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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第25章 56.最後に決めたのは…

「おらぁっ、こっちだぁっ、ワン公っ!、うがっ……」


「リグくんっ…!?」


「大丈夫っ…、ちょっと爪が当たっただけだっ…。そんなことよりもう出来そうかっ?」


「うんっ、あと1枚仕掛けたら発動できるよっ…」


「よしっ、一発デカいのぶち込んでやるっ…!」


 なおもグアバガとの戦いを繰り広げるクラリスとリグ。

 闇の力によって生み出された隷獣は、自身の庭で水を得た魚の如く二人を襲う。

 1体でさえやっとの思いで倒したというのに、それが5体もいるという絶望的状況…。

 それでもクラリスとリグは決して諦めることなく、互いを奮い立たせ合って果敢に立ち向かった。

 だが、そんな戦いぶりを見せ付けられても、グアバガは相も変わらず飄々をした悪相を浮かべているだけだ。


(全く焦ってる素振りがない……。この5体を倒しても、まだまだ次が待ち受けてるってことなの……)


(何なんだよ……、本当にこの世界じゃ、全部奴の思うがままだってことなのかよっ……)


 グアバガが見せるその様に、二人は爪先(つまさき)を底なし沼に引き摺り込まれるような感覚を覚える。

 どれだけ確固たる矜持を持って奮戦しても、グアバガの生み出した深淵なる宇宙の中では全てが無に帰した。


「ふふふふ…、そう焦らんでも構わぬぞ。次はどのようなもてなしを貴様らにくれてやろうかと、思いを巡らせるのもこれまた一興よ」


「はぁ…はぁ……、くそっ…、ふざけんなっ…!」


「落ち着いてっ…リグくんっ……」


 グアバガに焚き付けられるリグを静めようとするクラリス。

 とは言っても、彼女にその先の妙策などなかった。


(こんなところで終わってしまうの……。やっとここまで来たっていうのに……みんな……)


 ついにはクラリスの脳裏にも “絶念” の二文字が過り始める。


「どうした、足が止まっておるぞ? (はよ)う戦わぬか。無論、すでに戦う気がないと言うのであれば、ここで終わらせてやっても良いがの」


 ガアアアアアアアッ!!!


 次の瞬間、さらに倍増した計10体の隷獣が一斉に二人に向かって牙を剥いた。


(何だよこれ……こんなのもう…無理だ……)


 クラリスに続いてリグまでもが戦意を喪失してしまう。


「これで終いだ」


 グアバガの声を合図に、二人をそのまま踏み潰す勢いで放たれた隷獣たち。

 ところが、その時だった!


「………ッ!、消えたっ…!?」


 なんと闇へと還るように、隷獣が一斉に消滅してしまったのだ。


「一体何事か…、作り込みが甘かったのかのう……。まあ良い、消えたならばまた作り出せば良いだけよ」


 大層解せぬ様子ながらも、取り乱すことなく淡々と言葉を吐くグアバガ。

 一瞬で、まずは3体の隷獣を作り出す。

 しかし…


「どういうことだ……。何故闇の力が宿らぬ……」


 それらは隷獣として生を受ける間もなく、先と同様に呆気なく消失してしまった。

 流石に焦りを隠せなくなってきたのか、グアバガの表情が醜く歪む。

 すると…


「うっ…、な、何だこの痛みはっ……。この儂の宇宙(世界)で一体何が起こっておるっ……」


 グアバガの全身に、突如謎の鋭痛が駆け巡る。

 そんなグアバガの異変を見て、クラリスはふと悟った。


(これってもしかして…、みんなが外から私たちを助けようとしてくれてるんじゃ……。それなのに私、みんなの気持ちを何にも考えずに『もうダメだ』って勝手に諦めちゃって……。いけないっ、これじゃあみんなに合わせる顔がないっ…!)


