと、
「酷いわね。まあ、テラ系だけに言えたことじゃないけど。」
カナが憤ったので、ゴルルも視線を外した。一戸はカナから視線は、外さず
「全く男というのは困ったもんだ。」
「女も同じだろう。」
ピヨが反論すると、カナがにらんだ。獲物を見る目に見えるのだが。それに臆することもなく、ピヨは
「また、人間型動物らしいのがうろついているから、そちらに急行しろってさ。」
「またかよ。今日は続くな。」
ゴルルが嘆くように言った。麻酔は一日はもつ。“女”を抱えて車の後部収納室に運び入れると4人は車に入った。場所は近くだったし、迷うことなくすぐ着いた。降りると、警察が、その“女”を保護していた。すぐ違和感を感じた。彼女は日本語を、壊れた録音機のように繰り返していた。
「ご主人様…」
静かに保護されていた。若い金髪の女に見えた。4人はすぐチェックを始めた。が、
「ネオンでも、ルンバでも、ビョウでもないわ。」
カナが首を捻った。
「何の反応だ?これじゃ…」
ペルロが検査機の画面を見つめながら唸っていると、
「ダッチワイフだよ、これはAI装備の。」
一戸の言葉に三人と二人の警官は息を飲んだ。
「まさか。とてもロボットなんて思えないわ。」
「へ~、これが。?」
「いや~、噂には聴いていたが、これ程のがあるとはな。」
ピヨロとゴルルが、興味深そうに見つめると、カナが睨みつけた。
「本当に、あなた方はこんなものにも手を抜かないわね。」
カナは褒めたのではなく呆れたのだ。
「AIリサイクル法は、ダッチワイフは対象外だから、一般廃棄物の不法投棄になるから、さいたま市の管轄だ。さいたま市の廃棄物担当に連絡を取るか。」
彼は警官に状況を説明して、さいたま市に連絡を取った。色々やり取りがあったが、さいたま市が廃棄物の不法投棄として回収するということになった。それを待つことになった。
「何で捨てられないのかな?」
「飽きたからだろうな。」
「身体は、精巧なのに言葉が単調だな。」
「まあ、やるときに反応するタイプだろう。高級品だが、その中では下だろう。」
「なんか、その上を知っているような感じだな。」
そんなやり取りをカナが呆れて見ていた。
その日の仕事が終わると、カナが
「今日は、一戸の家で飲まない?」
と言い出した。一戸は仕事以外での付き合いはいいほうではない。だが、その日は、意外なことに、それに同意した。
「ちょっと待ってくれ。君らが来ることを連絡するから。」
感応携帯のスイッチを入れた。彼が、頭の中で話をしている間、
「あいつ、独身だろ?」
「ああ、そのはずだぞ。」
「それが何で電話してるのよ!」
ヒソヒソ話す3人に、“話終わった”彼が顔を向けて、
「行けば分かるよ。」
「?」
彼は悩むような表情だったので、3人はそれ以上追及しなかった。さらに、そのやり取りを聴いて地球人の同僚二人が加わった。
「多少は準備させるし、飲む物はあるけど、絶対に足りないから、途中で好きな物を買ってくれ。自分が食べたい物、飲みたい物を食べられる、飲める量をな。他人のことを考えずに、自分の我がままで買ってくれよ。」
変なところに細かい男だった。うんざりしたいところだったが、今回は
「準備させる?誰にだ?」
という疑問というか好奇心から、黙っていた。職場の近くの駅から列車で30分、降車駅から徒歩15分で彼らの住む宿舎だった。途中のスーパーで各々の好物を買う。10棟以上が立ち並んでいるが、築年数にかなり差がある。ゴルル達異星人は新しい建物だが、一戸のはかなり古い棟だ。そのかわり広く、家賃が安い。警戒システムからの質問に、
「友人5人。」
と頭の中で答えると、入り口が開く。エレベーターがあるが、4階に彼らは階段を歩いた。環境省の職員だからだ。いよいよ、彼の部屋のドアが音もなく開いた。
「マスター。お帰りなさい。」
の声のあとに、
「エルフよ!やっぱり、いるじゃない、日本には!」
カナが感動の叫び声をあげて、ゴルルを掴んで揺さぶった。多唐と和田の目が点になった。彼らの目の前には、見事な長い銀髪の、長い耳が横に突き出た、ほっそりとした、アニメから飛び出してきたような、カナがよく知る、いわゆるエルフの美女が立っていた。
「主殿!準備できておるぞ。」
「お客様も早く上がって下さい。」
その後ろから、赤毛の角が二本出ている黒服の女性と黒髪の巫女のような和服を着た女が現れた。
「おい、これは?」
呆れるピヨに
「残念だが、AI付の超々高級ダッチワイフだよ。」
ぼそっと一戸が答えると、カナが一気にテンションが落ち、ガッカリし、今度は軽蔑するような視線を向けて睨みつけた。
「まあ、上がってもくれよ。話はそれからにしてくれ。」