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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第6章 1.王立魔導審査会

これより第6章です。

前章からやや時は過ぎて、約10ヶ月後の話となります。

クラリスがあの因縁の相手と決着を付けて自分自身と向き合う、彼女にとって分岐点となる重要な章です。

今章はバトル描写もあります。

 代わり映えのしない…、それでも平和で穏やかな尊い日々は徒然と過ぎていく。

 私がこの屋敷にやって来て、早3年目に入った。

 わずか2年数ヶ月の月日ではあるが、この家の成長期の子供たちは、その様相に幾分の変化が見られた。

 まず、私よりも背が小さかったリグは昨年辺りから一気に身長が伸び、いつしか私と同じぐらいの背丈になっていた。

 といっても、彼の童顔な可愛らしい顔付きはそのままで、中身に至っては全く変化が見られないが…。

 フェルカは10代後半に入って目元と鼻筋がやや際立ち、その柔和(にゅうわ)な美貌に拍車を掛けていた。

 それでいて、彼女の優しく包容力ある佇まいも健在で、むしろ母性が増したような印象を受ける。

 私の知らない、すでに亡くなってしまったこの家のお母様も、きっとこんな感じの素敵な女性だったのだろうか…。

 そして、未だ関係改善の兆しが見えないトテムだが、彼は18歳となりジオスでは一人前の成人とみなされる年歳になった。

 元々フェルカ同様、歳の割に大人びた顔付きだったが、さらに渋みが増してお義父様により似て来た感がある。

 ところで、18歳となったトテムには大きな試練が待ち構えていた。

 それが王立魔導審査会である。

 宮廷魔導士として王国に仕えるための試験ではあるが、王国一の魔導士一族センチュリオン本家の長男である彼には、首席かそれに準ずる成績での合格が実質的に義務付けられている。

 今年は特に当家と比肩する魔導士一族であるグラベル家とレジッド家の子息も受験するとのことで、トテムはこの頃より一層気が張り詰めており、いつもに増して刺々しい空気を(まと)っていた。

 グラベル家とレジッド家…、私がこの家にやって来てから、一度もその家の人々と会うどころか話題すら耳にしたことがない。

 同じ魔導士の名家として覇を競う関係であり、互いに仲が悪いのだろうか…?



 そんな審査会が近づきつつある、ある日の夕方だった。

 学院中等部の3年生になり、いつものようにリグとフェニーチェと一緒に学校から帰って来た私は、突如お義父様に呼び出しを受けた。

 多少の胸騒ぎを抱えて部屋へ行くと…、そこにはお義父様だけではなくトテムもいた。

 何事かと思いながらも、促されるままにソファーに腰を掛ける。

 一方のトテムも私がやって来ることを知らされてなかったようで、私が部屋に入ると、「何でお前がいるんだ?」とでも言わんばかりに一瞬顔を引きつらせる。

 私たちの軋轢などどうでも良いかのように、お義父様は私がソファーに座るとすぐに話を始めた。


「さて…、お前たち二人を呼んだのは他でもない。トテムよ…来週の王立審査会の準備は万全か?」


「はい…、全く問題ありません。センチュリオン本家の名に恥じない成果を収めて参ります」


「そうか…それは何より」


 お義父様とトテムは互いに表情一つ変えず、淡々と会話を交わす。

 そして一息置いて、お義父様が本題を切り出した。


「トテムよ、一つ頼みがあるのだが」


「何でしょう?、父上」


「クラリスを審査会に連れて行ってあげなさい」


 思ってもみないお義父様の『頼み』に、私もトテムも思わず呆気にとられる。

 彼は不服顔で食い下がるように、お義父様に真意を尋ねた。


「な、なぜですか?、父上。なぜ僕がこい…彼女を連れて行かなければならないのですか!?」


 さすがに動揺を隠し切れない様子のトテムは、私のことをお義父様の前で思いがけず「こいつ」呼ばわりしそうになったが、寸前で踏み止まる。


「推薦模擬審査に決まっておる。お前も15歳の時にそれで審査会に行ったであろう。忘れたわけではあるまい?」


「……確かにそうですが…。しかし僕は15歳の時でしたが、彼女はまだ14歳ですよ? 少し早すぎるのではないでしょうか…?」


「そんなことは承知の上だ。私が推薦するのだ、不服か?」


「い、いえ……」


 お義父様に静かに凄まれて…、トテムは苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せて押し黙ってしまった。


