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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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最終章 13.20年目の集い

 それから数十分後、さらに団体が大型馬車で屋敷玄関前に降り立った。

 ちなみに、すでに新都心では自動車が移動の中心であるが、この旧王都地区では道路事情によりまだまだ馬車が現役で活躍している。


「お久しぶりです、お父様、お母様、お兄様…。それにアルライト叔父様にアセラ叔母様も…、遠路遥々お越し下さいました」


 やって来たのは、まずはエクノス、ペリア、バラッド…、それとアルライト、妻アセラ、アルタス、さらには彼の婚約者…、フェルト組の面々だった。

 そしてそのアルタスの婚約者というのが…


「お久しぶりね、カレラ」


「ええっ…!?、本当にあのフェニーチェちゃんなのっ…?、(うっそ)でしょっ?」


 フェニーチェの初等学校時代からの友達カレラ。

 眼前の淑女が、記憶の中の見栄っ張りな御転婆娘と同一人物であると、俄には信じられない様子だ。


「だって、もうあれから20年以上も経つのよ?、流石に人間成長するわよ。それにしてもまさか、あなたがアルタスと結婚するだなんて…。アルタス?、カレラのこと不幸にしたら絶対に許さないからねっ?」


「う、うるせーっ…、絶対に幸せにするに決まってんだろうがっ。大きなお世話だっ」


(こいつは昔から何も変わんないわね…。でもまあ、これなら大丈夫そうかな)


 カレラの前で照れ臭そうながらも必死になるアルタスの様を見て、フェニーチェは安堵の笑みを浮かべた。

 ちなみに、アルタスがカレラに惚れた理由…。

 それは10代半ばの年頃だった彼女に、あのリグちゃんの面影を見たからである。





「フェニーチェ、元気でやっているか?、本当に立派になったもんだ…。 レーン君もいつも娘がお世話になっているね」


「いいえ、むしろ彼女の方がしっかりし過ぎてて、僕の方が尻に敷かれてる状態ですよ」


「はははは、そうかそうか。気の強い嫁さんをもらうと互いに苦労するねぇ、あははは…はは……」


 何気なく婿のレーンと話を交わすエクノスだが、背後からペリアの刺々しい視線を察して表情が引きつる。


「お、おほん…、と、とにかく上手くやっているなら安心だ…。なあ、バラッド」


「ええ、本当に…。フェニーチェ、本当に頑張ったな。僕は兄としてお前のことを誇りに思うよ。レーンさんも、いつも妹を支えて下さってありがとうございます」


「いやいや…、そんな大層なこと出来てないって…。ところでバラッド、もうお前も結婚してるんだよな? 今日嫁さんは連れて来なかったのか?」


「はい、実は妻は船が大変苦手で…、ジオスまで数日の船旅になってしまうので連れて来れなかったんです…。フェルトとジオスが鉄道で結ばれれば、妻も安心してジオスに来ることが出来るんですけどね。この旧王都地区を一生に一度は訪れてみたいと、彼女も言ってますし」


「そうか…、こりゃあ責任重大だな」


「え?、『責任重大』ってどういうことですか?」


「あ、いや、何でもないさ…」



 ………………………


 こうして思い出話にも花を咲かせつつ、一同は久々の再会を喜び合う。

 さて、皆が一堂に本家邸に集まった理由…、それはフェニーチェの呼びかけによるものだった。

 アルテグラの代までは数年に一度、センチュリオン一族がこの場に集まって盛大に饗宴が行われていた。

 最後に開催されたのは今から24年前…、そう、クラリスが皆の前に初お披露目したあの日である。

 フェニーチェは本家当主として、遠く離れた一族皆が集える宴の場を復活させたかったのだ。

 そしてまたそれは、クラリスとリグの死という悲劇を乗り越えて20年目という、節目としての意味もあった。

 ちなみに、廃絶寸前だった本家を取り仕切り、フェニーチェに見事バトンを繋いでみせた功労者ティアード。

 彼は5年前にフェニーチェに家督を譲った後、その2年後に死去した。

 皆の深い悲しみに包まれてこの世を去ったティアードだが、その旅立ちの顔はとても安らかだったと言う。

 ところでフェニーチェ…、和気藹々(わきあいあい)と談笑に耽る一同を側から見ながら、ふと物思いに沈んでいた。


(そう言えば、私がターニーと初めて会ったのもあの時だったなぁ…。お姉様たちの死を知らされたあの日、私あの子にあんな酷いこと言ってしまった…。あの子のことだからきっと笑って許してくれるだろうし、もしかしたらもう忘れちゃってるのかもしれないけど、私はあんなことを言ってしまった自分が今でも許せない…。あの子…今どこで何をしているのかしら…)



