第25章 9.出発直前のあれこれ
こうして出発直前…、ついに一堂に会した特務隊の面々。
長年憧れ続けた青ローブを身に纏うこととなり、リグは飛び上がるほどに心ウキウキなご様子だ。
すると…
「お主たちがアルテグラの子だな?」
クラリスとリグの元にやって来たのは、父アルテグラの盟友ランスとシュランクだった。
ちなみに彼らは、すでに進軍を開始している1万人近くもの陽動部隊の大軍を率いるべく、この後すぐに出立する。
「私はグラベル家の当主ランス、この者はレジッド家の当主シュランクだ。そしてそなたらの父アルテグラは、共に切磋琢磨し時には競い合い同じ未来を夢見た、掛け替えのない仲間であった…。お主たちのような子供に、 “敵討ち” などという業を背負わせるのは誠に忍びないが、これもセンチュリオンの名誉を担う者の宿命なのだろう…。必ずや本懐を遂げてくるのだ…、そして必ず帰って来なさい。我々グラベル、レジッドは、センチュリオン本家復興のために如何なる支援も惜しまない所存だ」
「はいっ!」
王国のために共に戦い同じ時代を生きた、父の盟友からの衷心の想いを、胸から迸るほどに受け取ったクラリスとリグ。
「うむ、何とも力に満ち溢れた良い目をしておる…。天界のアルテグラもさぞや万感胸に迫る思いであろう…」
ランスとシュランクは二人の目を見て、その顔を切なげに微笑ませた。
さて、ランスたちが去って数分後、クラリスとリグの前に現れたのは……
「あ、あなたは……」
「あんたは……」
一瞬表情を固くする二人…、それはヴィットだった。
ビバダムやヘリオの付き添いなしで、一人でクラリスたちの元にやって来た彼…、すると……
「えっ……?」
ヴィットは突然、二人の前で両膝を地に着けて跪いた。
「何時かは大変な失礼をした…。君たちの顔を見て、その刹那己の罪の大きさに打ちのめされて、あのようなとんだ醜態を晒してしまった…。謝罪が遅くなってしまったが、本当に申し訳なかった……。この後に及んで許して欲しいなどとは言わない…、君たちには一生憎まれても仕方がないとも思っている…。ただ…それでも一つだけ勝手を言うのならば…、此度だけは同じ志を持った者として、私のことを仲間だと信じて欲しいっ…」
一縷の望みに懸けたとしても、許してもらえるなど思っていない…。
ただ過去と向き合い、己のけじめを付けるためだけに贖罪の言葉を口にしたヴィット。
ところが…
「あの…、頭を上げてください…。あの時あんなにも悩み苦しむ姿を見て、あなたが根っからの悪人じゃないってことはわかりましたから……ねえ?、リグくん…」
「ああ、そうだな…。大体あんなにもカッコ悪い姿を見せられちゃあ、憎むのもアホらしくなってくるしな…」
クラリスとリグの “父の仇” という遺恨は、いつしか家の名誉回復と復興という使命に変わっていた。
二人はしんみりと表情を和らげて、ヴィットの謝罪を受け入れる。
「……本当に心優しい子たちなんだな…君たちは……。せめてもの償いというわけではないが…、仲間として君たちのことを全力で守る所存だ…」
クラリスとリグの遣る瀬なさをも包み込んだ優しさが、むしろ傷口のようにその胸に沁みるヴィットであった。
いよいよ特務隊の面々は船へと乗り込む。
一同の乗る船は、海賊フューリーたちが略奪したジオス軍の軍船だ。
まずはユミディ川河口までアスタリア号が先導し、囮として敵船を全て引きつける。
その隙を見て本隊艇は一気に川を突き上がり、王都へと続く軍港に電撃到達する作戦である。
「うわぁ…、中狭えなぁ…。アスタリア号とはえらい違いだ…」
「うん…、気を付けないとドレスの裾が引っ掛かっちゃうかも……。それになんか薄暗いし、金属とか剥き出しで不気味な感じだね…」
「これは軍ではC型魔燃料艇と呼ばれているやつだな。定員は15人、搭載砲数は2門、主に沿岸警備に使用され、快適性や積載性を犠牲にする代わりに機動性を高めている。それにしても軍の保有する艦艇の中では最速のはずだが…、これを拿捕してしまうとは恐れ入ったものだ……」
素直な感想を漏らしたクラリスとリグに対し、しれっと解説を加えるヴィット。
一際体格が大きいアンピーオとトレックは、大層窮屈そうにしている。
そんな中で…
「クーラリスちゃんっ、大丈夫よぉ〜! そんなに怖がらなくてもお姉ちゃんが守ってあげるからねぇ〜、ところでこの格好とっても可愛いわねぇ……うへへへ……」
「ちょ、ちょっとっ…やめてよっ……」
狭い船内でここぞとばかりにクラリスに抱き付くアイシス。
さらに…
「はぁ…はぁ…、こんな狭い場所でイチャイチャと……。僕ももう我慢できなーいっ!、リグちゃーん!」
「ひっ、ひぃっ……こっち来んなぁっ…!」
密室状態は人を狂わすのか…いやそもそも元から狂ってただけなのか、発情したブリッドはリグを襲う。
だが案の定…
ゴツンッ、ゴツンッ……
「ぎゃあっ…」
「ぐえっ…」
鈍い衝撃音が二発…、アリアがアイシスに、ヘリオがブリッドに、それぞれ痛烈な鉄拳制裁を加えた。




