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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第5章 12.波乱の予感

これより後半、リグとフェニーチェがメインのお話です。

第三者視点で進行します。

 一方のリグとフェニーチェ。

 クラリスがクラスの皆を打ち解けて充実した学園生活を送る中、彼らも各々学園生活を楽しんでいた。

 クラリスたちよりも数ヶ月先に編入し、初等部最上級生のリグは、その持ち前の粗暴さと人懐っこさで、学院初等部内では最大の不良グループを形成していた。

 もちろん不良と言っても、そこは良家の子弟ばかりが通う王立学校…、非行などの反社会的行為に走るわけでもなく、せいぜい学院内で騒ぎを起こす程度だが…。

 その現場を、アリアたち熱血派の教師に取り押さえられて鉄拳制裁を食らう…、もはや様式化された日々の学院の日常風景である。

 姉のクラリスも編入して来て変わったことと言えば、彼女の目の前では大人しくなったことぐらいか…。

 とはいえ、学院の癌になってしまっているのかと言えばそういうことでもない。

 頼り甲斐があり根は優しい彼は態度こそ粗野でぶっきらぼうではあるが、クラスの皆や下級生たちが困っていたら手を差し伸べる男気を見せ、実は他の生徒からの評判は良い。

 そしてアリアのように、そんな彼の人柄をちゃんと評価してくれている教師もいる。



 一方のフェニーチェ…、クアンペンロード一の文明国フェルトからやって来た彼女は、外の世界に憧れを抱くクラスの少年少女たちの関心の的だった。

 初めて教室に入り次の休み時間早々に、クラリス同様彼女もクラスの皆の質問攻めに遭った。


「フェルトってすげえ道が広くて、馬を使わないめっちゃ速い車が走ってるって本当か?」


「フェルトって海に面していて、デカい船がたくさん泊まってるんだろ?」


「人の力だけで速く走れる乗り物があるって本当?」


「フェルトの夜市って、街中が昼のように明るくてすごく賑やかなんでしょ? 私も行ってみたいなあ…」


 正直、フェニーチェは自身の生まれ故郷フェルトをあまり自慢したいとは思わなかった。

 彼女としては、古い街並みが残り伝統的な様式を踏襲するジオスの方が風情があり好みだった。

 フェニーチェが住む、この頃のフェルトの首都ウェルザは、街の中心部の至る所で再開発が進み伝統的な街並みが次々と破壊されていた。

そんな急激に街の姿が変わっていく激動と混沌に彼女は辟易としていたのかもしれない。

 しかしそこは計算高いフェニーチェ…、彼らのニーズを直ぐに察すると、多少の誇張も絡めながら流暢にフェルトの自慢を始めた。


「そうよ、馬なんかよりも全然速い魔燃料を使った車がビュンビュン走ってるの!、すごいでしょ!」


 クラリスたちがガノンで乗った魔燃料動力車…、実は同時期にフェルトでも開発が進んでいた。

 とはいえ、量産化にはまだまだ程遠く、フェニーチェが見たのはたまたま試運転で街中を走行していたものだろう。

 ビュンビュン走っているというのは真っ赤な嘘である。


「レバーを足で漕ぐだけで速く走る乗り物があるのよ。すっごく快適なんだから!」


 先の『人の力だけで速く走れる乗り物』の質問を受けたフェニーチェの回答。

 これはいわゆる自転車である。

 数年前にフェルトで開発され、その手軽さと利便性から瞬く間に普及した。

 とはいえ、お値段は一般市民の月収の半分ほど…、おいそれと気軽に買えるものではない。

 ちなみに、フェニーチェはあたかも自分が乗ったことがあるかのような言い草だったが、彼女は自転車には乗れない。

 子供用自転車がまだ存在しないからだ

 彼女にはプレゼンの才能があるかもしれない…、真偽を織り混ぜた彼女の口から次々と語られるフェルトのエピソードに、少年少女たちは各々の脳内でそれぞれのフェルトのイメージを形成していき、それに思いを馳せた。

