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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第4章 17.救いのない世界と最高の仲間たち

 2週間のガノンでの駐留を終えて、私たちはジオスへ帰路についた。

 お義父様からジェミスが生きていることを聞かされた時は、喜びと同時に、私の覚悟が無意味ではなかったことが証明されたようで感慨も一入だったが、一方で彼女の容態が気が気でならない。

 意識が戻った彼女に会いたいし、せめて詳細な容態がわかるまではこの地に留まりたかったが、私一人の個人的な都合で出港を遅らせるわけにはいかない。

 ただでさえ、勝手に船に乗り込んで付いて来て、多くの人に迷惑をかけているのに…。

 出港する際、私は後ろ髪惹かれる思いで、甲板より、遠ざかるエクノカの港を見つめていた。

 お義父様は、ジェミスは長きに渡って酷い虐待を受け続け、瀕死の状態だったと言っていた。

 後遺症などが残らなければいいが…、私はそれだけを祈った。



 帰りの船内では、行きとは打って変わって大きな事件トラブルもなく、平穏な船旅が続いていた。

 ところが……

 ガノンを出港して5日後のことだった。


「クラリス…、ジェミスのことで話がある…」


 同室のアリアが唐突に私に告げた。

 その表情はとても陰鬱で、それを見ただけで良い知らせではないことはすぐにわかった。


”あの子の容態がわかったんですか?”


 胸を衝かれて、咄嗟に書いた私のメモを見て、彼女は何も言わずにただ頷く。

 そして暫し間を置いて、「聞くか…?」と私に覚悟を問うように尋ねた。

 不安に慄きながらも…、私は覚悟を決めて、頷いて答えた。

 しかし…、そうしてアリアの口から語られた内容は、聞かなければ良かったと私に酷く後悔させるほどの、辛い現実だった。


「……右目の失明と左足の切断だ…。どちらも奴らに傷付けられた箇所が、何の治療も受けられずに、劣悪な環境で酷く悪化していたらしい…。その他にも、一生残るだろう痣や傷跡が全身至るところにあるそうだ…。ひどいよな……、こんなひどい話があるもんか……」


 彼女は終盤、言葉を震わせ、その目には涙が浮かんでいた。


(何故……何故、ジェミスがこんな酷い目に遭わなくてはならないのか…。あの子が一体何をしたというのか…? 何で……この世界はこんなにも不条理で救いがないのか……)


 ……気が付くと、私はあの場所でジェミスを見つけた時のように、無意識に涙を流していた。

 そして…アリアはあの時のように、一緒に涙を流して、私を強く抱き締めてくれた…。

 それからというもの、アリアはこれまで以上に、私に優しく接してくれるようになった。

 まるで、我が子に対する母親のように…。

 もちろん、それまでも十分に優しかったのだが、今までみたいに私をからかうようなマネをすることはなくなった。

 彼女なりの私への気配りなのだろう…。

 その心遣いはとても嬉しかったが、かえってその優しさが、傷口に染みるように私の心に沁み入った。



 船は行きと同じペースで大洋を横断し、ユミディ川河口に差し掛かる。

 ただし、帰りは川を流れに逆らう形で進むので、行きに比べて1日余分に要する。

 そして、河口に入り3日後…、船はジオス軍港に無事帰港、私たちは1ヶ月半にも及ぶ長旅からようやくジオスへと帰って来た。

 ここまで来れば、城下まではあとわずかだ。

 送迎用の馬車で私たちは街へと向かう。

 馬車で私と同乗していたのは、アリアにライズドにトレックにスコット…、そう、アリア隊の面々だった。

 彼らは、あの戦場で抱いた葛藤への答えが未だ見出せず、さらにジェミスの件で気持ちが沈んだままの私を、いつもの(うるさ)いぐらいの明るさで元気付けようとしてくれた。


「しっかし、この馬車ってやつは遅っせえなあ。あのガノンで運転した魔燃料動力車ってやつ…、アレって何とかウチでも作れないもんかね…」


「あれだけは、あちらさんも頑なに技術を開示しなかったみたいっすね。まあ、末期の人民政府が国運を賭けてたこともあって、重要機密なんでしょ」


「どっちにせよ、ジオスみたいな路地が多いとこじゃ、あんなの危なっかしくて運転出来ないですよ。それに姐さんは運転禁止です…」


「ああっ?どういう意味だよ、それ」


 ライズドに対し、アリアが詰め寄る。


「いや…だって…姐さん本気で人轢きそうですもん…。ガノンは道幅が広かったからまだよかったけど…」


「はあ?、アタシほど安全運転を心掛けてるやつはいないぞ? なあ、クラリス」


 唐突にそう聞かれて、反応に困る私を見て、スコットが言った。


「姐さん知らないでしょうけど、あの時クラリスちゃんずっと怯えてたんですよ? まあ、その

姿がすっごく可愛かったんで、僕らは役得でしたけど…」


 何だかとても気恥ずかしくなり、思わず私はプイッと窓側に首を背ける。


「じゃあ何だ、こいつが怯えてたのをお前らは見て楽しんでたっていうのか? カスだな、お前ら」


「いやいや…元はと言えば姐さんが…」


「うるせえ、こいつを泣かせるやつはアタシが許さねえぞ!」


「ふふふ…」


 そんな他愛もない、支離滅裂な彼らの会話を聞いているうちに、私は自然に笑い声が漏れていた。


「ほらほら…、姐さんが下らないこと言ってるから、この子だって笑ってるじゃないですかあ」


「なんだぁ…クラリス、何がおかしい?」


 未だ言葉が喋れない私は、にやけ顔を浮かべて今の気分を表すと、アリアは「この〜」と冗談っぽく振舞いながら、私の体を揺らした。


(……年齢も離れていて、とても騒がしくてガサツな人たちだけど…、この最高の仲間たちと旅が出来て幸せだった……)


 私は今、心からそう思った。


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