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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ


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第25章 47.最期の王子と最後の敵

「ターニーちゃんっ…!?」


「ターニーっ…!?」


 皆の驚愕の目を掻い潜るように、塔の周りをぐるりと一周するターニー。


「よっとっ…」


 彼女はちょうど双方の間に割り込む形で、すたっと塔頂に降り立った。

 そんなターニーと真っ先に目が合った人物、それは父アンピーオだった。


「お久しぶりです!、お父さん」


 ターニーは愛らしい屈託のない笑みを浮かべて、父に挨拶をする。


「ああ…、おかえり…ターニー」


 アンピーオは今にでも崩壊しそうな涙腺を必死に堪えて、彼女が知る優しい父の顔で挨拶を返した。

 するとそこにレイチェル。


「クラリスとリグの話が嘘だとは思っていませんでしたが…、まさか本当に竜なるものが存在しているとは……。いえ、それよりもターニー、これは一体どういうことですか?」


「あ、レイチェル様、お久しぶりです! 髪伸びましたねー、とっても似合ってますよ」


「そんなことは良いですから、早く説明なさい」


「あ、ごめんなさい…。なんか王都の上空を飛んでたら、何ていうかものすごく禍々しい空気が凝縮されてる場所があって…、気になって行ってみたんです。ずっと地下奥深くに階段が続いていて、そしたらなんとあんな地下深くに広い空間が広がってたんです。で、中には祭壇みたいなとこがあって、怪しげな格好をした人たちが儀式みたいなことやってて…。でもよく見たら、ガリガリな人たちが奴隷みたいに働かされてて……。よくわかんないけど、すっごく悪そうなことやってました」


「なるほど…、それがこの者たちが秘匿して来た、闇魔術の中枢に当たる祭壇だったということですか…。してターニー、あなたはそれからどうしたのですか?」


「なんか襲って来たんで、みんなやっつけちゃいました」


「『やっつけた』っ…?、あなた本気で言っているのですかっ…?」


「は、はい…。え、でも向こうから襲って来たんですよ? そりゃあちょっとやり過ぎちゃった感はあるけど…、正当防衛ですよね? ええっ、まさか私捕まっちゃうんですかっ…?」


 なんとあの地下空間に一人乗り込んで、壊滅させて来たと言うターニー。


「ふふふ……ははははっ……、いいえ、よくやってくれましたね…」


 未曾有の危機が一転こんな呆気ない結末を迎えたこと、さらに天然なターニーの斜め上の反応も相まって、全身の力が抜けたレイチェルは乾いた笑いを溢すしかなかった。




 こうして…


「さて、どうやら神聖なる月の神は我らに御加護を与え給うたようですね。ゲネレイド、そしてグアバガ、あなたたちの悪事もここまでですっ。覚悟なさいっ!」


 レイチェルは再び、二人に対して剣を突き付けた。

 一方、長きに渡って着々と企てて来た野望が一瞬で潰えたゲネレイド。

 その狼狽ぶりはレイチェルたちから見ても、滑稽を通り越して哀れに映るほどだった。


「くっ……、ろ、老師様っ…、これは一体どういうことですかっ…? まだっ…まだ何か秘策をお持ちなのですよねっ…?」


「残念ですがここまでのようですな…。あの祭壇が敵の手に渡ってしまった以上、為す術がありませぬ…。あの場の警護を厳重にしておかなかった、あなた様の落ち度でしょうな…」


 未練がましくグアバガに縋り付くゲネレイド。

 しかし当のグアバガは、怒りを押し殺した声で冷淡に突き放す。


「なっ、何を仰いますっ…!?、あの場の警護を厳重にしてしまっては、我々の計画が露顕してしまうではないですかっ…? そもそも、あなたのためにここまで莫大な金を注ぎ込み、多大な犠牲を強いて来たのだっ…、それなのに何だっ!、その言い草はっ?」


 最早保身しか頭にない様子のゲネレイドは、あれだけ崇敬して止まなかったグアバガに食ってかかる。

 一旦処断する手を止めて、事の成り行きを注視するレイチェルたち。

 張り詰めた空気は残っているものの、それでも危機を脱して皆の心に安堵感も生まれていた。




 だがその時…


「黙らぬか…」


 グアバガの老いた小さな体から発せられた声…。

 囁き程度の声量しかないにもかかわらず、それはその場の皆の胸にずっしりと響いた。

 次の瞬間…!


「うぐっ…!!!」


「………ッツ!?」


 なんとグアバガの手刀が、ナイフの如くゲネレイドの腹部に突き刺さった。

 さらにグアバガはそれを腹内奥深くに()じ込み、弄るように掻き回す。


「うぎゃああああっ…!!!」


 その間、ゲネレイドの断末魔の叫びが監視塔から王都へと響き渡った。

 そして…


 ズボ……


 生々しく引き抜かれたグアバガの手。


「なっ……!?」


「きゃあっ…!」


「うっ…こっ、これはっ……」


 濃密な生血に塗れたその手に持っていたもの…、それはまだ慣性で脈が踊るゲネレイドの心臓だった。

 当の本人は、壮絶な苦しみの末に絶命している。

 その残虐かつ猟奇的な行動に、義憤よりも生理的嫌悪が先行してしまう一同。

 だがここでグアバガは、皆の想像を遥かに凌駕する光景を見せ付ける。


「鮮度は良くとも不味うて食えぬわ。やはりかような者の臓物など食うに値せぬな」


 グアバガは摘出したゲネレイドの心臓を、あたかも林檎を(かじ)るように口にした。

 残りを足下に投げ捨てて、そのままぐちゃりと踏み潰す。


(何という鬼畜の所業…、この者…本当に人間なのか……)


 この世のものとは思えない凄惨な行為に、最早皆の頭からはゲネレイドの存在など消えていた。




 人格を豹変させたグアバガは仕切り直すと、戦慄的な目で皆を見据える。


「レイチェル様…、一時は勝利したと安堵しておりましたが、最後の最後でとんでもない黒幕が現れましたな…」


「ええ、敵は闇魔導士…、その素性や強さは全くの未知数です。皆の者、これが最後の戦いですっ、今一度気を引き締めなさいっ!」


 レイチェルの檄に心で応えながら、一同は臨戦体勢を取る。

 ところが、グアバガの視線は全体から一瞬レイチェルに移った後、()()()()の元で止まった。


(えっ、何…、何で私を見てるの……?)


 そして…


「会いたかったぞクラリス…、我が愛しの孫よ……」


「………ッ!?」


 グアバガの口から発せられた衝撃の言葉に、一同の視線は瞬く間にクラリスに向いた。


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