第24章 最終話.おあとがよろしいようで
こうして、二人っきりの甘々で濃密なひと時を過ごすクラリスとリグ。
時間にすら干渉されることのない、まさに自分たちだけの楽園……のはずだったが……
「うおっしゃぁっ!、リグの野郎やりやがったっ!」
「よかったな、トレックっ、リグのために頑張った甲斐があったな!」
「きゃっ〜、すっごーいっ、本当にキスしちゃったっ…! あの子やるじゃないっ!」
「こらっ…、お前ら騒ぐなってっ……、ここで見てるのがバレるだろうがっ……。それにしてもあいつらがねぇ……、まあそれだけあいつらも大人になったってことか……」
「そうだねぇ…、小さい頃からあの子たちを見て来た私にはちょっと寂しい感じもするけどねぇ……」
実はアリアたち…、皆の前からクラリスを連れて走り去ったリグを追っていたのだ。
一方、クラリスのことで頭がいっぱいだったリグは、追手が来ていることに全く気付いていなかった。
そして今、10メートルほど離れた草藪の間から、一同は二人の一部始終をしっかりと目に焼き付けている。
「てか最初、この旅行のこと聞いた時、なんかお前らの様子が変だなって思ってたが、そういうことだったのか…」
「すんません、姐さん……黙ってて…」
「まったくだ、柄にも合わない粋がった真似しやがって…。アタシに隠さず相談してくれりゃあ、もっと上手いことあいつらの距離を縮めてやったっていうのに」
「アンタそんな大口叩いてるけど、アンタだってロクに男との恋愛経験ないじゃないか…。何故か昔から同性からはよく告白されていたけどね……」
「だから人前で昔の話はやめろよぉ〜、姉貴ぃっ……」
クラリスとリグへの祝福を肴にしながら、一同は草木の影で大いに盛り上がる。
「うっ……うううう……」
アイシスは、デール族の里でのあの夜のことを想起して、一入の感慨に浸って涙を流していた。
ところが…
「皆して訓練を中止するという一報を聞いた時は何事かと思いましたが…、まさかかようなところで遊び呆けていたとは…。良いご身分ですねぇ…」
(………ッツ!?、ま、まさか……この声は……)
突然、皆の背後から発せられた女性の声…。
その凄みを効かせた清音に、少なくとも現役魔導部隊であるアリアとトレック、ライズド、ブリッドは、条件反射で背筋が凍り付いた。
「レ…レイチェル様……」
なんとそこには、ヘリオとビバダムを付き従わせたレイチェルが立っていた。
相も変わらずその麗顔は表情に乏しく、楽観的な展開は期待出来そうにない。
「レイチェル様……な、何故ここに………もっ、申し訳ありませんっ…!、決して怠けようとしていたわけではっ…、このような親睦を深める機会も一度は必要かと思いまして…… 」
「言い訳は認めませんよ?、アリア…。王国の名誉を与る、誇り高き魔導部隊として看過出来ぬ所業ですね」
「ひいっ……」
その言葉一文字一文字に、冷然な圧を纏わせるレイチェル。
怒れる “鉄の王女” の御前で、蛇に睨まれた蛙の如く竦むアリア始め魔導部隊の面々であったが……
「まったく、他人の色事…しかも子供をコソコソ覗き見するなど、悪趣味も良いところです。いくら休養日とはいえ、王国に仕える者として少しは品位を弁えるべきでしょう?」
「へっ……?」
予想だにしなかったレイチェルの言葉に、思わず気が抜けた声を発するアリア。
すると…
「ふふふっ……ははははっ、レイチェル様、お戯れはこれぐらいになされては? 大丈夫だ、安心しろお前ら。レイチェル様はここチコル温泉郷をご視察されたいということで、お忍びで来られたんだ。決してお前たちをお咎めになどならないよ」
朗らかに笑って退けるヘリオに釣られて、レイチェルの表情も薄っすらと綻ぶ。
「それにしてもあいつら…、まさに青春ってやつか…。良い光景だな?、ビバダム…」
「はい…、あの子たちのこの笑顔が見たくて……俺はここまで頑張って……うっ…ううう……」
肩を密着させて幸せそうに睦み合うクラリスとリグの姿を遠目に見て、ビバダムは泥臭く顔をくしゃくしゃにしていた。
さて、レイチェルのおふざけだとわかって、萎んだ風船のように全身から力が抜けたアリアたち。
「ふふふふ…、驚かせてしまい申し訳なかったですね。悪気はなかったのですが…」
「い、いえ…、そんなお謝りにならなくても……。おかげで皆良い休養になりました。養った英気を糧に、必ずやレイチェル様のご期待に応えてみせます!」
「それは何より…、皆期待していますよ。それにしても私もあなた方の仲間のはず…。にもかかわらずこの私を誘って下さらないとは……、本当につれない方たちですねぇ…」
「も、申し訳ありませんっ…。し、しかしっ…、さすがにレイチェル様をお誘いするわけには……」
「ふふふ…、冗談ですよ…。そこは察しなさい、アリア…」
………………………
こうして人数もさらに増えて、月夜の下で懇談に耽る一同。
ところが、その時!
「うおおおおっ!!!、優勝バンザーイっ!、同じ月の下っ、ヴェッタの全裸男にこの喜びを捧げるぞおおおぉっ!!!」
「うわっ、おいっ、どこまで行くんだよっ…!?、落ち着けってっ…!」
「せめて服着てくれよぉっ〜!」
なんと暴牛の如く爆走して来たのは、ムキムキマッチョのあられもない姿の男だった。
「うっ、うわぁっ!、な、なんだっ…!?」
「きゃぁっ…!、な、何っ…アレっ…!?」
「うわぁ、すごーい、全裸男じゃなーい!」
「うっわぁ…、またもやとんでもない変態がいたものね…。ほんと世界って広いわぁ……」
「おや…?、あの男は先ほど行われていたコンテストに参加していた…、ヴェッタから来た男……」
突然の珍客…ないし “チン客” の乱入に、各人各様に反応する女性陣。
「おおっ、レイチェル様ではございませんかっ! さっきご覧になられてましたよねっ!?、俺見事優勝しましたよっー!」
「(ええっ…、レイチェル様……)……って!、うわぁっ、こっちに来るぞぉっ…!」
レイチェルの姿を見て、より一層興奮状態に拍車がかかった男。
股間にぶら下がるアレをこれでもかと押し付けるようにして、一目散に突進して来た。
「うっ、うわあああぁっ…!!!」
男が纏う怒涛の圧に、皆は狼に追われる羊の群れの如く逃げ惑う。
そして…
「きゃっ…!?、な、何なのっ…!?」
「うわっ…!、な、何なんだよっ…!?」
夢心地に浸っていたクラリスとリグの元に、一気になだれ込む一同。
………………………
そんなこんなで、クラリスとリグにとって忘れられない記念となった夜は、二人にさらに忘れることなど出来ない鮮明な記憶を植え付けて更けていくのだった。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。やや話が脱線した本章ですが、次回から物語はいよいよ終盤に突入します!




