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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第25章 35.勝てない男

「なあヴィット、本当に大丈夫なのか…?」


 コート下からヴィットの元に駆け寄る、ビバダムとトレックとライズド。


「大丈夫だ、ビバダムさん…、俺を信じてくれ」


「一人で全部背負い込もうなんて思うなよ?、俺たちだっているんだからな?」


「ああ、ありがとう…、ライズドさん」


「てめえ絶対勝てよ!、負けたら承知しねえからなっ?」


「………………」


「だから何で俺だけ無視なんだよっ?、せめて目ぐらい合わせろや!」



 ……………………


 そんなこんなで、ヴィットはかつての盟友バルデックと対峙する。

 互いに厳しい眼光を飛ばし合うが、両者がその内に抱える感情は大きく性質が違っていた。

 隙なく剣を構えてはいるものの、その剣先をバルデックに向けられないヴィット。


「何だ…、戦う気がないのか?、ならば斬り捨てるのみっ!」


 そんな彼に、バルデックは躊躇なく殺気の刃を振りかざす!


 ガキイイイッ!


「ふん、流石に一撃目は防いだか…。だがこんなものではないぞ!」


 ガキイイイッ!、ガキイイイッ!、ガキイイイッ!……


 バルデックは初っ端から怒涛の斬撃攻勢を繰り広げる。

 ヴィットはそれらを全て己の剣で受け切った。

 まるでバルデックが抱える自身への屈折した思いを受け入れるように…。




 それから、勝負は膠着状態に入り、熱い鍔迫り合いが続いた。

 軋り合う剣越しに、互いの鬼気迫る形相が瞳孔に焼き付く。

 その時…


「ネンダル……いやヴィット…、何故だっ…、何故兵団を裏切ったっ…? お前は王国への忠義だって人一倍強かったはずだっ…。なのに…なのに何でこうなってしまったんだっ…!?」


 ここまで感情を剣に纏わせていたバルデック。

 だが彼の底知れぬ憤りは、そんな程度で発散出来るものではなかった。

 ついにその口から本意が漏れ出す。

 そんなバルデックに誠意を示そうと、ヴィットも本心でぶつかり合う。


「俺は王国への忠義も、兵団への忠義も捨ててなどいないっ。無辜(むこ)の人々を苦しめるゲネレイド…、そしてそんな人間の都合の良い駒に成り果てた兵団…、それこそが狂ってると何故思わないっ?」


「貴様ぁっ!、国王陛下を呼び捨てにし侮辱するとはっ…! やはり痴れ者と化したかっ!」


「話を聞けっ。王都に戻って来て、俺は窮状に喘ぐ街の人々の姿を見た…。またフォークの街で、ゲネレイドの謀略によって家族も家も失った子供たちに出会った。そして、その子たちの大事なものを奪ったのは、俺たち兵団でもある…。でもな…、その子たちは憎き仇である俺のことを(ゆる)してくれた…。その時俺は、この子たちの未来を守るためにこの命を懸けようと心に決めたよ…」


「だ、黙れっ…、そんなものは全て詭弁だっ…!」


「俺は思う…、その子たちの未来を守ることは、この国の未来を守ることだと…。そしてそれは兵団の未来を守ることにも繋がるっ…。お前だって士官学校にいた頃は、目を輝かせて王国の未来について熱く語ってたじゃないか…。今のお前は輝いてるか?、あの頃のお前に今の自分の姿を見せられるか?」


「うるさいっ!、戯言をほざくなっ、反逆者がぁっ!」


 バルデックの情調の乱れは、そのまま剣気の乱れと化す。

 押し合う剣の圧力が一瞬僅かに緩んだところを、ヴィットは逃さなかった。


 ギンッ……ドガッ…


「うぐっ…」


 瞬時にバルデックの剣を(はた)き上げると、ガラ空きになった腹部に強烈な蹴りを食らわせた。


「おのれぇっ…!」


 なおも立ち向かって来るバルデック。

 ヴィットも最初とは打って変わり、猛突な剣技を繰り出して応戦する。

 こうなるともう、両者の実力差は(はた)から見て明らかだった。


(俺は同じ年なのに家柄が上で出世も早いこいつに、せめて実力だけでも追い抜こうと必死に鍛錬に励んで来た…。その結果、アルゴン様の選抜にも選ばれるほどには強くなったはずだ…。なのに…、何故この男は常に俺よりも遥か先を行くっ…? これでは俺が少しも成長出来ていないみたいじゃないかっ……)


 一方のヴィット…


(強くなったな、バルデック…、きっと何十万、何百万と剣を振って来たんだろうな…。だがな、俺だって立ち止まってなんていられないんだ。守りたいものを守るために…、俺はもっと強くならないといけないんだっ!)


 皮肉にも心の声が繋がり合ったヴィットとバルデック。

 すると…


「うおおおおっ!!!」


 ガギイイイッ!!!


 バルデックの息遣いの乱れから一瞬の隙を見つけたヴィット…、一撃必殺の一太刀を放つ!


「うぐっ……」


 それを構えた剣で受け切ろうとするバルデックだったが…


(な、何だっ…この尋常でない重圧はっ……。まるで…アルゴン様が振るう剣のようだっ……)


 その土石流の如く己の体に雪崩(なだ)れ込む威力は、一本の剣で凌ぎ切るにはあまりにも酷烈だった。


「うがあああっ…!」


 相殺出来なかった斬撃のエネルギーをもろに体で受けて、バルデックは無惨にもコート外へと吹っ飛ばされる。


「やったぁっ…!」


「うおっしゃぁっ!」


 ヴィットの勝利に、一気に盛り上がるビバダムら三人。

 その中で、最も歓喜を露わにしたのが実はトレックだったことは、取るに足らない話である。




 さて…


「ううう………ま…まだだ……まだ…俺はっ……」


 白銀の甲冑が酷く歪むほどの大ダメージを受けたバルデック。

 それでもなお、満身創痍の体を引きずって、コート上のヴィットの前に立とうと足掻く。

 しかし…


「そこまでにせい。貴様ごときが敵う相手ではないわ。己の身の程を知れただけでも十分であろう?」


「……はい…申し訳…ございません…」


 アルゴンから冷徹に窘められた失意のバルデックは、仲間の兵たちに抱えられて後方に下がって行った。

 そして…


(……来たか…)


 まるで大山が(うご)くかの如く、威風堂々とコートに上がるアルゴン。

 ついに一対一で、今では敵同士と相なったかつての師弟が対峙した。


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