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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第5章 5.恐ろしき担任先生

「では、君たちには初日ということで、学校を案内しよう」


 学院長が私たちにそう告げると、彼は部屋の端に置いてあるガラス玉のような器具を操作し始めた。


(これは確か…、ガノンへ行く船内で見覚えがある…たぶん通信器具だ。誰かを呼んでいるのかな…?)


 私の予想通り、数分後一人の女性が入って来たのだが、その人は……


「先生…!?」


「やあ、クラリス、また会ったね」


 その人は、私たちの恩師、カンタレ先生だった!

 私がガノンに行っている間に、彼女は家庭教師を辞めたって聞かされていたが…。


「先生…、何故ここに…?」


「そりゃあ、リグはここに通い始めるし、あんたはどこか失踪するわで、お役ご免になっちゃったからねえ…。まあ、私はもともと教育庁の官吏だし、城勤めに戻っても良かったんだけど、あんたたちを見てて、このまま子供たちを教えていくのも悪くないと思ってね。それで、この学院に専任の教師として雇い入れてもらったのさ」


「そうだったんですね…。ごめんなさい…私の身勝手でご迷惑お掛けしてしまって…」


「いいのいいの、気にしないで!、こうやってまた会えたわけなんだから。それにしても、どこに行ってたかは知らないけど、本当に無事で良かったわあ…」


 私の身勝手な行いのせいで仕事を変えざるを得なくなってしまったというのに、先生は私のことだけを心配するように、他人(ひと)に比べて少し温かめの(てのひら)を頬にそっと当ててくれた。


「で、その子があんたたちの新しい姉妹(きょうだい)かい?」


「はい…名前は……」


「フェニーチェ・ヴィア・センチュリオンと言います…! よ、よろしくお願いします…!」


 私がフェニーチェの名を出そうとした途端、彼女はこれまでの沈黙を破るように、少し言葉に詰まりながらも勢いよく自己紹介をした。


「うん、ハキハキしたいい子だ。フェニス・ゲート・カンタレです。よろしくね?」


「はい、よろしくお願いしますっ!」


 初々しさは残るが快活で明朗なフェニーチェの言葉に、私を含む室内の皆の表情が綻んだ。

 こうして、私たちはカンタレ先生の案内で学校内を見て回った。

 屋敷内の書庫のとは比べ物にならない広さと蔵書数を誇る図書館…、全生徒が一度に食事をとれる大食堂…、小規模ながらも入念に手入れがされた庭園を囲む風通しの良い中庭…、厚い煉瓦塀で隔離されていて、中には標的用の的が整然と並べられた広大な魔術演習場…、簡単な運動が行える体育館…、不気味なくらいにケバケバしい色の薬品の入った瓶や器具が整然と並べられた実験室…、歴代の学院長の肖像画や功績を示すものが展示された資料室……

 どれも全て私の目には色鮮やかで新鮮に映り、私はこれからの学校生活に期待に胸を膨らます。



 先生による案内も終わって、いよいよ私は中等部2年生の、フェニーチェは初等部1年生の教室にそれぞれ向かうこととなった。


「じゃあ、フェニーチェちゃん…また後でね」


「はいっ、お姉様。お互いがんばりましょう!」


 フェニーチェはカンタレ先生に連れられて、調子良く元気一杯に自分の教室に向かって行った。

 一方、私の横に付いたのは…、長身でスラリとした30歳ぐらいの男性の先生。

 髪を七三分けに固めて眼鏡を掛け、細く鋭い冷淡な目をしている。


「はじめまして…、クラリス・ディーノ・センチュリオンと申します。よろしくお願いします…」


 まるでトテムを彷彿とさせる彼の風貌に少し畏縮しながらも、私は彼に頭を下げて自己紹介をした。

 すると…、彼は独り言を言うように、淡々と言葉を発した。


「センチュリオン本家の次女……、あの落ちこぼれリグの姉か…」


 その予期もせぬ言葉に、驚きと憤りが込み上げた私は、咄嗟に彼に意見する。


「リグくんのことを知ってるんですか!?、それにそんな言い方って…」


 しかし、彼は私の反応など意に介さず、話を続ける。


「落ちこぼれに落ちこぼれと言って、何が悪い? 私はリグの元家庭教師だ」


 リグの元家庭教師…?


