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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ


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第25章 52.一同集結

 一方その頃…、王城から一旦撤退したレイチェルたち。


「レイチェル様っ…!」


 レイチェルの命で城下の治安維持に当たっていたビバダムが合流した。


「ご苦労でしたねビバダム。先の雷撃による城下の被害と治安はどのような状況ですか?」


「はい、火災発生などで被害を受けた家屋は少なくありませんが、人的被害は最小限に食い止められたと思います。幸い死者は出ていません。治安の方は、一時は混乱に乗じて不逞を働く狼藉者もいましたが、そのような者はほぼ捕らえています」


「そうですか、よくやってくれましたね、ビバダム」


「いえ…、レイチェル様があの重装兵たちを私たちに付けて下さったおかげです。彼らが率先して人々のために動いたことで、他の者たちも自ずと協力してくれるようになりました。ヴィットも元の仲間たちと完全に和解出来たようですしね」


「そうですか…、それは何よりです」


 アルゴン戦後の打ち拉がれた様からは一転。

 精悍な面構えで報告を行うビバダムの姿を見て、レイチェルは安堵の笑みを浮かべた。


「ところでレイチェル様…、今は一体どういう状況なのでしょうか? あのいきなり空に現れた黒い物体は一体……。それに先ほど『雷撃』と仰いましたが、やはりあれは自然現象ではないということですか…?」


「ええ、少々現実味のない話になるのですが…」


 レイチェルたちはビバダムに経緯を事細かに説明した。


「何ですってっ…?、じゃあクラリスちゃんとリグ君が、あの物体の中に閉じ込められてるってことですかっ…?」


「断言は出来ないがな…。ただ二人が連れ去られたと同時にあの球体が現れた。可能性は高いだろうな」


「今、私の娘のターニーがりゅ…ミーちゃんに乗って至近距離から確認に行っている。我が子に危険を冒させて、父である私は何もしてやれない……。まったく…親として情けない限りだ…」


「アンピーオ…、それは(わたくし)とて同じ思いですよ。ターニーに、そしてクラリスとリグ…。大人である我々は傍観することしか出来ないのですから…」


 大人として子供たちを守れない、己らの無力を痛感させられるレイチェルたち。

 ちなみにグアバガに痛め付けられた竜のミーちゃんだが、その後すぐにアイシスが治癒を行い、とっくに全治していた。

 さすがは竜治療のエキスパートといったところだが、そんな彼女はというと……


「クラリスちゃん…リグくん……」


 意外や意外、二人の無事を切実に祈り続けるアイシスの姿。

 その様を、アリアは興味深そうに見つめていた。


「な、なによぅ…?」


「あ、いや…、アンタあいつらのこと、ちゃんと想ってくれてたんだなぁって…。てっきり性欲の吐口としか見てないかと思ってた…」


「し、失礼ねっ…!、もうっ、私のことを何だと思ってんのよぉ〜!」


 悪意はないアリアの素の言葉に、大層お怒りな様子のアイシス。

 とはいえ、それは完全に “身から出た錆” なわけなのだが……


「これアリア、他人の衷情を揶揄うものではありませんよ? そもそも今は平時ではないのですから、普段の言動を根拠に決め付けること自体が間違いでしょう」


「も、申し訳ありません…。アイシスさん、失礼なこと言ってしまってすいません…、悪気はなかったんです…」


 アイシスにとっての “天敵” アリア。

 だがレイチェルに嗜められると、まるで親に叱られた子供のようにしおらしく謝罪した。


「アイシス殿、気にしないで下さいね? あなたのあの子たちへの想いを、(わたくし)(しか)と理解していますよ?」


 凛々しくも慈悲心に溢れるレイチェルの言葉。


(トゥクン……)


