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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第25章 12.フェルト組行動開始

申し遅れましたが、物語も佳境ということで本章は群像劇的な展開となります。ここからはしばらくフェルト組のエピソードが続きます。

 さて、それは特務隊一行がフォークを()って約1時間後のことだった。


「なっ、何だとっ…、あの子供たちがどこにもいないだとっ…?」


「は、はいっ……、小一時間前までは、確と三人全員その姿を確認していたのですが……」


 見送りの人々が一斉に去って、閑散とした港で起こっていた大騒動…。

 監視対象となっていたバラッドたちの姿が、どこにも見当たらないのだ。


「『小一時間前まで』と言ったな…?、三人を見たのはこの港内か?」


「はい、そうです…。てっきり見送りに来たものだと思って、もう密航の恐れなどもないだろうと判断し、うっかり目を離してしまいました…」


「馬鹿者っ、何という失態だっ! あの子供たちはフォークセンチュリオン家の子女なんだぞ! あの子たちの身に何か起きれば、お前や私の首が飛ぶぐらいじゃ済まんぞっ?」


「まあ待て、落ち着け…。この者の怠慢は()っての外だが、確かにこの状況から考えるに、あの子供たちがアスタリア号に乗り込んだという可能性はまずないだろう。確かに何やら不審な行動は取っていたが……」


「うむ…まあそうだな…。ともかく港周辺と市街を徹底的に捜索するのだ! 見つかるまで朝飯抜きだからなっ?」


「ひょっ、ひょえええっ……」



 ……………………


 そんなこんなで、役人たちがああだこうだと右往左往している頃…、ここは海に面した北側とは正反対の方角の山間部。

 心許ない灯だけを頼りに、早朝でまだまだ暗い山道を踏み荒らしながら駆けるのは、一台の簡素な馬車だった。

 御者席にいたのは、あの顎髭の男とスキンヘッドの男。

 そして草臥(くたび)れた幌の中に乗っているのは、港周辺で今頃役人が血眼になって探しているはずのバラッドたちだった。

 道は次第に “道” としての形を留めなくなり、地形の起伏も激しくなったところで馬車はようやく停まる。


「これ以上先はさすがに馬車では進めねえ…。この先の獣道を真っ直ぐ進めば()()()()いるはずだ。そろそろ陽も出て辺りも明るくなるだろうし、歩いて行くには問題ないだろう…」


 進むべき方向を首でクイっと示しながら、相も変わらずぶっきらぼうに言葉を吐く顎髭の男。


「はい、ここまで連れて来ていただきありがとうございます!」


「あざっすっ!、兄貴たち! おい、お前も礼言えよ…」


 何故かずっと俯いて一言も発さないフェニーチェに、礼を言うよう促すアルタスだったが……


「うっ…うっぷっ……おえええぇ……」


「………ッ!?」


 悪路を突っ走って来たため、酷く馬車酔いしていたのだろう…。

 なんとその場で盛大に戻してしまったフェニーチェ。


「お、おい……大丈夫かよ……」


 いつもはフェニーチェに対し当たりが強いアルタスも、この時はだけは居た堪れなく言葉をかける。


「……まあともかく、これで俺たちの仕事は終わりだ…。あとは上手いことやるんだな…」


 さすがの顎髭の男もばつが悪そうにしている。

 ともあれ、男たち二人は何の躊躇もなくその場から去って行った。


「なあ、ほんとに大丈夫か…?、具合悪いなら落ち着くまでちょっと休んでくか? ほら、とりあえず水でも飲め」


 なんやかんやで女子には紳士なアルタス…、再度フェニーチェを優しく労るが……


「うっ、うっさいわねっ……何でもないわよっ…! ほらっ、グズグズしてないでさっさと行くわよっ…!」


「な、なんだよっ、てめえっ…!、せっかく人が心配してやってんのにっ……あっ、おいっ、ちょっと待てっ…!」


 事ある度に角立つアルタスに醜態を見られ、さらにあろうことかそんな彼に女子として情けをかけられてしまったフェニーチェ。

 その場から逃げ出したくなってしまったのか、彼女はヤケになって一人山の奥へと進んで行く。


「はぁ……」


 先行く妹とアルタスの背をゆっくりと追いつつ、大層先が思いやられるバラッドであった。




 一方、子供たちを送り届けるという一仕事を終えた、顎髭の男とスキンヘッドの男。

 フォーク市街へと戻るべく、急ぎで馬車を走らせていた。


「今さらだけどもよぉ…、本当に大丈夫なのか…? あいつらってあの王女様の賓客として来てるんだろ? いくら本人らの望んだこととはいえ、こんな勝手しちまってさぁ…」


「ふん…、これまでも散々御上に楯突いて来ただろうが…。今さら何を言ってやがる?」


 事後になって後悔の念に苛まれ始めるスキンヘッドの男を、髭面の男は素気なく説き伏せる。


「まあそうだけどよ…。それにしてもまさかお前が、あのガキたちの頼みを二つ返事で引き受けるとは思わなかったぜ…」


「なあに…、所詮は育ちの良い箱入りの坊ちゃん連中かと思いきや、意外にも腹が据わったガキ共だと思ってな…。退屈凌ぎに少し付き合ってやっただけの話だ」


「ふーん、『退屈凌ぎ』ねぇ……。まあそういうことにしといてやるかぁ」


「何を詮索してやがる…。下らんこと考えてる暇あったら、馬車をもっと飛ばせ。医者が言うには親父は今日か明日が山場のようだ…。俺らがいないとこで、一人ぽっくり逝かせちまうわけにはいかねえだろうが」


「へいへい、そんな口酸っぱくして言わなくたってわかってるぜ。そらっ!」


 骨折りと引き換えに、そこはかとない充実感を得た男たち。

 二人は “父” フューリーの最期を見届けるべく、帰路を急ぐのだった。


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