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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第25章 7.フェルト組の企み

 さて、壮行会も佳境に入り、いよいよ決起集会の側面を見せ始める。

 特務隊のレイチェルを除く全12名が呼ばれ、中央の壇上前で横一列に整列した。

 あれだけ泥酔していたアリアもこの場ではキリッと顔と姿勢を正しており、さすがは魔導部隊長といったところだ。

 そして一同を従わせるようにして、威風堂々とした所作で壇上に上がったのはレイチェル。

 団欒していた会場の空気が一瞬で引き締まる様子を通覧しつつ、彼女は語り掛けるように静かに口を開いた。


「王国義勇軍最高司令官レイチェル・クレセント・ジオスと申します。皆様、今宵はこの場にお集まりいただき誠に感謝の念に堪えません。周知の通り、私とここに立つ12名、総勢13名は明朝に王都へと出立します。宿敵ゲネレイドの首を我々直で獲るためです。作戦完遂に向けての計画は蟻一匹も逃さぬほどに綿密に立てておりますが、何せよ前例のない奇策であるが故に、どのような不測の事態が起こり得るか想定も出来ません。()わば此度の作戦は、我々…いえ王国の明暗を決定する分水嶺とも言え、我々にとって大きな賭けでもあります…」


 レイチェルは表情を険しくさせ、幾許(いくばく)か声のトーンを落とした。

 その “鉄の王女” らしからぬ心許なげな様を見て、会場の人々が不穏に響めき出す。

 ところが…


「しかぁしっ」


 唐突に意気高く発せられたレイチェルの声に、場の空気は再びピシャリと仕切り直された。


「世界の戦史を紐解くと、古今東西、歴史を塗り替えて来た偉大なる勝利に裏には、常にその命運を懸けた果断がありました。そしてその “賭け” は、政情が大きく揺らぎ、民は困窮に喘ぐ…、その瞬間にこそ神のお導きの如く勝利をもたらすのです。王国にとって、まさに今がこの時…、まさに我々の決断は天命とも言えるでしょうっ。さらには、ここにおられるアスター・シュナイダー殿を特使として派遣されたミグノン公国連邦、そしてフェルト国政府…、東西両大陸の二大国が我々に支援を約束して下さいました。すなわち我々は決して一人ではないのです! どうぞ皆様、我々の意志と決断を強く信じていただきたい!、そして…月理神の御加護を賜り偉勲を奏せんとするこの十二人の勇士たちに、盛大なる讃賞と激励をっ!」


「おおおおおっ!!!」


 人々の漠然とした不安を敢えて受け止めた上で、それすらも巧みなレトリックで追い風へと転じさせるレイチェル。

 まさに今この瞬間、会場の空気は彼女の為すがままに彩られる。

 甚く感奮させられた人々は、割れんばかりの喝采を贈り続けるのだった。

 その後、ロッソ・パンテリアの元で、特務隊の面々はレイチェルを中央にして集合写真を撮った。

 実はこの撮影を提案したのは、レイチェルではなくロッソ本人だ。


(この写真はこの国の歴史を変える、世紀の瞬間の記録となるだろう…)


 そんなベテランジャーナリストとしての直感があったからである。




 一方、バラッド、フェニーチェ、アルタスのフェルト組。


「やあ、バラッド君たち…、楽しんでいるかな…?」


「お疲れ様です、ロッソさん」


 寄り集まっている三人の元にやって来たのは、彫り深い顔が萎えるほどにお疲れな様子のロッソだった。


「大丈夫ですか?、ロッソさん…。なんかすごく大忙しですね…?」


 先の写真撮影だけでなく、実はそれ以前より出席者皆から引っ張り凧にされていたロッソ。

 というのも、現在所属のウェルザ中央通信社国際報道部の前は、彼は同社政治部記者として国政を担当していた。

 国際情勢、さらにはフェルトの政局にも精通したロッソから、多くの人々が話が聞きたがったのである。


「いやいや…、これほどの関心を持って私の取材の話を聞いてもらえるなんて、むしろ記者冥利に尽きますよ。それだけでもこっちに来た甲斐があったというものだ。ところで、マルゴスさんとレーン君の姿がどこにも見当たりませんね…? あの二人もここに招待されているはず……というよりフォークに着いてから一度もその姿を見掛けないような……」


「えっ…ええ……た、確か…郊外の街に住む旧地の友人に会いたいとかで……、今はフォークにはいないそうですよ…」


 ロッソから唐突にマルゴスとレーンのことを尋ねられて、バラッドは咄嗟に取り繕うように答えた。


「そうですか…、それは残念ですねぇ。ところで、あちらにいる少年少女…、あの子たちがあのフェルカさんのご弟妹(きょうだい)ですね? 挨拶がてらお話をして来ます、ではまた…」


 渋みのある笑みを軽く見せて、ロッソはクラリスとリグに会うべく去って行った。

 ところで、そんな中で…


「なぁ、バラッド…、やっぱりかなり監視されてる感じだよな…? まああれだけ派手に動きゃあ当然か…」


「さっきからすっごくジロジロ見られてる…。わかってはいたけど、それでもなんかイヤよねぇ……」


 こちらが気付いていることを察せられないようにして、アルタスとフェニーチェはひそひそ声で話をする。

 バラッドがレイチェルに謁見したあの日の夜、自分たちだけで戦うことを約束し合った三人。

 この1週間の間、彼らは港湾関係者に手当たり次第に、特務隊に随行するアスタリア号に乗り込めないか聞き回っていたのだ。

 とはいえ、そんな正攻法に出たところで、もちろんその答えは(ことごと)く『NO』である。

 にもかかわらず、馬鹿の一つ覚えのように…というよりもまるで自分らの足跡をくっきりと残すように、三人は精力的に行動を続けた。

 その結果、それはついにレイチェルの耳にも入ることとなり、万が一に備えてバラッドたちは監視対象とされてしまったのだが……


「ああ、そうだね…。でもいい感じになって来た…。これなら…行けるっ…」


 何故か精悍にほくそ笑んだバラッド。

 その笑みに呼応して、アルタスとフェニーチェは小さくも力強く頷いた。


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