(……思い出した!、確かリグは私が屋敷に来た時、カンタレ先生ではない別の先生に教わっていたけど、その先生が合わなくて泣きついて担当を変えてもらっていたんだった…)


 ということはこの人が…。

 それにしては、『頭ツルツルで厳つくてゴロツキみたい』という、当時リグが語っていた風貌とはえらい様変わりをしている…、というより別人のようだが…。


「まあ過去のことはどうでもいい。私は君たち中等部2年の担任をしている、マルコン・レイド・ビアンテだ。13歳にてガノン戦役に参加したという、君の実力を見せてもらおうではないか。さあ、行くぞ」


(何故それを…!?)


 私があの場にいたことは、戦役に参加した一部の人間しか知らないはずなのに…。

 その中の誰かがバラしたのか…?

 いや…箝口令が敷かれている以上、口外することは罰則対象だ…、軽はずみにそんなバカなことするとは思えない。

 何故知っているのか…、彼にそれを聞こうにも、私の知りたくなかった事実が明るみに出るのが怖くて、結局聞けずじまいだった。



 さて、教室の前まで近付くと、教室内からはガヤガヤと生徒たちが談笑している賑やかな声が聞こえた。

 ところが…、ビアンテ先生が教室のドアを開き、皆が先生の姿を確認すると…、思い思いに休み時間を過ごしていた彼らは、慌てふためいたように素早く各々の席に戻る。

 さっきまでの賑やかさが嘘であるかのように教室内がシーンと静まり返った。

 さらに、皆の関心の視線が一斉に私に向けて注がれる。


「皆、本日からの編入生を紹介する。では、センチュリオン君、自己紹介をしなさい」


「は、はじめまして…、クラリス・ディーノ・センチュリオンと言います。みなさん、よろしくお願いします…!」


 名字で呼ばれることに慣れていないため少々戸惑いながらも、私は皆の前で自己紹介をした。

 すると…


「センチュリオン…!?、マジかよ…」


「すげえな、ウチの学校にセンチュリオンの子供が来るなんて…!」


 私の自己紹介を聞いて、再び教室内が騒がしくなり始める。

 王国一の魔導士一家センチュリオン本家の子弟がこの学院に編入することは、その界隈ではちょっとしたニュースになっていた。

 ちなみに、リグは数ヶ月前からすでに通っているが、彼のとてもではないが名家の人間とは思えない粗野な言動に、今では学校中で彼をセンチュリオン家の子供だと意識する者は誰もいないのだという…。

 そして…


「ねえ、あの子、噂のガノンに行ってたという女の子じゃない…?」


「おー!そうだよ、間違いない!」


「この年で戦場経験とかすげえなあ、さすがはセンチュリオン…」


 なんと、私のことはこの教室中…、いや恐らく、学校中にも知れ渡っていた。


(一体どういうこと…? まさか…、この先生が言いふらしてる……!?)


 するとその時だった。


 バアァーンッ!!!

「静まりなさい!」


 先生が両手で机を強く叩き、抑揚はなく淡々と、しかし教室中に隈なく伝わる芯の通った声で皆を一喝した。

 途端に再び教室中が静まり返り、何とも居心地の悪い緊迫感が漂う。

 とはいえ、この手の緊張感は、いつも厳格なお義父様に接している私には慣れっこだ。

 むしろ、私は落ち着きを取り戻し、冷静になって教室中を見渡す。

 生徒数は私を除いて28人、男女比は7:3ぐらいか…、一定の経済水準以上の家庭の子ばかりなので、身なりは皆しっかりとしている。

 そうしていると…、一人の女子生徒の姿が私の目に留まった。



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