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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第6章 13.問題児アルテグラ

これよりしばらくアルテグラの過去回想編に入ります。

前話最後にクラリス視点で『私の知らない私の物語』とありましたが、実際には彼女の物語を含むアルテグラの物語となります。

序盤はやや説明パートが多めです。


 遡ること26年前……

 第14代ジオス王国国王アンガー・クレセント・ジオスは、王国城下から約200キロ北に離れた位置にある小村 “フォーク” に住む、少数民族デール族の掃討作戦を指示した。

 表向きは宗教紛争だった。

 彼らが信仰する畏神教は、邪破神という狂神が腐敗し尽くしたこの現世を滅ぼし、人間を原初からの創造活動に回帰させるという、終末思想に近い教義を持つとされていた。

 当時、ジオス城下で極少数ではあるがその教義に染まった者が確認され、それは月理教を国教とする王国にとっては由々しき事態であり、畏神教は国の平穏を乱すカルト宗教として位置づけられた。

 そして、王国に仇なす邪教徒討伐を理由にデール族討伐が行われた。

 しかし…、これはあくまで王国の大義名分と言うべき、表向きの理由である。

 少数民族であるデール族…、彼らは一方で魔導民族と呼ばれていた。

 彼らは生まれつき、他の人間よりも遥かに強大な魔素を持ち、広範囲攻撃術や転移術、蘇生術など…、今日ではすでに失われ、空想に過ぎないとも言われている大魔術を使役した。

 14代国王のアンガーは典型的な専制君主で、約50年にも渡る治世の間にその強権で自身の理念を次々と具現化していった。

 商業都市フェルトとの交易拡大や郊外地方の開拓などで国内の産業は発展し食料の流通も安定したが、一方で彼はジオスを強盛大国とすべく野心を抱いていた。

 彼が目を付けたのは西大陸最大の国家ガノン。

 ガノンは30年以上前に、ジオス王室と懇意にしていたガノン王室が市民革命によって打倒され、人民政府による支配が行われていた。

 よって、ジオスにはガノンを敵国とみなす十分な大義名分があった。

 また、ガノンとはフェルトの権益を巡っても対立しており、人民政府を倒せば港湾都市フェルトが生み出す莫大な権益を手中に出来る。

 ただ、魔術大国ジオスは世界最強の魔導部隊を擁するものの、一方のガノンは魔導工学が発展した技術大国…、今ある戦力だけでガノンと戦っても勝機はない。

 そこで、国王アンガーが目を付けたのがフォークに住むデール族だった。

 彼らの使役する強大な魔術…、それを戦力に組み入れることが出来ればガノンとの戦争に勝てると踏んだのだ。

 早速、王国は彼らに対して王国に服従と忠誠を誓い、その持て余す力を王国の発展振興のために役立てるよう命を出したが、彼らはそれを速攻で突っぱねる。

 王国側は非礼を詫び、その力を王国に供与する見返りに彼らの自治を約束し、さらに経済援助も申し出た。

 ところが、彼らはその申し出すら拒絶した。

 結局のところデール族は、彼らの強大な力が戦争の道具として利用される事態を恐れたのだ。

 そのために、彼らは遥か昔から何者にも属さずに永世中立を貫き、極力自給自足をして平穏に暮らして来た。

 だが、彼らの意思を理解した国王アンガーは、むしろ彼らの力が他の勢力に渡る可能性を懸念した。

 自分のものにならないのなら他の者の手に渡らぬようにいっそ潰してしまえ…、彼はそう考えた。

 これこそがデール族討伐の実の理由である。

 実際のところ、終末思想的な教義が彼らの根本教義であるという証拠は何一つなく、ジオス城下でその教義を信奉する者がいるという話もかなり胡散臭かったりする。

 とはいえ、真相を知るものは国王と彼に近い一部の重臣のみで、ジオス軍の兵のほとんどは “邪教徒討伐” という煽情的なプロパガンダに踊らされており、そのために兵の士気は非常に高かった。

 そして…、それは当時ジオス軍魔導部隊第1部隊長だったアルテグラ・ディーノ・センチュリオンも例外ではない。

 ただし彼の場合は、当時から魔術のことになると人並みならぬ関心を持ち、さらに若さもあって血気盛んで思慮も浅く、純粋に魔導民族デール族との戦闘という名の “交流” を待望しているようだった。



 こうして、魔導部隊所属の300人のうち約7割が参加、その他重装兵団や衛兵など総勢2000人を超える、大規模な討伐隊が編成され、フォークへ向けて派兵された。

 そのフォークへの道中、当時魔導部隊隊長であった現魔導教育学院学院長のティアード・グラン・ニローネはアルテグラに釘を刺すように忠告した。


「アルテグラ君、君はいつかはお父上の跡を継いで、センチュリオン家の次期当主になる身だ。くれぐれも無茶だけはするなよ? 」


「わかってますよ、隊長…。無茶までしなければ、好き勝手にやらせていただけるんですよね?」


「君ってやつは…」


 今でこそ厳かで冷静沈着なアルテグラだが、家督を継ぐ以前の若き彼は些か問題児だったようだ。

 討伐軍は順調に進軍し、フォークまであと数キロの距離に近付いたある日の夜更けのことだった。


 ドゴオオオオオンッ!!!!


