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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第24章 8.男湯にて

 一方、男湯…


「リグちゃーん…、すっかり男の子らしく成長しちゃったんだね…。でもそんなリグちゃんも背徳的で可愛いよぉ〜。お風呂出たら、いっぱいお粧ししようねぇ〜」


「……………………」


 風呂の中でも決してリグを離そうとしないブリッド。

 リグの顔は最早死んでいる。

 そんな彼に対する罪悪感から目を背けようと、トレックたちは見て見ぬ振りを貫いていた。


「いやぁ、いい湯だなぁ…、癒されるぜぇ……。でもよ、何か刺激も欲しいよなぁ…。温泉…しかも露天風呂と言ったら……やっぱアレっきゃないだろ…?」


「何だよ…?、『アレ』って……」


「わかんねえのかよ……女湯だよ、女湯。あそこの茂みを越えたらすぐだぜ…。ワクワクするだろ…?」


「はぁっ…、馬鹿かお前っ…? そんなこと姐さんにバレたらぶっ殺されるぞっ…?」


「何だよお前…ビビリかよ……、そんなんでよく魔導部隊が務まるな…。スコットはもちろん行くよな?」


「な、何をバカなこと言ってるんだっ……!?、教え子もいるってのに、そんなこと出来るわけないだろっ…!」


「何だよお前まで…いい子ぶりやがって……。昔は遠征とかでこういうことあったら、ノリノリで付いて来てたじゃねえかよ…」


「こ、こらっ、トレックさんっ……リグ(生徒)もいるんだぞっ…! 悪い冗談はよしてくれよっ…!」


(なーに)が『冗談』だよ…、女隊員の乳とケツの大きさをはぁはぁ言いながら熱心にメモってたのはどこのどいつ……うわっ…!、おいっ、こらっ……うっぷっ……」


「おいっ…!?、スコットっ、やめろってっ…!」


 今の自身のイメージ上、大変都合が悪い過去を抹消すべく、躍起になってトレックを湯に沈めようとするスコット。

 そんなこんなで、修学旅行の悪ガキさながらに騒ぐ、久々に揃ったアリア隊の三人であったが……


「ううう……うがあああああっ…!!!」


「………ッツ!?」


 ついに精神が限界に達したリグは、狂人の如く絶叫した。


「ど、どうしたんだよっ…?、リグ……。いきなり大声出して……」


「どうしたもこうしたもあるかよっ…!、なんでこんなことになってんだよっ…!?、クラリスとの仲を取り戻すための旅行じゃなかったのかよっ…? くっそぉっ…、兄ちゃんなんか信じた俺が馬鹿だったよっ……」


「な、何だとっ…?、てめえが『どうしようどうしよう…』って泣きべそかいてたからから一肌脱いでやったのに、何なんだっ、その言い草はっ! 大体元はと言えば、てめえが遊びに感けてクラリスちゃんを放ったらかしにしたのが悪いんだろうがっ!」


「な…なんだよっ……わかってる……わかってる…から………うっ…ううう…うわああああんっ…!」


 怒りを露わにしたリグに対し売り言葉に買い言葉で、トレックは大人気もなく怒鳴り散らかす。

 だがその言葉は、今のリグにとっては痛いほどに核心を突いており、不甲斐なさと惨めさとで彼は泣き出してしまった。


「お、おいっ、トレックっ、お前言い過ぎだぞっ…、リグが可哀想だろうがっ…!」


「そうだぞっ、子供に当たるなんて恥ずかしくないのかっ…?」


「こんなに可愛いリグちゃんをいじめる奴は、この僕が許さないぞっ!」


 一人だけニュアンスが歪んでいるようだが…、その場の男三人から非難轟々のトレック。


「な、何だよっ、お前らその目は……、全部俺が悪いっていうかよっ……。チッ…、やってらんねえぜっ……」


 泣きじゃくるリグの前で大層気不味そうにして、トレックは一人先に湯から出て行った。




 こうして和気藹々とした女性陣とは天と地の差ほどの、居た堪れない空気に覆われた男湯。


「リグ、お前は何も悪くない…、だからもう泣くなよ…、な?」


「そうだよ、リグ君…。ところでライズドさん…、さっきこの子が言ってたことって、どういう……」


「可哀想にリグちゃん……、さあ、僕が優しく癒してあげるからねぇ……」


「ちょっとお前は黙っててくれ。実はな………」


 相も変わらず独り善がりのブリッドを窘めつつ、ライズドは今回の旅の真相を打ち明けた。


「なるほど…そういうことだったのか……。確かに集まった時、妙にみんなの様子がおかしいとは思ってたけど……」


「ライズド兄ちゃん…、先生…ごめん……。そうだよ…、トレック兄ちゃんが言ったように、元はと言えば俺が悪いんだ……。兄ちゃんは俺のために色々考えてくれたのに、俺あんな酷いこと言っちまって……」


 ようやく落ち着いたリグは、消沈して自責の声を漏らす。


「そっか…、君とクラリスちゃんはそういう仲だったのか……。でもな、リグ君…、そこまで深刻に捉えることはないんじゃないかな…?」


「え…、どういうこと……?」


「だってクラリスちゃんはとても強い心を持った子だろ? そんな子に君は好かれているんだ…、こんなことぐらいであの子の心は離れたりはしないんじゃないかな? もしも君がクラリスちゃんの立場だったら、君だって相手に愛想を尽かしたりなんてしないだろ?」


 さすがは教師と言うべきか…、スコットの言葉に、リグはただ小さくゆっくりと頷いた。




 一方…


(くそっ、何だよあいつら…、そりゃあ俺だって、リグを怒鳴ったのは大人気ないって反省してるけどよぉ…、それでもなんか納得が行かねえっ……)


 悶々とした感情を抱えながらも、欲求に素直に一人女湯に忍び寄るトレックだったが……


「な、何だ一体っ、てかアイちゃん…?、何でこんなとこで倒れてんだ…?」


 彼がそこで遭遇したのは、目に渦を巻いてバタンキューと伸びている女の姿だった。


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