「そういうわけだ、クラリス。来週、トテムに付いて登城しなさい」


「あの…その推薦模擬とは何なのでしょうか…?」


「おお、それはすまなかったな。説明しよう」


 お義父様は本当にうっかりしていたかのように、彼には珍しく一言謝りを入れて説明を始めた。

 試験を受けて合否判定をもらえるのは18歳以上の成人だけだが、18歳未満であっても宮廷魔導士を親や師匠に持つ子は彼らのお墨付きを得れば試験を受けることが出来るという。

 とはいえ、あくまでお試しで試験に参加出来るだけであり、仮に合格水準に達していたとしても宮廷魔導士として召抱えられることはないので模擬というわけだ。

 しかしそれでも、自身の魔術の実力を客観的に測ることが出来るだけでなく、審査委員にその実力を誇示することが出来れば、数年後、王宮に入った際には便宜が図られることもあるらしい。

 そして、当家のような魔導士一家では、成人前に模擬試験を受けることは当然の慣習とされていた。

 ちなみに、模擬試験を受けられるのは一人一回のみである。

 毎年受けられるものではない。

 だからこそ、いつ受けるのかが問題となってくる。

 普通は、本受験の一年前の17歳の時に受けるのが一般的だ。

 しかし、トテムはそれを15歳の時に受けて、しかも余裕で合格圏内の成績を収めた。

 それは史上初の快挙として、当時の城内やその界隈で大きな話題となったらしい。

 それなのに…、私は今回、それをわずか14歳で受けようとしている。

 ガノンでの戦闘に参加したことが影響しているのだろうか…?

 お義父様の真意は全く知る由もないが、恐らくこれは断れない『頼み』なのだろう。


「わかりました…。お兄様に付いて行って参ります…」


 私は不安と疑念を抑え切れずそれを表情に出しながらも、素直に返事を返した。



 さて…、私はこのことをフェルカとリグとフェニーチェに伝えた。

 リグはそれを聞いて自分のことのように嬉しそうに、興奮覚めやらない様子だった。


「マジかよお前!、すっげえなあ…。この歳で審査会に行けるなんて、普通あり得ないぞ。もっと喜べよ!」


「う、うん…」


 リグの反応を見て、将来魔導士を志す者にとってはそれがとても名誉であることは理解出来たが、ならば尚更、何故私なのかという疑問が頭から離れない。


「なんだかよくわからないけど、すごいです、お姉様!」


 何だかよくわからないにも関わらず、フェニーチェは目を輝かせて羨望と憧憬の眼差しで私を見つめる。

 一方のフェルカは釈然としないようで、神妙な表情を浮かべていた。


「審査会ねえ…。確かにすごいことなんだけど、あれって確か実戦形式の試験もあるのよ? こんな小さい女の子を戦わせるなんてあんまりよ…」


「えっ…お姉様、戦いに行くんですか!?、嫌ですっ、そんなの…! わたし、優しいお姉様にはもうこれ以上、手を汚してもらいたくないのに…」


 フェニーチェは態度と表情を一変させて、浮かない顔で涙ぐみながら私の腰に顔を(うず)めるようにガッシリとしがみ付いた。

 しかしリグは…


「えっ、マジで?戦えんの? うおー、いいなあ、俺もいろんな奴と戦いたいぜ! 毎日、的相手に術ぶっ放してただけじゃ、体が鈍ってしょうがねえや」


「ちょっと、リグは黙っててっ!」


 一人興奮するリグに苛立ちながら、フェルカは珍しく本気の様相で声を荒げた。

 姉に叱られて口を尖らせながらふて腐れるリグを尻目に、彼女は話を続ける。


「まったく…私にはお父様のお考えがわからないわ…。とはいえ、あの方が言うことは絶対だものね…。お願いだから、無理しちゃダメよ? 絶対に無事に帰って来てね…」


「はい…お姉様…」


 未だ心の中で燻る欝屈とした思いに、フェルカとフェニーチェの物悲しげな表情が合わさって…、私は気が塞がる心地がした。 


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