「リグくんっ、もう一回頑張って戦おうっ? まだチャンスはあるよっ!」


「クラリス……ああっ、そうだなっ、やるなら今しかねぇっ!」


 生きて皆の元へ帰る…、その初心に立ち返って、クラリスとリグは再び立ち上がった。

 グアバガに対して決死の総攻撃を仕掛ける。


「ふんっ、小癪なっ…、闇の力は失えども、この儂が魔術で貴様らのような小童に(おく)れを取るわけがなかろうっ!」


 先手でクラリスが放った熱光線を、グアバガは(いと)も容易く躱した。

 そしてその反撃で、豪雹の如く降り注ぐ無数の魔弾を放つ。


(くっ…、魔弾を雨みたいに降らせるって…、ありえねえだろっ…)


 闇魔術などに頼らずとも、グアバガが最強レベルの魔導士であることを示威していた。




 グアバガとの激闘はなおも続く。

 そんな中で、時間を追うごとにクラリスの表情が陰りを帯びていた。

 その様をリグは見逃さなかった。


「なあクラリス…、どうしたんだよ…?」


「う、ううん…、大丈夫だから…心配しないで」


 らしからぬ作り笑いを浮かべて、誤魔化そうとするクラリス。

 だがそんな時に限って、普段は鈍感なリグの勘がとても冴える。


「クラリス…、後は大丈夫だ。俺が一人であのジジイを倒すよ」


「えっ…どういうこと……」


「お前…本当は奴とあんまり戦いたくないんだろ? そりゃあ、一応はお前の爺ちゃんなわけだしな…」


「そ、そんなことっ……」


 咄嗟に否定の言葉を発しようとしたクラリスだが、その後が続かなかった。

 彼女の表情はさらに沈み込む。

 それは、リグの前であれだけ威勢の良いことを言っておきながら、内心では覚悟が出来ていなかったことへの強い心咎めである。


「ごめんね…」


 今にも泣き出しそうな、か細い声のクラリス。

 ところが…


「違うんだっ、クラリス…、そうじゃないっ、聞いてくれっ」


 リグはクラリスの両肩をがっしりと掴むと、切実に訴えかけた。


「お前はすっごく優しい…。そんなお前だから俺は好きになったんだろうし、きっとみんなもお前のことを好きでいてくれるんだと思う。だからお前がそんな辛そうな顔をしてて、俺はむしろ安心したよ。だって、いつまでもお前に優しいままでいてほしいからさ…。俺はお前の手を汚させたりなんかしないっ。こういうことは全部俺に任せろっ!」


「リグくん……」


 潤んだ目で見つめるクラリスの顔に()()()()()()()()()、リグは一人グアバガと対峙する。


「行くぞっ!、くらえぇっ!」


 リグが全身全霊で作り出した渾身の巨大魔弾。

 片手のみでは手に余るそれを、彼は両手を振り抜いてグアバガに放った。


「何やらごちゃごちゃと喚いておったが、下らぬことよ…。まあ良かろう、ならば儂も貴様の酔狂に付き合ってやろう。貴様の小さな体もろとも消し炭にしてくれるわっ!」


 一方のグアバガも、リグに対抗して高威力の魔弾を放つ。

 二人の立ち位置のちょうど中央で、二つの魔弾は真正面から衝突した。

 激烈な閃光が闇の世界を燦々と照らす。

 魔弾の大きさはリグの方が優っているが、エネルギー密度はグアバガの方が断然上だ。

 剣のように剛直に突き進むそれを前にして、リグの魔弾は今にも貫かれようとしていた。


「ううううっ……、すげえ力だ……。でも負けられねえ…、絶対に負けられねえっ……。みんなのためにも…そしてクラリスのためにもっ………うっ…うああああああっ!!!」


(……ッ!?、急に奴の魔弾の密度が強くなりおったっ…?、一体何がっ……)


「うおおおおああああっ!!!」


 さらに踏ん張って踏ん張って踏ん張りまくるリグ。

 骨がバラバラになって体が崩壊するのも厭わぬほどにギアを上げ続ける。

 いつしかグアバガの魔弾のエネルギーは、リグのそれに取り込まれ始めていた。


「何なのだっ……デール族でも何でもない、ただの小童が何故これほどまでにっ……」


「うがああああああっ!!!!」


 ついに最後のギアを上げ切ったリグ。


「あり得ぬっ……あり得ぬぞおおおぉっ…!」



 ………………………


 魔弾の光はグアバガを飲み込み、一瞬にしてその全てを無に帰した。


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