 そんな彼女の佇まいを前に、アイシスの目には背景いっぱいの薔薇が見えていたのだろうか…。


「お姉さまぁっ〜!」


 年甲斐もなく胸を無邪気に高鳴らせてレイチェルに抱き付こうとするアイシスだが、ぞんざいに平手で拒絶されていた。




 そうこうしているうちに…


「おおっ、ターニーっ!、無事だったかっ?」


 球体の偵察から、ターニーがすたすたと帰って来た。

 ちなみにミーちゃんは、流石に城下でその姿を露わにさせるわけにはいかないので、王城の中庭で待機させている。


「お待たせしましたー、みなさ………う、うええぇ……」


「ターニーちゃ〜ん、みんなひどいのぉ…。ターニーちゃんはお姉ちゃんの味方よねぇ…?」


「ううう……」


 まるで軟体生物のように、ターニーに(いや)らしく絡み付くアイシス。

 かといって、ミーちゃんを治療してくれた恩があるので、今この場ではターニーも拒むことが出来ない。


「うへへへ…ターニーちゃんのムチムチボディたまんなー……」


 ゴツンッ、ゴツンッ、ゴツンッ、ゴツンッ、ゴツンッ


 ……………………



「お、おほん……、で、ターニー…、結果はどうだった…? 早くレイチェル様にご報告しなさい…」


 ()()()()アイシスを横目に、アンピーオは気を取り直してターニーに報告を促す。


「は、はい…。今アレを間近で見て来たんですけど、ちょっと意外なことがわかったんです」


「『意外なこと』とは?」


「はい、あの球体、なんか金属や石ほど硬くなくて、ゴムみたいにちょっとだけ弾力がある……、とにかく意外に物質性があったんです。なので、もしかしたら…、魔術は効かなくても、普通に物理攻撃なら効くんじゃないかって…」


「!」


 一同は目から鱗が落ちたように、一斉に両目を開かせた。

 『押して駄目なら引いてみよ』の論理で、『魔術が駄目なら物理攻撃で』。

 ターニーの見解は至って単純ではあるが、それでも魔術一辺倒の皆にとっては完全なる盲点だった。

 とはいえ、攻略の糸口が見つかったからといって、すぐに実行に移せるほど事は簡単な話ではない。


「しかしどのようしてあれを攻撃すれば…。今我々にある飛び道具は弓矢と銃のみです。監視塔から放ったところで届くかどうか…。仮に届いたとしても大した威力にはならないでしょう」


「フェルトに支援を要請するのはどうですか? あそこの国軍なら強力な兵器を持ってるでしょう。今なら城内の通信器具も使えますし」


「いや…、こんなデタラメな話をあちら側が信じてくれるかどうか…。それにあちらとて我々の便利屋じゃないんだ。仮に支援を取り付けたところで、一体どれほど時間がかかることか…」


 答えが出そうにない議論を延々と交わす一同。

 ついにはレイチェルが…


「かくなる上は…、この私がりゅ…ミーちゃんに乗って、直に斬り込むしか……」


「なっ、何をお戯言をっ…!?、絶対におやめ下さいっ…!」


「……冗談ですよ…、真に受けるものではありません…」


「まったく、かような時に御冗談など……、お戯れが過ぎますぞ…」


 本気で上空からの特攻を考えていたレイチェルだが、皆の強い視線を突き付けられて、バツが悪そうに言葉を濁した。




 こうして何も手立てが打てないまま、もどかしく時間だけが過ぎていく。

 ところがその時…


 ブオオオオンッ……


「うわぁっ、な、何だっ…!?」


「えっ、馬車っ…?、いや違うっ…、車が勝手に動いてるっ…!」


 最初こそは、比較的遠くから響く不明瞭な喧騒に過ぎなかった。

 だが、間も無くそれはレイチェルたちに接近。

 喧騒の正体が、無機質な未知の轟音とそれに驚き慄く人々の声であることがわかる。

 そして…


「こ、これはっ……。それにあなた方は……」


 ついにレイチェルたちの眼前に姿を現した、謎の轟音の発生源。


「ふぅ…、やっと着いたな…。長い道のりだった…」


「運転お疲れ様です、師匠! それにしても燃料ギリギリでしたね…」


「マルゴスさん、ありがとうございましたっ。ほら、お前たちもちゃんと礼を言えよ?」


「あざっすっ!、でもここまで色々大変だったけど、なかなか楽しかったっすね! こんな経験、フェルトじゃ絶対にできないっすもん!」


「はぁ…脳筋バカはお気楽でいいわよねぇ…。って、そんなことよりお姉様はっ…、お姉様はどこっ………あっ、ターニーっ!、久しぶりっ〜……べ、別に久しぶりだからって会えて嬉しいわけじゃないんだからねっ…!」


 装甲仕様の自動車に所狭しと乗った、何とも賑やかな五人組。

 それは4日前にフォークを出発、幾多の苦難を経てようやく王都に辿り着いた、マルゴス、レーン、バラッド、アルタス、フェニーチェだった。




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