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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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最終章 閑話6.それぞれの20年後(ビッカ編)

 今やフェルトとガノンとの投資戦の主戦場と化し、成長が著しいモールタリアの首都ダスカ。

 そして街の中心部に位置する、無骨な意匠ながらも壮観な建造物…、この国の大統領府である。

 さてその一室にて、一人の女性が大統領直々に表彰を受けていた。

 年齢は30歳前後と思われるが、元気溌剌とした少女のような笑顔が愛くるしい。


「ビッカ・シュラベコ。貴殿の長年の文化活動における偉大なる功績をここに称え表彰する。モールタリア民主共和国大統領ゴメス・アラノイバ。おめでとうだっぺ」


「ありがとうございます!」


 そう…、彼女はクラリスとリグがモールタリアで出会い、短い間であったが共に旅をしたビッカだった。

 この大統領も当時モールタリア警察庁長官で、二人がヴェッタ入国までお世話になったあのゴメスである。

 名門劇団『レギーナ歌劇団』に入るために、一人故郷を旅立ったビッカ。

 長きに渡る修行と数多の経験を得て、今や彼女は世界にその名を轟かせるトップ女優となっていた。

 ちなみに表彰状上での姓『シュラベコ』…、これはビッカの故郷であるシュラベコ村から取ったものだ。

 『自分を応援して送り出してくれた村の皆の想いを背負う』という、彼女なりの矜持である。




 こうして格式張った表彰も終わり、予定時刻終了まで談笑に耽るビッカとゴメス。


「いんやぁ、君の舞台はとても素晴らしいっぺ。特にあの『雪の陽炎』でのダンスは、華麗な所作の中に熱い魂が顕れているようで、私は思わず感動して泣いてしまっただよ」


「ありがとうございます! そう言っていただけるとうれしいだぁ……あっ、ごめんなさいっ…、私ったら大統領の前で……」


「ええんだ、ええんだ、気にすることなかっぺ。君の前では私はただの一人のファンのおじさんだっぺよ」


 まるでマスコットキャラのような、真ん丸な風体をしているゴメス。

 そんな彼が見せる愛嬌ある笑顔に、ビッカの緊張も途端に和らぐ。


「それにしても君たち姉弟は本当にすごいっぺな。二人の弟さんはフットボールのフェルトリーグで大いに活躍してると聞いてるっぺ」


 ビッカの二人の弟コウとミヤ。

 リグが村の男子たちに伝導したフットボールは、いつしか周辺の村々をも巻き込んでモールタリア全土にまで普及した。

 初プレーですでにその才能の片鱗を見せていた二人は、その十数年後世界最大のプロスポーツであるフェルトリーグにスカウトされる。

 今ではチームの主力として第一線で活躍しており、特にコウは昨年リーグ得点王にも輝いた。


「はい。私も新聞であの子たちの活躍を知るのが本当に楽しみなんです。でも怪我さえせずにやってくれたらそれでいいと思ってるだぁ」


「うむ、確かにそれが一番だっぺな。ところであちこち巡業で忙しいとは思うっぺが、故郷のシュラベコ村には帰ったっぺか? 今あちらの方はえらい盛り上がっとるっぺ。何でもあの一帯で昔から湧き出とった謎の “黒い水” が、実はとんでもない可能性を秘めた新エネルギーだとかで」


「はい、3ヶ月ぐらい前に…。村の人たちは私のことを温かく迎えてくれたんですけど…、他所からやって来た人もいっぱいいて、見たこともない大っきな機械とかがあって……。まるで違う街のようになってただぁ…」


 久々に凱旋した故郷を語るビッカの表情は心なしか浮かない。


「ビッカちゃん、どうしたっぺ? 先ほどよりも何だか暗い顔をしてるようだっぺが…」


「はい…、5年前に亡くなった村の長老様がいて、その人が言ってたんです…。私たちが生まれる前にもガノンの人たちが村にやって来て、村は大いに繁栄したって…。でもその代わりに人々の絆は希薄になってしまって、そのせいで私の母も姉も死んでしまって……。正直な話、あの村での思い出はいい思い出だけじゃないだぁ…、辛い思いもたくさんしました…。それでも私はあの村の人たちが大好きで…、みんなには今まで通り平穏に幸せに暮らして欲しい…。だから二の轍を踏むようなことは絶対にあって欲しくなくて………ああっ、ごめんなさいっ…、私ったらまた余計なことを……」


「いんや、そんなことはなかっぺよ、ビッカちゃん。実は君と同じような憂慮を私も抱いているっぺ。今この国は無尽蔵に埋まっている天然資源を求めて、世界各国から資本が流入しているっぺ。だがその結果、各地で村々を巻き込んだ利権争いが発生してるだ。このままでは…、このモールタリアの大地は他国の資源争いの代理戦争の場と化して、いつしか分裂してしまうかもしれん…。元々この国は、多種多様な慣習を持つ村々が緩やかに連携し共存して平穏を保って来たっぺ。その長きに渡って続いて来た平和を何としても守りたいとこだっぺが、如何せん我が国には力がない…。発展のためには他国の資本や援助を積極的に受け入れざるを得ないのが何とももどかしいっぺ…」


 シュラベコ村周辺で湧き出る “黒い水” 。

 かつてその存在を知ったマルゴスもその可能性について熱弁していた()()()…、実は石油である。

 ゴメスが憂慮している通り、今このモールタリアの地ではフェルトとガノンとの熾烈な資源争奪戦が勃発していた。


「おっと…、私の方こそ陰鬱な話をしてしまって申し訳なかったっぺ。ところで君たち劇団はこの後世界巡業に出るんだったっペな?」


「はい。この後ガノンのエクノカ、フェルトのウェルザ、そして最後はジオスへ行きます。ウェルザまではこれまで行ったことがあるけんど、ジオスは初めてなのでとっても楽しみです!」


「それはよかっぺ。実を言うと私も1週間後にジオスへ出発するっぺよ。国賓として招かれていて、レイチェル女王陛下主催の晩餐会に、平民から首相になったというグリンチャー首相との首脳会談もあるっぺ。ジオスはフェルトから大規模な投資を受け入れているが、一方で政治的中立性は相対的に高いという…。今後の我が国が発展するに当たって、何か学び取れるものがあるかもしれん…。まあともかく、お互いに素晴らしい旅になるといいっぺな」


「はい、ありがとうございます!」



 ……………………


 そうこうして、大統領ゴメスとの有意義な時間が終わった。


(『素晴らしい旅』かぁ…。エクノカもウェルザも楽しみだけんど、やっぱりジオスへ行けるのが一番嬉しいだぁ。ずっと行くのを夢見てた場所だから…。なんたってジオスにはクラリスちゃんもリグくんも…、それにサーナ姉ちゃんが愛したというレーンって人もいる…。みんなに会えるかなぁ…、公演に来てくれるかなぁ…。私の成長した姿をクラリスちゃんたちに見てもらいたいっぺ。本当に楽しみだぁ!)


 まだ何も知らないビッカ…。

 クラリスたちと出会ったあの頃のままに、無垢なときめきを胸にしまって大統領府を後にしたのだった。


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