私達は愛し合っているのよ!
宇宙空港内の到着通路を地球人の金髪の美男美女のカップルが仲睦まじい感じで腕を組んで歩いていた。ただ、男の目はおどおどするような感じなのが目をひいた。彼女が時々小声で話しかけていた。その前に、税関職員が立ち塞がった。
「サファリご夫妻ですね?お話を伺いたいので、こちらに来て戴けませんか?」
叮嚀な言い方だったが、あくまでも命令だった。彼氏は混乱した様子だったが、彼女の方は毅然とした感じで、
「理由と目的を言って下さい!」
税関職員は少し戸惑った。彼女が次の言葉を口にしようとした時、脇から、
「やはり、ラザフォード星のネオンだ。」
そこには、ゴリラが立っていた。いつの間にか、彼氏は拘束されていた。拘束しているのはトカゲのような顔をした奴と犬の顔をした奴だった。彼氏は、抗議の声を上げていたが、言葉になっていなかった。助けを求める表情を彼女に向けていた。
「私の夫に何をするのよ!」
その時、彼女の前にたちふさがった者がいた。彼女の前には、長身で、黒髪の男が立っていた。
「環境省、特別動物保護等調査官です。宇宙希少動物園保護法の希少動物の無届け持ち出しの疑惑で事情聴取させて下さい。拒否するのであれば、警察に直ぐ引き渡すだけですし、罰則があります。どちらにしても、後ほど警察に、引き渡しますがね。貴方はその際、弁護士と連絡がとれます。あのネオンは、環境省空港保護センターに一時的に保護いたします。」
男は冷たく告げた。
「何よ!止めてよ!私達は、愛し合っているのよ!」
“夫”が引っ張られていくのを見て女は叫んだ。女を押さえる男とゴリラに向かって,
「なんで,あんたはこんなゴリラやトカゲなをんかに味方するのよ!」
小さな部屋で、男とゴリラ、トカゲ、犬の4人を前にして、女は怒鳴りまくった。
各種簡易計測で、彼がラザフォード星の希少動物ネオンであるという結果がでたことを彼女に突きつけると、あっさりと認めたように、
「私達は、真に愛し合っているのよ。私には、あの人しかいないのよ。どうして、私達を引き離すのよ!猿やトカゲと結婚することが許されて、人間同士の愛がいけないの?」
「あれは、人類ではなく、ラザフォード星の希少動物、リオンなんですよ。」
男が指摘すると、
「あんた!ゴリラやトカゲになにもらっているのよ!彼は、ラザフォード星の人類よ。ゴリラたちこそ動物じゃない!どうして、彼らを獣から解放してあげないのよ?」
ある程度聞き終えたと思えたとき、空港警察を呼んだ。
しばらくしてやって来た空港警察官に女を引き渡した。女は、
「こいつこそ獣姦野郎よ!そのゴリラやトカゲとやっているのよ!」
と抗議した。警官は苦笑しつつ、彼らに敬礼して、その場を立ち去った。
「悪いな、あんなことを言わせてしまって。」
一戸が、ゴリラたちに頭を提げた。
「いいって、気にしていないというわけではないけど、俺の星でも同じことが言われるよ。」
ラザフォード星から出向して来ているゴルルが手を振った。
「そうよ。お互い様よ。あんたも私の星で同じことを言われたでしょう。」
「そうそう。俺の星では、同じ先祖から別れて、俺達が知的に発達して、彼らがそうでないか進化論的に当然の結果だと、君らは文明への進化と正反対に進化した系統だと完璧に説明されていたんだから。」
「同じね。私の星では、あなた方は文明とは相容れない進化形態だとなっていたわよ。お互い、進化論を驚いて修正しないといけなくなったものね。」
メタル星のカナが、長い舌をペロペロしながら慰めるように言った。一戸は、感謝するよ、というジェスチャーをすると、車の方に歩き始めた。すると、車の中からペルロ星のピヨが首を出して、
「別の仕事が入ったから、そっちに直接行けってさ。」
全員、あ~あと深い溜息をついた。
古典的SF名作「猿の惑星」で、人間は地球の猿程度の知性を持つだけで言語も持たないが、外見は美しく、主人公はその“雌”と結ばれている。現在、地球と行き来のある星系の多くに、そのような人に似た“動物”がいる。それらは例外なく希少動物として保護の対象になっている、現在では。その星系内での移動にすら、ほぼ禁止されている。星系外への持ち出しはなおさらであり、星間条約で厳しく禁止されているが、それを地球に持ち出す、つまり密輸が絶えない。他の希少動物の密輸と異なるのは、婚姻目的ということである。外見が、似ているだけに錯覚を起こし、恋愛感情を持ってしまい、連れ出してしまう。そうした需要を、当て込んで組織的に仲介したり、売りつけるブローカーも暗躍している。逆に地球のゴリラなど対して、ラザフォード人から同様な対象となっている。一戸達は、こうした密輸取引摘発ためのチームである。それが、どうして多国籍チームなのかというのは、やはり自分の星系の動物はよく分かるというのが理由である。