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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第25章 5.最後の “リグちゃん”

 さてそれから、会場内で合流したクラリスとリグ。


「はぁ…、いろんな人から話しかけられて、なんかドッと疲れたなぁ…。明日はもう朝早くに出発だっていうし、早いとこ家帰って休みたいんだけどなぁ……」


「気持ちはわかるけど…、でも私たちのためにこうやって盛大に壮行会を開いてくれてるわけだし、帰るわけにはいかないでしょ? それに今じゃあ私たちがセンチュリオンの顔…、今後家を復興させていくためにも、こういう社交の場を(こな)していくことは大切なんじゃないかな?」


 早くも戦後の、自分たちが担う本家の将来を見据えているクラリス。

 するとそこに…


「お〜い、お前らぁ〜、楽しんでるかぁ〜、ヒック……」


「ちょっ、ちょっと姐さんっ…飲み過ぎっすよっ……」


 酒瓶片手ですでにべろんべろんに出来上がってるアリアが…、さらに彼女を追ってトレックたちがやって来た。


「せ、先生…、こんなに酔っ払って明日大丈夫なんですかっ…?」


「ばっきゃろぉっ〜、大戦(おおいくさ)の前は酒盛りして酒を浴びるようにかっ喰らうのが、昔っからの習わしだろがぁっ〜!」


 そうは言うアリアであるが…、実のところは、クラリスたちが戦場に出ると言う不条理を、未だに心の奥底で受け入れられないからだ。

 すなわち、『飲まなきゃやってられるか!』というのが本音である。


「そういうわけだからなぁ〜、ほら、お前らも飲め飲め飲め〜!」


 完全にタチの悪い酔っ払いと化したアリアは、なんとクラリスとリグに飲酒を強要した。


「姐さんっ…?、それはさすがにマズいですってっ……」


「そうですよ姐さん…いやアリア先生っ……、それは大人としても教師としてもあるまじき行為ですよっ…?」


 咄嗟にアリアと止めようと体を張るライズドとスコット。

 ところが…


(お酒かぁ…、ヴェッタで飲んだ時はなんだかほんわかして心地がよかったなぁ…。しばらく飲んでなかったけど、こういう場なら別にちょっとぐらい飲んでもいいよね!)


「じゃあ、ちょっとだけ……」


 子供ながらにして酒の味を覚えているクラリス…、満更でもない様子でアリアから酒を受け取ろうとする。

 そしてその横には、青褪めた迫真の表情をしたリグがいた。


(ま、マズいっ……こんなとこでクラリスに酒を飲ませちまったら……エラいことに……。でもどうしよう…、ライズド兄ちゃんたちでも先生を止められないし、あいつはあいつで飲む気満々だし……)


 (きた)る惨劇をどう防げるか…、一人命運を背負い込む羽目となったリグ。

 するとその時…


「リーグちゃーん〜、どうして僕のところに来てくれないのさ〜。君のためにちゃーんとサイズも合わせたメイド服も用意したんだよ? さあ、可愛らしくお(めか)して、僕だけのメイドさんになってね〜」


(ひいいいぃっ……まためんどくさいのがぁっ……)


 リグのための特注したというメイド服を見せびらかすように持って、ブリッドが乱入して来た。

 ますます窮地に立たされるリグであったが…


「なんだリグ、お前そんな趣味があったのか……。面白(おもしれ)えっ、やれやれ〜!、わっはははっ!」


 気まぐれでリグの女装に興味を持ったアリアを見て、彼は切羽詰まった頭で直感的に閃いた。


(そうだ…、俺がここでこの服を着れば、先生の気を完全に紛らわすことができるんじゃ……。そうすれば…あいつ(クラリス)に酒を飲まさせないで済むっ……)


 自分の中の大切な何かが壊れてしまうかもしれないが…、クラリスの名誉がそれで守れるのならばと、リグに最早迷いはなかった。


「しょ…しょうがねえなぁ……、まあせっかくだし…やってやろうかなぁ……」


「本当かいっ?、じゃあ僕と一緒にあっちへ行こうねぇ〜」


 目元と口角を(とろ)けるほどに緩ませたブリッドに、リグは無情にも裏へと連れて行かれた。




 こうして10分後…


「いいよっ〜!、リグちゃーん、とっても可愛いよぉ〜!」


「……………………」


 涙目で頬を紅潮させて、恥辱に打ち震えるリグ…。

 決して機能的とは言えないふりふりのメイド服に頭には大きなリボン、髪は繊細な髪質で耳を覆う長さなのでウィッグは不要だ。

 長旅で男らしく引き締まった脚を隠すために、白タイツを穿かされている。

 童顔が些か凛々しく成長して、さすがに以前のような “美少女” とは言い難いが、それでもまだまだ “リグちゃん” は健在だった。


「なーんだ、リグぅ、似合ってんじゃねえか。おらっ、メイドなんだろ?、さっさとアタシにご奉仕しろよぉ!」


「ひゃんっ……?」


 最早羽目を外し過ぎてセクハラ親父同然に成り下がったアリアは、スカートに手を突っ込んでリグの臀部(でんぶ)をいかがわしく摩る。


「リグちゃん、そんないやらしい声を出すんだねぇ…。でもこの声は僕だけに出して欲しいなぁ……はぁ…はぁ……」


 鼻息を馬のように荒くして、自身の指をリグの口内に入れて舌と絡ませるブリッド。


(うううう……なんでこんなことに……)


 公衆の面前でブリッドの慰み物と化したリグは、数十分前の自身の決断を死ぬほど後悔した。

 そんな中で…

 一人息子の醜態を遠目に、元からの渋面を一層(しか)めさせて手で頭を押さえる、ブリッドの父ランス。

 新たな “オモチャ” を見つけたと、口角を歪ませて不穏に目を光らせるソラとアイシス。

 リグの姿を目に焼き付けて、捨て去ろうと決めたあの情景を再び取り戻そうとしている、“リグちゃん” に未練たらたらのアルタス。

 そんなアルタスの様が面白おかしくて堪らない様子のフェニーチェ。


(ええ……リグくんが自分から女の子の格好をするなんて……。やっぱりこの子…そういう()が………てかお酒は?)


 リグの苦悩など知る由もなく、あらぬ妄想に耽るクラリス。


 …………………


 何はともあれ、自らの身を賭してまでして愛すべき人の名誉を守り抜いた、“(おとこ)” リグであった。



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