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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第25章 22.裏切り?の果てに

 こうして、まさに一寸先は闇の状況で、ただひたすら歩かされる一同。

 そんな中…


「ねぇねぇ…、クラリスちゃん…」


 アイシスがそっとクラリスに小声をかける。


「なによぉ、お姉ちゃん…こんな時に……。ちょっとは空気読んでよね…」


「違うわよっ…、もう…私を何だと思ってるのよ……。ねえ…、この人たち盾まで構えて、まるで私たちの姿を外から見えないようにしてない?」


 確かにアイシスの指摘通り、周囲を大盾でぎっちりと固めている兵士たち…。

 その厳重で物々しい様は、“護衛” のようにも見えなくはなかった。


「ひょっとしたら、私たちを歓迎してくれるのかもっ…! いっぱいご馳走用意して待ってるとか! でもその前に、お姉ちゃんお風呂に入りたいなぁ〜、もちろんクラリスちゃんも一緒に……ふへへへ……」


(はぁ…、やっぱりダメだ…この人……)


 相も変わらず能天気なアイシスに、クラリスは心底呆れ果てる。

 だが一方で…


(でも確かにちょっと変かも……、お姉ちゃんがこんなに騒いでても兵士の人たち何にも言わないし…。それに最初、私たちの顔をパッと見ただけで、どうして私たちがセンチュリオンの子供だってわかったんだろう……)


 彼女は彼女でこの状況に些か違和感を覚えていた。




 歩くこと十数分…、一行が連れて来られたのは、敷地内の外れにある廃小屋だった。


(こんなところに連れて来て…、我々を一体どうするつもりだ……)


 当然ながら、皆の顔には不安の色しか残っていない。

 ところが、その時…!


「えっ……!?」


 突如兵士たちは包囲を解くと、整然と一同の前で隊列を組んだ。

 そして…


「作戦の一環とは言え、度重なる御無礼っ、何卒御許し下さいませっ、レイチェル様っ!」


 なんと兵士たちは一糸乱れぬ所作でレイチェルの前に跪き、深々と先の言動を詫びた。


「レ…レイチェル様……、これは…一体……」


 青天の霹靂とも言える事態に、皆はただ唖然と事の成り行きを眺めるしかない。


「ふふふふ…、上手く行きましたね。ではマルコン、皆に説明を。兵士の皆も顔をお上げなさい。余計な忖度は要りませんよ?」


 悪戯に微笑むレイチェルと、そんな彼女を見て苦笑いを浮かべるマルコン。


「この者たちは、私が王国軍内で秘密裏に築き上げた協力者組織の者たちだ。王国軍に属するからと言っても、中にはやむを得ぬ事情で残らざるを得なかった者…、あるいはこの国の行方を(いた)く憂慮している者も多々いる。そういう者たちに接近し説得して、今では総勢100人ほどの有志が集った。これから行く先々で、君たちの大きな助けとなってくれるだろう」


「そういうわけです。皆様方もお騒がせをして申し訳ありませんでした。というよりも、てっきりわかっていて我々の小芝居に付き合って下さってたものかと……。マルコン殿から何も知らされていなかったのですか?」


 マルコンと兵士の一人が、盛大な “ドッキリ大作戦” のネタバレをする。

 ピンピンに張り詰めていた糸がプッツリと切れてしまった一同。


「これこれ、皆の者…、ここは敵地ですよ。しっかりと気を引き締めなさい。とはいえ、少々度が過ぎましたかね…」


「いえ、決してそのようなことはございません。『敵を欺くにはまず味方から』とも言いますから。それにしても、レイチェル様の先ほどの迫真の御演技、大変お見事でしたよ。演技だとわかっているにもかかわらず、思わず萎縮してしまうほどの威圧感でしたからね…」


「そうですか、私自身としては少々大袈裟が過ぎた感じもしましたが…。しかしまあ、変装の達人たるあなたにそう評していただけるとは光栄ですね、ふふふふ…」


 何事もなかったかのように、談笑を交わすレイチェルとマルコン。

 それに釣られて、ようやく皆の顔にも笑顔が戻り始めた。

 ところで…


「ケッ、俺はまだあんたのこと信用ならねえぜっ。大体、さっきのてめえのツラ、完全な悪人面だったじゃねえかっ」


「お、おいっ…、やめろよっ、トレックっ…!」


 マルコンのことをいけ好かないトレック。

 ライズドの静止を聞かずに、一人野良犬の如く彼に噛み付くが…


「ふっ、味のある男は誰しもが少なからず清濁を併せ持っているものだ。そして意外にも、時折見せるその()しい顔に惹かれる女性も多々いるものなのだよ。覚えておくといい…、5年前、当時付き合っていたラフィーネ・メリンコに甲斐性の無さが原因で愛想を尽かされ、それ以来万年彼女募集中のトレック・リノル・エンペール君よ」


「なっ…!?、て、てめえっ……なんでそれをぉっ………うがあああっ…!」


 無情にも、大勢の前で “公開処刑” されるトレックだった。




 そうこうして…


「ねえねえっ、やっぱお姉ちゃんの言った通りだったでしょ〜!、お姉ちゃんすごいでしょ〜!、クラリスちゃ〜ん!」


「あーはいはい、すごいねー………でもよかったです。本当に先生が私たちを裏切ったら…どうなることかと……」


 ドヤ顔で押し迫るアイシスには塩対応を向けつつ、クラリスはマルコンに話を振る。

 そんな彼女に対し、マルコンは呆れ顔で返事を返した。


「そもそもが、私は一言も『君たちを裏切る』などとは言っていないのだがな…。雰囲気の流れに飲まれて、君たちが勝手に私を “裏切り者” だと錯覚したに過ぎない」


「あっ…、そう言われてみれば……」


「君たちは御父上の意志を継いでセンチュリオン家を再興するのだろう? 仮にも次期当主を志す者がそんなことでは困り物だ。まったく、君たちにまだまだ教えなければならないことがありそうだな…。事が全て終わったら、覚悟しておくといい」


 マルコンは一瞬、その愛嬌のない顔を精悍に微笑ませる。


「はいっ…、先生!」


 彼が見せた貴重な笑顔を見て、心なしか嬉しさが込み上げたクラリス。

 一方それとは対照的に、顔を真っ青にして震えるリグであった。


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