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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第25章 16.アンガー大橋の戦い(後)

 一方、僅か三人の子供相手に思わぬ苦戦を強いられる兵士たち。


「落ち着けっ…、とりあえず体勢を整えるぞっ。確かに魔弾の連射は厄介だが、一撃の威力はさほど強くはない…、大楯を構えて防ぎ切れっ。所詮は子供…、いくら才があろうと体が付いて行かないはずだ。このまま無駄に撃たせ続けておけば、すぐに力尽きるだろうっ」


 反転攻勢を狙って、彼らは作戦の変更を打ち合わせる。

 ところが、その時!


 ダアンッ…ダアンッ…ダアンッ…ダアンッ………


「うぎゃあっ…!」


「うわっ…何だっ、今度はっ……」


 鼓膜を激しく打ち叩く、重く尖った発砲音。

 そして夜明けの空に響き渡る、兵士たちのさらなる悲鳴。


(わり)いっ、お前ら待たせたなっ!」


「三人とも、よく踏ん張ってくれたっ、あとは我々に任せなさいっ!」


 そこにいたのは、銃を構えて敵前に立つレーンとマルゴスの姿だった。

 二人が銃器の準備をしている間、バラッドたちが時間稼ぎをしていたのだ。


「うわああっ…!、銃使いもいたのかっ…!?」


 フェルト製の最新式の魔導ライフルから降り注ぐ銃弾の雨に、兵士たちは形勢逆転どころか一層なる苦境に立たされる。

 その中で特にレーン。

 射撃で全国大会入賞した経歴は伊達ではなく、彼の放つ弾はまさに百発百中で敵を地に沈めていった。


「す、すごいっ…、レーンさん……。ここまでだなんて……」


「うおおおっ、パイセンっ、マジパねえっすっ!」


「ふ、ふんっ…、ま、まあまあね…。思ったよりはやるんじゃ…ない……?」


 想像以上のレーンの活躍に、驚嘆を隠せないバラッドたち。

 だがそんな彼らとは対照的に、レーンは心中で酷く苦悶していた。


(俺を救ってくれたジオスの人たち…。俺はこの国に恩を返すために命を懸けることを決めた…。でも…、今こうやって戦っている…銃を向けている人たちもジオスの人間なんだ……。ちくしょうっ…、すまねえ…許してくれっ……)


 守りたいと思ったもの…それに銃口を向けなくてはならないという、残酷極まりない不条理。

 それでもレーンは、自身の愛する人々を守るべく、震える手を必死に抑えて引き金を引き続ける。

 (ことごと)く兵士たちの急所を外しているのは、彼なりのせめてもの衷情だったのだ。




 さて、そんなレーンの切実な想いを、当の兵士たちが一分でも汲み取っているわけもなく……


「くそっ…、なんてことだっ……、たった五人を相手になんてザマだっ…。このままではここを突破されるぞっ…?」


「うむ…、まさかただの一般人にしか見えないあの二人が銃使いだったとは……。それにしてもあの小僧の方…あれは相当厄介だな…」


「し、しかし、命中率は良くても全て急所を外していますっ…。実はそれほど大したことないのでは……」


「馬鹿者っ、現に撃たれた者たちは皆戦闘不能にされているではないか。そもそも全弾命中して全て急所が外れる偶然などあると思うかっ? 恐らく奴は、意図的に急所を外しているのだ…。すなわち裏を返せば…、いつでも我々を殺せると示威しているに他ならないっ…」


「こうなれば…、全員生捕るつもりだったが致し方ないっ…、あの小僧だけは一刻も早く始末しましょう!」


 レーンを相手戦力の主幹だと判断した兵士たち。


 カチャ…


 大楯の死角から数丁の魔導銃を構え、今にもレーンを狙い打とうとしていた。

 彼本人はもちろんのこと、バラッドら子供たちもそれに気付いていない。

 そんな中で…


(レ、レーンっ…!?)


 車のシート上に立って、皆よりも1メートルほど高い目線を得たマルゴス。

 彼だけがレーンに忍び寄る危難に気付いた。


(レーンに知らせねばっ……し、しかしこの混沌の中では大声すら届くかどうか……。だが僕の銃の腕前では、あれだけ離れた敵を狙い打つのは極めて難しい…、何より敵は複数人いる……。くそっ…どうすれば………こんな時っ…こんな時…()()が使えればっ……)


 掛け替えのない存在の窮地の前に、マルゴスは役立たずの思考をぐるぐると巡らすことしか出来ない。


(確かに僕はこれまでずっと魔術を蔑ろにして来た…。こんな時だけ魔術に縋りたいなど、あまりにも虫が良すぎる話だ……。しかしそれでも……それでもっ……)


 これまで50年近く生きて来て、一度たりともしたことなどない後悔が、突如彼を苛ませていた。

 ところが、その時…


(もうどうしようもないっ…、と、とにかくっ…銃を放つしかな…………)


 苦しみから解放されるようにして、マルゴスの思考がプツリと途絶える。

 そして…、その奇跡は起きた!


 ガチャンッ…


 いきなり持っていたライフルを放り捨てたマルゴス。

 次の瞬間…


 ブオオオン……


 マルゴスの両掌に包まれて生み出されたのは、なんと眩く輝く発光体…。

 彼は何の躊躇もなく、それをレーンに銃口を向ける兵士たちに投げ撃った。


 ドオオオオンッ!!!


 途轍もない大轟音と破壊力…、兵士たちは断末魔の叫びすら上げられずに、木っ端微塵に吹き飛ばされる。

 煉瓦造りの橋上には、直径2メートルほどの大きな(えぐ)れが生じていた。

 灰黒い爆風が去った後、怒号や銃声が飛び交っていたその場は、一瞬にしてきな臭い静寂に包まれる。


「し、師匠……、い、今のって……」


「ま…魔術ですかっ……マルゴスさん……」


「す、すげえええっ……」


「あわ…あわわわわ……」


 腰を抜かすほどに驚き慄くレーンたち。

 しかし何より、一番にこの現実を飲め込めずにいたのはマルゴス本人だった。


(な…何なのだ……この眼前の光景は……。ま、まさか……僕がやったのか……)


 劇薬の禁断症状の如く全身は震え、心臓に流れる血は濁流の如く暴れ狂う。

 マルゴスの明晰な頭脳も、自身を襲うこの未知の現象を暴くには、路上の石ころ程度の役にも立たなかった。




 ところで、一方の兵士たち…


「こ、こんなのバケモンじゃねえかっ……。か、勝てるわけねえっ……」


「ひっ、ひいいいっ……、死にたくねぇっ……」


「もう嫌だっ…、もう我慢の限界だっ……、やってらんねえよっ…!」


「こらっ、貴様らっ、敵前逃亡かっ…?、重罪なのはわかってるんだろうなっ…!」


「くそっ…なんてことだ……、こうなっては最早持ち堪えられんっ…撤退だぁっ…!」


 苦戦を強いられながらも、ここまでなんやかんやで果敢に戦った彼らだが、やはりマルゴスの一撃が決定打となったようだ。

 完全に戦意を喪失し、烏合の衆と成り果てて逃亡する末端の兵士たち。

 その様を見るに見かねて、上官はついに撤退命令を出した。


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