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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第25章 58.ターニーキレる

「何ということだ……王城が……」


「ああああ……そんな……」


 レイチェルたちの眼前に無慈悲に突き付けられたもの…。

 それは何百年もの長きに渡り王国の象徴として君臨して来た、ジオス城のあられもない姿だった。

 城郭のおよそ半分が、球体の衝突で壊滅し瓦礫の山と化していた。

 さらには城内の各所からは、天をも突く勢いで燃え盛る巨大な火柱が上がっている。


「一体何なんだ、あの炎は……。王城は石材で建てられているはずだ。あんな大火が起こるはずはないのだが…」


「もしかすると、グアバガの力がまだ残っていたのかもしれません。その残滓が炎として発露しているのかも…」


「確かに、あの炎、よく見ると普通じゃないですね…。なんか黒みを帯びているというか……。それに自然発火だったら、あんな怒りに狂ったような燃え方はしませんよね…」


 崩れ行く王城を眺めながら、淡々と意見を交わすヘリオとアンピーオとブリッド。

 すると…


「三人とも何を悠長なこと言ってるんですかっ? クラリスとリグがあの中にいるんですよっ!」


「そうですよっ、あの子たちを助けに行かないとっ…!」


 戻っていたアリアと、衰弱した脚で彼女に支えられて立つシエラが、必死の形相で彼らに訴える。


「お、落ち着きなさいませ…、シエラ様…。アリアも落ち着け。あの状況では、とてもではないが城に近づけないだろう…。火山の中に足を踏み入れるみたいなもんだ。残った部分もいつ崩落するかもわからない。とりあえずは様子を見て、救助のタイミングを見計らうしかないだろう」


「先ほどレイチェル様も、『あの子たちを助けるのも、我々が無事であってこそ』と仰いました。勇敢と無謀を履き違えてはなりません」


 感情に走る二人を宥めるヘリオとアンピーオだったが……


「チッ、揃いも揃って、大の男どもが情けないっ…、お前ら本当にタマキン付いてんのかっ! もういいっ、アンタらが行かないって言うんなら、アタシ一人で行きますからっ」


 煮え滾らないヘリオらの態度に、ついにアリアの堪忍袋の尾が切れた。


「おいっ、待てっ…!、冷静になれっ、アリア…!」


 ヘリオの制止も聞かずに、アリアは一人王城へ向かおうとする。

 ところがその時…


「ピイイィー…!」


 突如上空から轟いた、唯一無二の大きな鳴き声。


「ミ、ミーちゃんっ…!」


 その声を聞いただけで、これまで影が差していたターニーの表情は、一転ぱあっと華やいだ。

 実はミーちゃん、王城に球体が衝突するその直前に、間一髪で脱出していたのだ。

 こうしてミーちゃんは、皆の前に竜としての威容を露わにする。


「す、すごい…これが竜……。クーちゃんたちの話、本当だったのね……」


「マ、マジかよ……、竜なんて御伽話でしか聞いたことないぞ……。でも思ったよりも抜けた顔してるなぁ…。なんか親近感がある…」


 ミーちゃんを見るのはこれが初めてのシエラとビバダム。

 さらには、市中に堂々と現れたため、当然ながら一部の民衆の目にも付いてしまった。

 現場は騒然とするが、今はそのようなことに気を遣える状況ではない。


「ピィーッ、ピィーッ、ピピィッ〜!……」


「ふんふん…なるほどなるほど……へぇ〜、すっごーい………え、えええっ〜!?」


 人目も憚らず、何やらミーちゃんと意思疎通を行うターニー。


「ど、どうしたんだ、ターニー…? りゅ…ミーちゃんは何と言ってるんだね?」


「そ、それが…、お城の中にクラリスお姉さんとリグお兄さんがいるって……」


「なっ、何だとっ…!?、二人は今どんな状況なんだっ…?」


「崩落した瓦礫の中で倒れてるみたいです…。私っ、お姉さんたちを助けに行って来ますっ!」


「ま、待ちなさいっ、ターニーっ…! お前をこれ以上危険な目に遭わせるわけにはいかないっ…。お前にまで何かあったら、私はどうすればっ……」


「心配してくれてありがとうございます、お父さん…。でも、これは私にしか出来ないことなんです。それなのにそれをやらないのは、正しくないと思います。大丈夫です、絶対に二人を助けて戻って来ますから!」


 父アンピーオの痛切な訴えすらも、ターニーは屈託のない笑顔で拒む。

 そんな娘の姿が彼を無力感で苛ませ、一層遣る瀬ない気持ちにさせた。





「行こうっ、ミーちゃん!」


「ピイイイイィッ!」


 大人たちに自身を制止する(いとま)を与えぬほどに、素早くミーちゃんに飛び乗るターニー。

 ところが…


「ねぇ…、フェニーチェちゃん、何でいるの?」


 なんと性懲りも無く、フェニーチェが先にミーちゃんの背の上に乗っていた。


「『何で』って、お姉様たちを助けに行くに決まってるでしょ? 早くしなさいよ」


「いや…、何でフェニーチェちゃんが仕切ってるの…? ていうか、さっきあれだけ一緒に来たこと後悔してたよね…?」


「あ、ああ…、あ、あれならもう大丈夫よ…。さっきので完全に慣れちゃったから。とにかく、お姉様のことならわたしに任せなさいよ! きっとお姉様もわたしが来てくれるのを待ってるはず…。さあ、早く行くわよ!」


 相も変わらず、法外過ぎる自己評価故の妄言を吐き散らすフェニーチェ。

 一方で、ターニーだったら何でも言うこと聞いてくれるみたいな、手前勝手な信頼もあったのだろう。

 しかし…


「もうっ、いい加減にしてよっ!」


「…!?」


 調子を扱まくるフェニーチェに、ついに堪忍袋の尾が切れたターニー。

 さて、普段は温厚な人間が一度キレると、大抵の場合は手が付けられなくなるものだ。


「さっきあんだけ足手まといだったのに、本気で役に当てるなんて思ってるのっ? 大体、『お姉さんがフェニーチェちゃんが来てくれるのを待ってる』ってっ…、どんな思考回路をしてたらそんな考えに行き着くのっ? 頭の中、お花畑にでもなってるのっ?、それとも変な薬でもやってるのっ? 一回お医者さんのとこ行って、頭()てもらった方がいいんじゃないのっ? これはね、お遊びじゃないのっ!、そんなこともわかんないのっ?、このバカっ!、単細胞っ!」


 ターニーの怒涛の口撃を前に、口喧嘩には定評があるフェニーチェもぽかんと阿保面を浮かべるしかなかった。

 そんな彼女を無情にも残して、ターニーはミーちゃんと共に颯爽と飛び立つ。

 何はともあれ、この世には絶対に怒らせてはならない人間がいるという教訓を、身を(もっ)て得たフェニーチェであった。


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