 こうして、持ち前の社交性と図太さもあって、フェニーチェは編入初日で早くもたくさんの友達が出来る。

 そして、あっという間にクラスの女子たちの中心的存在となっていた。

 困っている子がいると、「まったく、しょうがないわねえ…」とボヤきながらもちゃんと手を差し伸べる…、そこはリグと同じ一族、世話焼きの特性があるのかもしれない。

 さて、クラスの女子皆からは慕われているフェニーチェだったが、一方で男子生徒の中にはそんなクラス内で目立つ彼女を毛嫌いする者もいた。

 まだ互いに性差の意識がはっきりしない年頃だ…、クラス内で粋がりたいヤンチャ小僧には彼女の存在はただ目障りだったのだろう。



 そんなある日のこと…

 いつものようにフェニーチェがクラスの女子たちを引き連れて廊下を歩いていると、クラスの男子グループとすれ違った。

 全く眼中になく、彼女たちがそのまま通り過ぎようとすると…


「おい、お前っ! フェルト出身だか、センチュリオン一族だか知らねえけど、調子に乗ってんじゃねえぞ!」


 突然、男子たちに絡まれて、連れの女子たちは思わず怯えるが、フェニーチェは違った。

 毅然とした態度で、凄む男子たちに立ち向かう。


「別に調子になんて乗ってないわよ。そもそもわたし、あなたたちなんて眼中にないもの」


「何だと!、てめえ女のくせに生意気だぞ!」


「なあに、わたしに嫉妬しているのかしら…? 男なのにみっともないわねえ」


 そう言って、フェニーチェはまるで彼らを挑発をするかように、蔑みで目を細めながらクスクスと笑った。

 するとその時だった…!


「てめえ、この野郎っ!」


「きゃあっ…!」


 キレた男子の一人がフェニーチェにガッと掴みかかり、そのまま押し倒したのだ!


「おい、お前、さすがにそれはヤバイって…、やめろよ!」


 仲間の男子生徒たちが制止しようとするも、激情に駆られた彼は全く聞く耳持たず、仰向けにされたフェニーチェの前腕を鷲掴みにして床に強く押さえ付ける。

 しかし…


「いやっー!、何すんのよっ、この変態!」


 負けじとフェニーチェは、器用にも膝で彼の股間を痛快に蹴り上げた。


「うぐっ…!」


 男にしか到底わからない激痛が男子生徒を襲う。

 彼がフェニーチェの体から離れ、彼女は立ち上がって体勢を整えるが…、次の瞬間だった…!

 突如彼女の右手が青く発光した。

 そして…


 ズオオオオンッ!!!


 フェニーチェの右手から放たれた魔弾が轟音を立てて、股間を蹴られて悶え苦しむ彼の足元に着弾した。

 その足元には、木材の床が無残にも焼け焦げた、直径20センチほどの弾痕が出来ていた。

 男子生徒はその衝撃に股間の痛みも忘れ、その場に尻餅をついて腰を抜かし、歯をカタカタと鳴らしながら恐怖で体を激しく震わせる。

 周りの生徒たちも、今さっき自分たちの目の前で起きた戦慄の光景にただ絶句し、時が止まったかの如く凍り付く。

 そして当のフェニーチェは…、「はあ…はあ…」と息を切らしながら冷や汗を垂らし、蒼白な表情で放心状態になっていた。

 魔弾の炸裂音と騒ぎを聞き付けて、担任のフェニス・ゲート・カンタレの始め数人の教師が駆け付ける。


「あんたたち、一体何やってる……こ、これは…!?」


 顔を真っ青にして項垂(うなだ)れるフェニーチェに、腰を抜かして動けない男子生徒…、そして酷く焼け焦げた床を見て、フェニスは恐る恐る彼女に尋ねた。


「フェニーチェ…、まさか、あんたがこれをやったのかい…?」


 フェニーチェは無言のまま表情も変えず、ただ重々しく頷いた。


「……ちょっと、先生と一緒に行こうか…」


 フェニスはこれから(のち)に起こるであろう展開を憂慮するように難しい顔を浮かべながら、フェニーチェを別室に連れて行った。


 


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