 ………………………



「それでは皆様、立ち話はこれぐらいにして、中へとご案内致しますわ」


 フェニーチェが皆を屋敷内へ招き入れようとした、その時だった。


「お義父様っ、お義母様っ、来てくださったんですね」


 彼女が『お義父様』と呼ぶ人物…、それはレーンの父となったマルゴス。

 そして『お義母様』と呼んだのはなんと…


「おいおい…、『お義母様』は止めてくれよお前…。アタシとこの人は籍も入れてないんだからさぁ…」


「いつも父がすいません…、アリアさん」


 20年前…、あのグアバガとの一戦で共闘したマルゴスとアリア。

 それをきっかけに完全に意気投合した二人は、いつしか互いの人柄に惹かれ合い、ついには同棲を始めるまでに至る。

 だが、その関係がそれ以上発展することはなかった。

 実はマルゴスにはアリアへの思慕があるにはあったのだが、歳の差のせいもあって、彼はあと一歩をどうしても踏み出すことが出来なかった。

 一方のアリアはアリアで、友達以上恋人未満という程良い距離感が、妙に彼女の性に合っていたようだ。

 結婚どころか肉体関係すらない…、側から見れば何とも奇妙に映るが、当の本人たちにとっては安気な共同生活。

 ところが、そんな二人の生活にも微妙な影が落ち始めていた。

 それは…


「はぁっー、僕ぁこんなことやってる暇はないんだがねぇっ。ほれレーンっ、早く大学に戻るぞっ。お前もまだ研究論文を提出していないだろう? しかし朝食はまだかねっ?、いくら何でも遅過ぎやしないかっ?」


 なんと皆の前で、支離滅裂な言説を撒き散らすマルゴス。

 齢70近くとなった今、彼には徐々に痴呆の症状が表れていたのだ。


「こ、こらっ、父さん…。フェニーのご両親もいるのに失礼だろうっ…?」


「はははは…、気にしなくていいよ、レーン君。僕とこの人とは旧知の仲だからね。お久しぶりですね?、マルゴスさん…。お元気にしてますか?」


 実はすでに事情を知っていたエクノスは、子供をあやすようにマルゴスに声をかけるが……


「あー?、誰かね、君は? ああ…、近所の煙草屋の店主か。君んとこのタバコはどうも吸い心地が良くない。まさか、湿気った物を安く卸して売ってるんじゃないだろうね?」


「………………」


 エクノスは返す言葉もなく、ただ苦々しく作り笑いを浮かべるしかなかった。


「それにしても最近の若いもんは軟弱でいかんなぁっ。勉学も結構だが、時には危険を冒してでも巨敵に立ち向かわなくてはならんっ。かくいう僕も車を飛ばしてドカンッ、ドカンッとな……あの時は楽しかったなぁ、なあアリア………アリア?…どこへ行ってしまったんだっ……この僕を置いてっ……」


「父さんっ、いい加減にしろよっ…!」


 なおも妄想に囚われて喚く父の姿に、つい言葉も荒くなってしまうレーン。

 だがその時…


「大丈夫だよ…、アタシはどこにも行かないよ…。ずっと死ぬまで…アンタと一緒にいるよ…」


 アリアはそっと強く、背後からマルゴスを抱き締めた。


「なんだアリア…、そこにいたのかね。そうだな、君がこの僕から離れて行くわけがないからな、ははははっ」


「ああ、そうだね…」


 大層上機嫌に笑うマルゴスと対照的に、とても心悲しそうに微笑むアリア。

 小皺が目立ち始めた彼女の表情が、より哀愁を増しているようにも感じられる。

 そんな二人が紡ぐ奇妙で切ない “愛の物語” に、皆は何とも形容し難い神妙な気持ちにさせられるのだった。



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