 突如、アルテグラたちの数百メートル先で、けたたましい大爆発が起こる。


「うわあああああ!、助けてくれええ!!!」


 暫し遅れて、先頭を行っていた歩兵部隊の仰々しい悲鳴が澄んだ夜空にこだまする。

 なんと、デール族が先に仕掛けて来たのだ。


「いよいよ始まったか…」


 その光景を見て、アルテグラは血が(たぎ)るように興奮を抑えきれない様子で、唇を歪めて不敵に笑みを浮かべる。


「魔導部隊、来てくれっ…!」


 ついに前方にいた重装兵団から応援要請が入った。


「よし、お前ら先陣を飾るぞっ!」


 功名心に満ち溢れたアルテグラは部下を引き連れて真っ先に先陣を切ろうとするも…、それをティアードは厳しく咎める。


「応援部隊の編成は私が行う! 勝手な真似はするな!」


 ティアードにこっぴどく一喝されて…、アルテグラは親に叱られた子供のように渋々引き下がった。



 結局、アルテグラの部隊は、その場での応援部隊には選ばれなかった。

 しばらくして、ジオス軍魔導部隊とデール族との激しい魔術の応酬が始まった。

 アルテグラの位置からは戦況までは確認出来ないが、互いに放つ術の火力で漆黒の夜空は夕焼けのように朱色に染まり、術による強烈な熱波が何の変哲もない原野を瞬く間に命のやり取りの場へと変質させていく。

 その熱量に当てられたのか、湧き立つ血の気を抑え切れなかった彼は…


「お、おい、アルテグラ君、どこへ行くんだ!?」


「偵察ですよ、偵察っ! 無茶はしないんでご安心ください!」


 そう言い残して、ティアードの制止も振り切り、アルテグラは前方の戦場へと一人意気揚々と突っ走って行った。

 彼が駆け付けると、そこでは自軍の魔導士たちとデール族との熾烈な術の撃ち合いが繰り広げられていた。

 見たところ、戦局は拮抗しているようだ。

 しかし、ジオス側は100人以上の魔導士を動員しているにも関わらず、相手の数はせいぜい20人ほど…、一人当たりの戦力差は歴然だった。

 無論、アルテグラは自軍の劣勢という状況を突き付けられても怖気付くはずがない。

 むしろ、未知の圧倒的強敵を目の前にして、その戦意は本能の赴くままに疼いていた。

 そして偵察に来ただけだったはずのアルテグラは、徐に前線に向けて歩き出す。


「お、おいっ!、お前何してんだっ!? お前の隊は待機命令が出されてるはずだろ!、今すぐ戻れ!」


 応援部隊として出されていた他の部隊長の男がアルテグラに警告をするも、彼は全く聞く耳を持たない。

 すうっと豪快に息を吸い、気持ちを落ち着かせて気合を入れると……


「俺の名前は、アルテグラ・ディーノ・センチュリオン!、ジオス王国魔導部隊第1部隊長だ! この中で指揮を執っているのはどなたかっ! 是非、この俺と一対一でお手合わせ願いたいっ!」


 (よど)んだ場の空気を切り裂くように唐突にアルテグラから発せられた図太く気強い声は、遮るものがない平地に減衰なく響き、一瞬、双方に休戦を余儀なくさせるほどだった。


「お、おい…、お前何言ってんだ!? そんな勝手許されるわけないだろ! いくらセンチュリオンの長男のお前でも、懲罰は免れないぞ!」


 部隊長の男が再度アルテグラに忠告をするも、やはり彼は聞く耳を持とうとしない。

 デール族側も、「何故そんな茶番に付き合ってやらんとならんのだ…」と嘲笑気味に呆れ返っている様子で、彼の提案は問答無用で一蹴されるとその場にいる誰しもが思ったのだが…


「面白い…、ジオスの野蛮人どもにも酔狂な人間がいるものだ…」


 思わず興味をそそられるようにひっそりと言葉を発した後、威風堂々とした佇まいでジオス軍の面前に一人現れ出た人物…。

 肩に掛かる程度の白金色の髪に清く透き通った青い瞳…、中肉中背で厭味(いやみ)を微塵も感じさせない清爽な風体(ふうてい)…、それはアルテグラと同年齢ぐらいの優男だった。


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