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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第25章 34.師と友との再会

 それから…


(なあおい、トレック、意地張ってないで身体強化使えよ…。いい加減しんどいだろ?)


(うるせー、あんなクソ野郎にあそこまで言われて引き下がれるかよっ。こんな鎧なんかより、俺ら魔導部隊のローブの方がよっぽど重いぜ!)


(いや…、流石にそれは無理があるだろ…)


 以心伝心でライズドと会話をするトレック。

 最早ヤケクソ状態で、頓珍漢(とんちんかん)な自己暗示をかける。

 さて、そんな些事はさておき、一行は荘厳絢爛な大廊下を威風堂々たる所作で進んで行く。

 こうしてしばらくすると、広大な中庭へと出た。

 ここはかつて、クラリスも参加した王立魔導審査会が行われた場所。

 彼女とトテムとの激戦が繰り広げられた、あの石畳の演習用コートも中央に鎮座する。

 この中庭を抜けた先は、議場や重臣たちの執務室、王族の居住エリアなどがある、王城の中枢へと繋がっている。

 本丸をいよいよ目前にしたヴィットたち。

 ところが…


「……ッツ!?」


 混濁とした空色とともに、戦慄の光景がそこには広がっていた!


「久しいのう…、ヴィット・オウロ・ネンダルよ…」


 四人を睥睨(へいげい)する、百獣の王の如く獰猛な面構えの男が発した言葉…。

 ヴィットはあたかも術で操られているかのように、体の底から震えが止まらなかった。


「ア…アルゴン様……」


 そこで一行の到着を待ち受けていたのは、アルゴンと彼が重装兵団内から選りすぐった精鋭たちだったのだ。


(おかしい…、どういうことだっ…。何故俺たちの行動が露呈した……)


 恐怖と焦燥の狭間で揺れるヴィット。

 するとその時、背後に備える重装兵の中から、一人アルゴンの数歩後ろまで出て来たのは……


「ネンダル様…、まさかあなたが賊軍に寝返ったという噂が真であったとは……」


「バ…バルデック……」


 ヴィットとほぼ同じ歳と思われる、この若きエリート兵の名はグレイ・セイ・バルデック。

 そう…、正門を突破した際にヴィットが名を騙った、まさにその本人である。

 実はあの時、警固の衛兵の中に一人だけヴィットの顔を知る者がいた。

 一行が正門を通過した後、上官に通報していたのだ。

 バルデックは虫ケラを見下すような冷視線をヴィットに浴びせている。


「貴様らごとき愚物が、我らの魂である白銀の甲冑を纏うとは烏滸(おこ)がましいっ! 今すぐこの場で脱ぎ捨ていっ!」


 マグマの如く怒りの血が煮え滾るアルゴンは、ヴィットらにすぐさま甲冑を脱ぐよう命じた。


「ヴィット…」


「すまないビバダムさん…、ここまでのようだ…」


 やむなくアルゴンの命に従う四人。


「おいっ、てめえどういうことだよっ? 完全に敵の罠に嵌められてんじゃねえかよっ! 全部てめえの責任だかんなっ!」


「うるさい、ギャアギャア喚くな…。こちらの動揺を勘付かれたら、向こうのペースに乗せられる一方だぞ? そんなこともわからんのか…、これだから脳筋は……」


「こ、この野郎っ…、どの口が言ってんだっ。てか、俺とビバダムとの扱いの差酷すぎんだろっ!」


「こら、やめろトレック…。今はそんなことやってる場合じゃないだろ…」



 ………………………


 甲冑を脱いだ四人は、改めてアルゴンと対峙した。


「ふんっ、まさか魔導士なんぞ連れ込もうと企てていたとはな…、嘆かわしい…。貴様は士官学校では儂の優秀な生徒であった…。そんな貴様がフォークでの一戦で賊側に捕えられ、あろうことか寝返ったという風の噂を聞いた時、貴様に限ってそのようなことは決してないと…、大方賊側の宣伝工作に過ぎんと信じて疑わなんだ…。そして、多くの名戦士を輩出した名家ネンダル家の誇りと体面を守るためにも、御両親には御子息は勇猛に戦い抜き壮絶なる最期を遂げたと報告した…。御両親は『王国に殉じる』というネンダル家としての使命を見事果たしたと、大層喜んでおられたぞ。貴様はネンダル家の名に泥を塗り、御両親の想いを踏み躙ったのだっ!」


「…………………」


 自身の決断に決して揺るぎはないが、それでも恩師アルゴンの痛烈な糾弾の前に、ヴィットは神妙に押し黙る。


「ふん、返す言葉もないとはな…、情けないことよ…。だが厳格な儂と言えども、道を踏み外した教え子にかけてやる温情程度は持ち合わせておる。今この場で、貴様が連れ込んだ者共を、貴様自身の手で切り捨てい。さすれば此度の一件を穏便に済まし、さらには兵団への復帰も考えてやっても良いぞ?」


「……それは…出来ませんっ…」


 ヴィットは震える声を振り絞って、アルゴンの要求を突っぱねた。

 すると…


「そうか…、貴様がそれなりの覚悟を()って兵団に叛いたということだけは認めてやろう…。ならば舞台に立て」


 アルゴンはヴィットに対し、中央のコートに上がるよう命じる。


「貴様をただの罪人としてこの場で切り捨てるのはあまりにも忍びない…。故に舞台上で、貴様を“戦士”として死なせてやると言っておるのだ。外道に成り果てた教え子へ、師からのせめてもの温情である。感謝するがよい」


 それは決闘という名の公開処刑を意味していた。


(やるしかないのか……)


 退路を閉ざされ成り行きのままに進むしかないヴィットは、背中を押されるようにしてコートに向かう。

 ところがその時…


「お待ちください、アルゴン様! 僭越ながらこの者の()()、どうかこの私めにお任せいただけないでしょうかっ?」


 唐突に名乗りを上げたのは、なんとバルデックだった。


「ふん、好きにせい」


 横槍を入れられて興が削がれたのか、アルゴンは憮然顔であっさりと役を譲った。


「そういうことだっ、アルゴン様のお手を煩わせるまでもなく、貴様のような痴れ者はこの私が成敗してくれよう!」


 バルデックはコート上からヴィットを仰々しく煽り立てる。


「バルデック……」


 敵意を剥き出しにするかつての盟友を前にして、ヴィットは重い足取りでコートに上がった。


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