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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第4章 14.二つの現実

 …………………………

 …………………………

 …………………………

 大して時間は経ってないだろうが、どれだけの時が経ったのかはわからない。

 我に返った私は、その場でへたり込んでいた。

 何故だか、体の震えが止まらない。

 ずっと俯いていた私が徐に顔を上げると…、その眼前には……

 ほぼ炭と化した、男たちの元胴体と思われる真っ黒な物体が2体、複数の人間の手足…、そして黒く焦げてはいるが、あの男たちであると判別は出来る人間の頭部が散乱していた。

 人の肉と内臓が焼ける、鼻を突く異臭が周囲に広がる…。

 目の前に広がる凄惨な光景を見て、私の体の震えはさらに酷くなった。


(これは…私がやったのか……!? ………私は…人を殺してしまった……?)


 現実を突きつけられて、私は自身が(おか)した行為の重みを痛烈に思い知らされた。

 齢13歳にして、二人の人間を殺してしまったという事実が、私の心をジワリジワリと押し潰すようにのし掛かって来る。

 男たちを殺したこの右手を、切り落としたいほど忌々しく思えた。

 確かに、先の戦闘で、目の前で人が殺されていく悲惨な場面は何度も見て来た。

 しかし、私は心のどこかで、自分は “悲劇の傍観者” として、仲間たちが敵兵を殺しても、子供の私には関係ないことのように思っていた部分があった。

 しかし、そんな考えは、とても浅ましく卑怯であることを、私は今、痛感させられている。

 そもそも、冷静に考えれば、どんな正義を掲げようとも、ジオスの軍の一員としてこの戦闘に参加している時点で、私は人殺しに加担しているのだ。

 先の戦闘でも、物資を手渡したりするなど、間接的にアリアたちに協力した。

 つまり、私はすでに大勢の人を殺してるも同然なのだ。

 愚かにも、稚拙で浅はかな覚悟とやらに突き動かされて盲目になっていた私は、その手で人を殺めて、ようやく自身の罪を自覚した。

 もちろん、私が殺したこの二人は殺されて当然の人間ではある。

 それに、瞬時に消炭になったのだ…、苦しみもほんの一瞬だっただろう…。

 むしろ、男たちがこれまでやらかして来た悪行に比べたら、甘過ぎる処断だったとも言える。

 それでも……私が犯した罪は消えないのだ……。

 気付くと、無意識に涙が溢れ、手で拭い切れない大粒の涙は、ポトリポトリと雨のように乾いた石畳の地面に染み込んでいく。

 もう、男たちに対する感情は何もない…、情けないことに、ジェミスに対する想いもどこかに行ってしまった…。

 ただ悲しい、ただ辛い、ただ怖い……私はその場で泣き声も出ないまま、ただ涙を流し続けた。


 ……………………………


 一気に多量に出た涙は、すぐに枯れてしまった。

 押し寄せる感情に対し、泣くことも出来なくなった私は、ただ目の前の男たちの死体とジェミスを含む横たえられた少年少女たちを見続けていた。

 ジェミスの元へ行こうとは思わなかった。

 震えで体が思うように動かないということもあるが、変わり果てたジェミスと対面した際、自分がどうなってしまうのか……それがとても怖かったのだ。

 人殺しに加担してまで彼女を救おうと、多くの人たちに迷惑をかけてまでしてこの地にやって来たのに、結局私は彼女のために何も出来なかった。

 ただでさえ、私の心は悪感情と罪の意識に打ち(ひし)がれているのに、そこに己が友一人も救えない無価値な存在である事実を突き付けられたら…。

 それが怖くて怖くて堪らなかった。

 結局、私は自分のことしか考えていない…、ジェミスを救いたいと思ったのも果たして本心だったのか…、命懸けで友を助けたいという、自分に酔っていただけなのではないか…。

 だとしたら……、皆に合わせる顔もない…。

 ついには…、自己猜疑に陥った私は、もうこのまま一人、どこかに消えてしまおうとまで思うようになっていた。



 すると、その時だった!


「おいっ、やっと見つけたぞ!、クラリス! お前勝手に行きやがって…、一体どういうつもりだっ!」


 それはとても懐かしく…、そして、消えてしまおうとする私を、もう一つの現実に連れ戻そうとする声だった。


「おい、なんか言えよ………」


 その場でへたり込んで動こうとしない私を見て、アリアは苛立ち気味にさらに問いかけるが、私の前に広がる光景が目に入ったのか、彼女は言葉に詰まった。

 アリアは暫しの間、何も言葉を発せず、ただ私の後ろで佇んでいた。

 私は彼女が来てからずっと俯いているので、表情はわからない。

 しかし、彼女の様子からして、目の前の凄惨な状況を見て、彼女は全てを察したようだった。

 それから数分経ったぐらいか…、アリアは唐突に私に目線を合わせるように、私の目の前にしゃがみ込んだ。

 思わず顔を上げて、彼女をチラッと見ると……、彼女は涙ぐみながら、真摯な瞳で私を見つめていた。

 それは、屈強な男たちからも恐れられ、戦場ですら笑みを見せる女傑のアリアが私に見せた、初めての涙だった。

 そして……突然、彼女は私をギュッと強く抱き締めた。


「怖かったろう…辛かったろう…悲しかったろう……悪いのはみんなアタシだ…。お前は何も悪くない…。辛い思いさせて本当にごめんな…もう大丈夫…もう大丈夫だから……」


 アリアの目元に溜っていた涙は、彼女の頬を伝っていた。

 その大きな体に抱き締められて…、彼女の温かな体温が、体全体から私の凍えた心を解凍するように浸透していく感を覚えた。


「ああ…あ……」


 彼女の想いに応えようと言葉を発しようとするが…、何故だか私は言葉を発せなくなってしまっていた。

 その様子を見たアリアは、さらに優しく私に語りかける。


「大丈夫だ…無理に喋らなくていい…。お前が言いたいことはわかるよ…。大丈夫…、アタシはずっとそばにいるから……」


「……うっ…うう…うあああん…!」


 アリアの言葉が琴線に触れ、先ほどまで涙が枯れていたはずの私は、再び彼女の胸元で大声で泣き始めた。


「さあ…皆の元へ帰ろう…」


 彼女に支えられて…、立ち上がった私は、私が帰るべき場所を目指して、再び歩み始めた。

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