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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第25章 2.バラッドの挑戦

 それから、フォーク市街へと移動した一同。

 バラッドたちは、名目上はレイチェルへの表敬訪問という(てい)でジオス渡航を許された。

 そういうわけで一応の目的のため、皆を代表してバラッドが到着早々にレイチェルに謁見することとなった。


「遥々よく来てくれましたね。あなた方を賓客として歓迎します。ところでバラッド…、あなたのことはお父上より予々(かねがね)伺っておりますよ? 何でも、ウェルザ一の名門校で大変優秀な成績を挙げられているとか…。お父上もさぞかし鼻を高くしておられることでしょう」


「お褒めいただき恐縮にございます。しかし(わたくし)などまだまだ浅学非才の身です…。レイチェル様の御言葉を胸に、今後もセンチュリオンの名に恥じぬよう、より一層精進していきたいと思っております」


「ふふふふ…、まだ幼いというのに何としっかりとした子だこと。将来が楽しみですね…」


 まだ子供ながらにして、バラッドは(しか)と父エクノスの期待に応えて責務を果たす。


(何でも “鉄の王女” と恐れられていて、父上からもとても手厳しい方だと聞いていたけど…、一見した感じでは、とても温和なお方みたいだ…。軍服姿がとても良く似合ってる……)


 緊張を適度に保ちながらも、心の中で安堵の一息を吐くバラッド。

 ところが…


「さすがはエクノス殿が全幅の信頼をおいて遥々異国へと送り出した子…。ならば、(わたくし)も本心で接せねば失礼に当たりますね…」


 表向きの温顔をスゥっと澄まさせて、レイチェルは仄めかしを見せながらその場の空気を仕切り直した。


「それは…どういうことにございましょうか……?」


(な、何だろう……この一気に室内の熱が下がったような空気の変化は……)


 レイチェルの佇まいが明らかに変質する様を察知したバラッド。

 不安と動揺とで表情を強張らせながら尋ねるが……


「単刀直入に申しましょう…。あなたたちがジオスに渡航して来た本当の目的は、(わたくし)への表敬訪問などではないということです」


「……何故…そのようなことを仰せに……」


「考えてもご覧なさい…、いくらあなたが聡明な少年だったとしても、年端も行かない子供を正使として送り出すなどあまりにも非常識な話です。そもそも現在の我々が置かれている状況を考えれば、何の政治的意味もない表敬訪問など全くの不要不急。挨拶のやり取りなど、書簡か通信で事足りるはずです。そして何より、あなたのその不体裁な顔色の変化…、それが “嘘” であることを如実に物語っていますよ?」


 レイチェルの厳しい指摘に、さすがのバラッドも反論の余地がなかった。


「申し訳ありません…レイチェル様…、全て…正直にお話しします…。本家の子女クラリスとリグがこの戦いに参加するという噂をターニー(とある人物)から聞いて…、同じ一族の子として居ても立ってもいられずにやって参りました…。こうなれば…僭越ながら(わたくし)も遠慮は致しません……、現在の戦況、今後の展望、そしてあの二人に課せられる任務まで…、全てお聞かせいただけないでしょうか…?」


 子供ながらにして腹を括ったバラッド…、彼はなんと “鉄の王女” と遣り合う道を選んだ。


「ふふふふ…、己が厳しい立場に立たされたと思いきや、随分と思い切った行動に出ましたねぇ…。利発なのか、はたまたただの向こう見ずなのか……。まあいいでしょう…、概要だけで良いのならばお話ししましょう…。あなた方のお父上には恩もあることですしね…」


 バラッドのことを僅かにも認めたのか…、してやられたように(しか)め笑いを浮かべるレイチェル。

 彼女はバラッドの求めに応じて経緯を語った。


「こ、国王暗殺のための特務隊ですか……、なんと豪胆な……。それに姉さ…クラリスとリグも参加すると………そのっ…お、お願いがございますっ…、私たちも…その特務隊に参加っ…、いえっ、参加出来ないまでも、何かしらの協力をさせていただけないでしょうかっ…?」


 ついにレイチェルの眼前で本題を切り出したバラッド。

 だがレイチェルは打って変わって表情を殺すと、冷めた口ぶりで話を続けた。


「バラッドよ…、(わたくし)に褒められたからといって、少々図に乗りすぎですよ? あの二人を特務隊に加えた理由は、もちろん本人らの強い意志もありますが、彼女らが本家の人間であり、しかもデール族の里にて現地の族長の下で厳しい修行に励み、より一層なる力を身に付けたためです。一方、魔導工学が著しく発展したフェルトでは、その代償と言うべきか人々の魔術の才は大きく(つい)え、それはセンチュリオンの血を引く南家であっても例外ではないと…。あなたは今、『何かしらの役に立ちたい』と言っていましたが…、我々の何の役に立てると言うのです? 今この場で申してみなさい」


「そ…それは……」


 レイチェルの冷厳な圧を(まと)った言葉の前に、バラッドは彼女の心を揺るがす何の言葉も用意出来なかった。


「ほらご覧なさい…、所詮はあなたが背負って来たという覚悟など、あの子たちのそれに及ぶところではないのです。それでもなお、どうような形であろうと我々の役に立ちたいと思うのであれば…、そうですねぇ…あなたたちには人質にでもなっていただきましょうかね」


「……ッ!?、ひ、『人質』ってっ……どういうことですかっ…!?」


「あなた方のお父上に、我々へのさらなる協力を強いるための人質ですよ…。南家の持つ影響力を勘案すれば、フェルト政府への圧力にも使えるでしょう。無論、現時点でもエクノス殿には十二分な支援をいただいておりますがね…」


 とても冗談で言っているようには思えない、レイチェルの非道な発言。

 父に聞かされていた “鉄の王女” の恐ろしさを、バラッドはようやく身を()って知ることとなった。

 一方、子供相手にやり過ぎたと思い返したのか…、レイチェルは再び顔を力なく和らげる。


「今(わたくし)が申したことは、あくまで最悪の事態の話です。婉曲的に言い換えれば、そのような結末を迎えさせないためにも我々がいるのです。ですから、あなたたちが我々の何かしらの役に立ちたいと申すのなら、それは我々のことを強く信じてくれる…それに尽きるのです。とても賢いあなたであれば、(わたくし)の伝えたい意がきっとわかるはずですよ?」


「はい…、不躾な振る舞いをしてしまい申し訳ありませんでした……」


 レイチェルに完膚なきまで叩かれた挙句、最後は彼女に綺麗に話を畳まれてしまったバラッド。

 今思えば最初から結果など見えてはいたが…、“鉄の王女” への謁見は、彼の胸中に得も言われぬほろ苦さを植え付けたのだった。


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