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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ


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最終章 閑話3.それぞれの20年後(ランス、シュランク編)

 センチュリオン本家に次ぐ名門魔導士一族レジッド家。

 無論、魔導士受難の今の時代において、それは “元” の話に過ぎない。

 だがそれでも、何百年もの重厚な歴史に培われたブランドは、決して逆風程度では沈まなかった。

 フェニーチェを通じてのフェルトとの事業も軌道に乗り、レジッド家は依然名家として名を馳せている。




 さて、ここはレジッド邸内の執務室。

 中央奥の執務机には、山盛りの書類に顔半分まで遮られた現当主のランスがいる。


「旦那様、今年度第二四半期の海運事業における収支報告書です。ご確認をお願い致します」


「うむ、ご苦労。いつもすまぬな…」


 哀愁漂う疲れ切った顔と声で、報告に来た使用人を労うランスであったが……


「ところで…、実は旦那様…折り入ってお話がございまして……」


「何だ?、『話』とは…」


「はい…、来月辺りにお暇をいただけないかと思いまして……」


「な、何だとっ…、何故だっ…?、何か私に不満でもあるのかっ…。頼むっ…、お前がいなくなってしまったら私はっ……。お願いだっ、考え直してくれっ…!」


 深刻そうな表情を浮かべる使用人の様子に、ランスは彼がレジッド家を辞めようとしていると思い込んだ。


「ち、違いますっ…、そういうことではありませんっ…。そうではなくて、家族で1週間ほどフォークへ旅行に行こうかと…。ちょうどフォークへの鉄道路線も開通したことですし、子供を列車に乗せてあげたいんです。ただ今は決算期で多忙な時期ですし、ただでさえ旦那様は苦労をされているのに申し訳ないと思いまして……」


「なんだ、そんなことか…。構わん、私のことなど気にせずゆっくりして来なさい。フォークは風光明媚で温泉もたくさんあり、海に山の幸も美味い。休養にはとても良い場所だ。しっかりと家族孝行をしてくるといい」


「はいっ、ありがとうございます!」



 ………………………



「はぁ……」


 使用人が去って再び一人となった執務室で、ランスは深いため息を吐いた。

 何故ならば、彼の年齢と息子ブリッドの年齢を考えても、とっくに当主の座を降りて悠々自適の隠居生活を送っているはずだったからだ。

 趣味の狩猟や山歩きを思い存分楽しんだり…、疲れたらゆったりと書斎で読書に耽たり…、あるいは先の使用人のように、出来たばかりの鉄道で旅行に出かけるのもいいだろう。

 しかし、現実は眼前すらも埋め尽くす書類の山々…。

 家を放ったらかしにして芸能活動に明け暮れる愚息のせいで、ランスはなおも老体に鞭を打って働かなくてはならなかった。

 せめてもの気晴らしにと、室内のラジオのスイッチを捻るランスだったが……


“はーい!、親愛なる僕の子猫ちゃんたちこんにちわー。今日もあなたのハートにズッキューン!、ブリッドだy……”


 ラジオ越しの息子の声が終わるのを待つことなく、ランスは衝動的にスイッチを切った。




 そんなこんなで悶々としたまま仕事を続けるランス。

 するとその時…


「旦那様、レジッド家の御当主シュランク様がお見えになられました」


「おおっ、来たかっ。通してくれ」


 使用人から一報を受けて、草臥(くたび)れたランスの表情が心なしか華やぐ。

 悲しいかな、今や週に2、3度の盟友の訪問だけが彼の憩いの時間なのだ。


「こんにちわ、ランス殿。おお…、これはまたえらい抱えてますなぁ…。早速手伝いましょう」


「いつもすまんな。しかしお主のところも決算期で大変だろう。大丈夫なのか?」


「ええ、ウチはトラストがこの手の事務仕事は得意分野なので。それにマリンも手伝ってくれてますし。むしろ僕の出る幕が無さすぎて、頭も体も鈍ってしょうがないですよ」


「そうか…、それは羨ましい限りだな…」



 ………………………


 こうして二人がかりで仕事を熟し、一段落したところで休憩に入るランスとシュランク。

 だがそんな中でも、ランスの息子への恨み節はなおも続く。


「かつては魔導審査会でアルテグラの息子を打ち負かして首席となった我が息子を誇りに思っていたが、最早そんな過去など犬の餌ほどの価値もない…。私にも、お主のとこのトラスト君のような子がおればな…。もう一人作るべきだったか……」


「まあまあ…、そんなこと言うものではないですよ。ブリッド君だって頑張っているではないですか。今や芸能も立派な仕事です。それにお金の話ではしたないですが、彼一人が生み出す収益はこの家の収入にも匹敵するのではないですか?」


「金の問題ではないっ…。あやつがグラベル家の嫡男としての責務を放棄しておることが由々しき問題なのだっ。このままではっ…、私がいなくなったら、このグラベル家はどうなってしまうのか……」


「うーん…、言いたいことはわかりますが………あっ、そうだ!、ではこうしてみてはどうですか? むしろブリッド君をこちら側に取り入れるのです」


「『取り入れる』…?、どういうことだ…?」


「グラベル家でブリッド君の役者としての活動を全面的に支援するんですよ。さらには彼の知名度やコネを最大限に活かして、芸能関係の事業に打って出るんです。ジオスではこういった娯楽産業はまだまだ発展途上ですからね」


「はぁ…、お主はその純朴そうな顔に似合わずとんでもない頓珍漢なことを思い付くな。そんな馬鹿げたことが出来るわけ………ん……」



 ………………………



“ブリッドの『なんでもやってみるコーナー』!、わぁ!、パチパチパチっ…。今日はペンネーム『もふもふくーちゃん』さんからのリクエストで、なんと熱湯風呂に挑戦してもらいまーす! えー、この僕が裸になるのぉ?、声だけでしかお伝えできないのが……”


 休憩を経て、再び山積みの書類と格闘するランスとシュランク。

 そんな親の苦労など全く知る由もないであろう愚息の声が、延々と執務室に響いていた。




 さて数ヶ月後、ランスはブリッドと腹を割って話をし、彼の芸能活動を支援する会社を設立する。

 そして遥か未来…、それは世界有数の芸能プロダクションへと伸し上がることとなるのだが、これはまた別の話である。


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