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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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最終章 閑話1.それぞれの20年後(トレック、ライズド、スコット編)

突然ですが、ここからしばらく特別話が続きます。

本編に組み入れることが出来なかった、各登場人物のその後のエピソードです。

それらが全部終わったら、いよいよ最終話投稿を予定しています。

 大いなる発展を遂げ続ける新都心地区。

 10階以上の高層建造物も今や珍しくもなく、舗装された道路を我が物顔で突っ走る自動車も最早日常風景だ。

 (いにしえ)の姿を今も悠然と残す旧王都地区とは対照的に、変革という激動に身を置くこの国のダイナミズムを見事に体現している。




 さてある日のこと…、ここは新都心繁華街のとある酒場。

 カウンターではなくテーブル席で、一人の男が酒をちびちびと飲んでいた。

 すると…


「おいっ、遅えぞ、ライズドっ。こんな席でずっと一人酒なんざ、恥ずかしいだろうがっ」


「悪い悪い…、ちょっと取材が長引いちゃってさ…」


 そこにやって来たのは、20年経って小太りから肥満体へと進化したライズド。

 そして彼を待っていた一人酒の男はトレックだった。

 相も変わらずチャラい容姿。

 ただ筋肉質の肉体はより一層引き締まり、程良く陽にも焼けていて様になっている。

 こうして、続々と料理も注文して酒盛りを始める二人。


「取材ってまた雑誌か何かか? いいねえ、お前は。店も大繁盛してこんなデブなのに可愛い嫁さんもらいやがってよぉっ。幸せ太りか、この野郎っ」


「そんな言い方すんなよ…。ここまで店を軌道に乗せるのに俺だって苦労したんだぜ? あいつはそんな俺をずっと一途に支えてくれたんだぞ。それにお前だって、仕事の方は順調そうじゃないか」


「そりゃあ、今この街は建設ラッシュだからな。うちみてえな零細の土建屋でも食うには困らねえけどよぉ」


 魔導部隊が解散となり、ライズドは趣味のスイーツ店巡りが高じてケーキ屋に、トレックは小規模な建設会社を営んでいる。


「でもよぉ、やっぱり納得が出来ねえよなぁ…。俺たちと一緒に戦ったあのビバダムが今や一国の首相なんだぜ?、ヴィット(あのクソ野郎)は軍のトップだしよぉ…。なのに俺らは魔導部隊って居場所もなくなって国からも見捨てられ……。こんな仕打ちあんまりだと思わねえかっ?」


 酔いが回って来たせいか、感情の吐露が激しさを増すトレック。


「おいおい…、滅多なこと言うもんじゃないよ。お前だってあの時、レイチェル様の苦渋の決断に賛同したじゃないか。恩賞金もそれなりに貰ったわけだし。それにさ、俺はあのアルゴンとの戦いで腕を斬られて、その後アイシスさんの治癒で元通りにはなったけど、後遺症で魔術が全然使えなくなってしまった。お前だってノポリーの副作用で昔と同じようにはいかないんだろ? どっちにしたって仮に魔導部隊が存続してたとしても、俺らはもう魔導士を引退するしかなかったんだよ…。そう考えたら、むしろこういう時代になってくれた方が、俺らもまだ気が楽ってもんだろ?」


「まあ、そう言われてみりゃあそうかもしんねえけどよ…。でもうちの会社の若い奴らに『俺、あのビバダムと親友なんだぜ』とか自慢してやっても、あいつら『社長、頭でも打ったんっすか? 病院行った方がいいっすよ』だぞっ? その惨めさがわかるかっ、ちくしょうっ……」



 ……………………


 実質トレックの愚痴披露の場と化してしまったものの、中年男二人の “呑み” は続く。


「ところであいつはいつ来るんだよ?」


「ああ、誘ってはいるけど、来れるかどうかはわかんないだろ。何たって嫁さんの束縛が激しいらしいしな…」


「ふーん、あいつも苦労してんだな。逆玉は羨ましいけどよ。それにしてもまさかあいつが教え子とねぇ…」


 話題が “誰かさん” の話に入った、ちょうどその時…


「トレックさん、ライズドさん、遅れてごめんっ…」


「おおっ、どこの誰かと思えば、教え子を誑かして見事逆玉に乗ったスコットじゃねえか」


「人聞きの悪いこと言うなよっ、トレックさんっ…」


 そう、二人が噂をしたと同時にお約束のように現れたのはスコット。

 そしてなんと…、彼は教え子のソラと結婚して婿養子になっていた。


「まあまあ、そう怒んなって、(わり)(わり)い。とりあえず飲めよ」


「トレック…、お前冗談でも言っていいことと悪いことがあるぞ。本当久しぶりだなぁ、スコット。それにしてもお前が教え子と結婚したって聞いた時は驚いたよ…。確かソラちゃんだっけ?、一体、何でそんなことになったんだ?」


「うん…、元々の原因は彼女が生徒時代から僕に好意を持ってたからなんだけど、発端となったのはまた別の話で…。うちは魔導士一家で両親もかつては王室に仕えてたんだけど、あの時以降魔導士として食えなくなってしまってね…。それで僕が教師として働きながら家計を支えてたんだけど、ある時なんか怪しげな人物から事業を進められて、言われるがままにそれに手を出してしまったんだ。でも上手く行くはずもなく、借金がどんどん膨れ上がってしまって…。もう首を吊るしかない…、そう観念した時に妻のお義父さんが融資をしてくれたんだ。そのおかげで借金も返せて何とか助かったんだけど、その直後にお義父さん直々に僕を婿養子に取りたいと申し出があってね…。そうなると…もう断れるわけがないだろ…」


「えっ…?、じゃあ何だ、お前借金の形に売られたってことかっ…?」


「流石にその言い方は語弊があるけど…、でも完全に否定も出来ないというのが悲しいとこだね…」


 相当婿生活に苦労しているのか、スコットのげんなりとした表情からは諦観すらも感じられた。


「おお……、ま、まあ、せっかく久々にあったんだからよぉ、暗い話はやめようぜ…。さあ、じゃんじゃん好きなもん頼めよっ…。今日はこの優しい先輩たちが奢ってやるからよ、なあライズド?」


「あ、ああ…、まあとにかく元気出せよ…」


「よ、よっしゃぁっ、景気付けにこの後風俗行くぞっ〜! おい、お前ら、今夜は帰さねえからなっ!」


「お、おいっ、ちょっと待てよっ…。俺家で嫁が待ってんだけど…」


「うるせっー、可愛い後輩と嫁とどっちが大事なんだっ、てめえっ」



 ………………………


 そんなこんなで、途中から『スコット君を励ます会』となってしまった三人の飲み会。

 彼らはかつての悪友そのままに、夜の街へと消えて行くのであった。


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