表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
591/623

第25章 54.男マルゴス、一世一代の告白

「ともあれ今、この戦いでの勝利なくしては、我々は未来を語ることすらも出来ないでしょう。マルゴス殿っ、どうか我々に力をお貸しください! 必要なものがあらば何なりと。我々も協力を惜しみません」


「ありがとうございます。では早速ですが…、()()()()()()をお借り出来ますでしょうか?」


 レイチェルから改めて支援を要請されて、それに応えるマルゴス。

 さて、そんな彼が指名する、白羽の矢が立った人物は……


「へっ……アタシ…?」


 それは意外にもアリアだった。


「ふっ、ふっざけんなっ…!、何でアタシなんだよっ…? それに何が『お借り出来ますか』だっ、アタシは物じゃねぇっ!」


 かつて、クラリス救出作戦の際に一悶着あったこの二人。

 アリアの心の中では、あの時の利己的なマルゴスのイメージを拭い切れずにいたのだ。

 駄々を捏ねるようにマルゴスに猛反発する彼女だが…


「アリアよ、あなたはクラリスとリグを救いたくはないのですか? 今は私情が割り込む余地など微塵もありませんよ? つべこべ言わずマルゴス殿の指示に従いなさい」


「はい…すいません……」


 レイチェルに冷淡に諭されて、すごすごと引き下がった。




 こうして、レイチェルたちと別行動を取るマルゴスとアリア。


「すげえなぁ…、これが魔燃料動力車……。アタシらが以前ガノンで乗ったやつはもっとボロかったけど、今はここまで進化してんのか…」


「『魔燃料動力車』なんぞいつの時代の話かね…。今は『自動車』と言うのだよ」


「……ほんといけ好かない()()()()だな…、呼び方なんてどっちだっていいだろ…。そんなことよりおっさん、後でこれアタシにも運転させてくれよっ。な、いいだろっ?」


 元々、暴走欲求があるアリア。


「なんだか君の興奮に満ちた目を見ると不安に思えてくるな…、まあ考えておこう。そんなことより早く乗りなさい、行くぞ?」



 …………………


 車を走らせて、球体に狙いを定めやすい地点まで移動した二人。

 マルゴスはアリアに、あの兵器の使用方法をレクチャーしていた。


「しっかりと発射筒を肩に固定して撃つんだ。弾は3発しかない、絶対にしくじるなよ?」


「ところで何でアタシだったんだよ? アンタの相棒のレーンでもよかっただろ? 確かあいつ、射撃が得意なんだろ?」


「軍人でもない人間に、こんな代物を扱わせるわけにはいかないだろう? ましてやあの子はまだ10代の学生だ。それにこれは発射時身体に相当強い反動を受ける。その反動を身体で制御出来なければ命中精度も落ちてしまう。その点、君なら身体付きも逞しいし適任かと思ってね」


「はぁっ?、ふざけんなっ、アタシこれでも女だぞっ?」


「不平があるなら後で聞こう。さあ弾丸がセット出来たぞ?、これでいつでも撃てるはずだ」


「チッ、わかってるよっ。こいつでぶちかましてやったらいいんだろっ?」


 マルゴスのやや気に障る物言いに苛つきながらも、アリアは狙いを定めて発射筒をしっかりと携えた。

 そして…


 ドオオオンッ!


 身の髄まで届くほどの甚大な反動ととも、点火したロケット弾が眩耀(げんよう)を放って射出される。

 瞬く間に目標に命中したそれは、大花火の如く眩い閃光を大空に撒き散らした。

 すると…


「……ッ!?、あ、あれはっ……命中した部分が欠けているっ…?」


 球体の命中箇所の損壊を確認した二人。

 圧倒的な威容を誇って宙に君臨していた球体が、歪で不恰好な様に成り果てる。


「すげえな…これ……。フェルトの兵士は皆んなこんなもん持ってるのか…?」


「いや、これは第6次兵器開発指針に基づいて試験的に作られた次世代型兵器だ。今のフェルト軍の主力兵器はそれより前の第4次、第5次指針におけるものだな」


「なんかよくわからんが、これがとんでもない代物だってことはわかったよ…」


「ともかくこれで効果は証明された、次へ行こう。次はこの反対の球面に打ち込むぞ」


「ああ、頼むぜおっさんっ」


「……君なぁ…、さっきからその『おっさん』という呼び方なんとかならないかね? 確かに僕は世間一般にはそう言われても仕方がない年齢だが、流石に面を向って何度も言われると地味に傷付くんだがな…」


「悪かったよ…。じゃあマルゴスさん、頼んだぜっ?」


「うむっ」



 ……………………



 こうして二人は、次の地点に向って再び車を走らせる。

 いつしかアリアのマルゴスへの蟠りも薄れていた。

 そんな中…


「アリア君…、先ほど君を指名した理由を話したが、実はあれは建前だ」


「どういうことだよ…?」


「囚われたクラリスちゃんを助けるために、君が初めて我が家を訪れて来たあの日…、僕は我が身可愛さに、君にとんでもない醜態を晒してしまった…。僕は今でもあの日の己の行いを酷く悔やんでいてね…。ジオスに戻って来たのも、その悔恨の念に決着を付けたいと思ったからだ。そして君も、僕のことを自分勝手で情けない男だと、心の底で思っていることだろう…。だから君の中での僕の汚名を少しでも挽回出来たらと思ってね…」


 飄々とした佇まいのマルゴスを、性格的にもいけ好かないと思っていたアリア。

 だが彼の口から語られたのは、ただの不器用な中年男の告白に過ぎなかった。

 アリアはしてやられたように苦笑いを浮かべる。


「ただの嫌味なインテリかと思ってたけど、アンタ意外と泥臭い人間だったんだな…」


「そりゃあね…、研究者である前に、僕だって一人の男だからね」


「そうか…。じゃあアンタの男っぷりを見せてもらうとするかな」


「それは()()()()()()()()ということかな? 僕のあまりにもの男っぷりに惚れ堕ちても責任は持てないがね」


「わはははっ、勝手に言ってろ」


 すっかり打ち解けて、洒脱に会話を交わすマルゴスとアリア。

 いつしか本人らすらも気付かぬうちに、互いに相棒意識が芽生え始めていた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