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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第24章 2.飛んで火に入る夏の虫

 その数日後、ここは校舎内の女子更衣室。

 現在、クラリスより一つ下の2年生の女子生徒たちが、魔術演習の授業を終えて着替えをしている。

 年頃の少女らしく、おしゃべりで華やぐ生徒たちは誰一人気付いていないが…、更衣室の窓が数センチだけ開いていた。

 とはいえ、外には誰の姿もない。

 ところが…


(ふへへへ…たまらんなぁ……、クラリスちゃんぐらいが最高ではあるけど、小っさい子も捨て難いのよねぇ……。ああ〜この中に飛び込みたいなぁ〜!、てかどうせわかんないんだし飛び込んじゃってもいいわよね…)


「はぁ…はぁ……」


 人影はもちろんのこと、人が隠れられる物陰すらないはずなのに、何故か馬のように荒い吐息と生温かさが感じられる。

 ちょうどその時、アリアがその場を通りかかろうとしていた。

 相も変わらず殺気立った形相だ。

 大凡(おおよそ)また何か、彼女を苛立たせる厄介事でもあったのだろうか。

 ただそれはそれとして、そのまま何事もなく通り過ぎて行った……かに思われたが……


 ゴツンッ


 窓の前で立ち止まったアリア。

 空気を裂くように拳を思いっきり振り下ろすと、何故かそこに鈍い打撃音が発生した。

 すると…


(いった)ーい……、もう何なのよ…いいところなのにぃ……」


 その瞬間、女の涙声とともに空間が揺らめき、ぼんやりと何者かが姿を現し始める。


「一体何なのよぉ………あ…先生……ご、ごきげんよぅ……」


「だぁれが先生だっ、もうアタシはアンタの先生じゃありません! ここ最近、覗きの被害が多発してるって聞いて見回りしてたら、まさかアンタだったなんて……。少しでもアンタのことを信じたアタシが馬鹿だったわ!」


 なんと、迷彩結界を悪用して、覗きの常習犯となっていたアイシス。

 アリアもこの術を習得しているので、他者が発動した結界を見破ることが出来たのだ。


「せっかくの術を悪用して最低なことしないでください! あなたはデール族の次期族長になるために、こっちの世界に来たんでしょうがっ。故郷であなたの帰りを待ってくれてる人たちに申し訳ないって思わないんですかっ?」


「………………………」


 里のことを持ち出されては何も言えないアイシスは、とぼとぼとその場から去って行った。




 こうして、少しは心を入れ替えたかと思われたアイシスだったが……


「ふへへへ…、クラリスちゃんのお肌柔らかくてすべすべねぇ〜…。でもリグくんの程よく筋肉が付いた、育ち盛りの男の子の体もいいわねぇ〜。甘いお菓子と辛い料理を交互に食べてるみたいで、たまらないわぁ〜」


「………………………」


 アイシス宅に呼び出されたクラリスとリグ。

 あれからさすがに、アイシスは犯罪じみた行為に及ぶことはなくなった。

 だが、過去の『1日2時間、好きなだけお触りさせてあげる』というクラリスとの約束は、今でも生きているらしい。

 一方、先日の一件を聞いて、クラリス(恋人)を守るべく同行したリグだったが、あえなくアイシスの餌食となってしまった。

 2時間という、自分らにとっては気が遠くなるような時間が過ぎ去るのを、ひたすらと耐え忍ぶクラリスとリグ。

 ところがその時…


 チリーンッ…


「もうっ…、何なのよぉ〜…、せっかくのいいところなのにぃ……」


 突然の来訪者に、お楽しみを邪魔されたアイシスは大層機嫌を悪くする。


「まあいっか、居留守使っちゃおっと」


「ええっ……、だ、ダメよ、お姉ちゃん……ちゃんと出ないと……。ほ、ほら…、アリア先生とかかもしれないし……」


「そ、そうだよっ…、そ、そういえばこないだ、先生、近いうちに姉ちゃんの家に行くって言ってたぞ…?」


「えっ、(うっそ)でしょ……?」


 アリアへの恐怖心を上手いこと突いたクラリスと、それを巧妙にフォローしたリグ。

 やむなくアイシスは、おどおどしながら玄関へと向かった。


「なあ…、この隙にさっさと逃げ出そうぜ…?」


「うん…、これ以上付き合ってなんてられないもんね…」


 ひそひそ声で決死の脱出を図ろうとするクラリスとリグだったが……


「は、はい……、あれっ…この子は……?」


 玄関扉の前にいたのは、見た目はクラリスよりも年下のように思われる、小柄な一人の少女だった。

 アリアだと思い込んで蒼白になっていたアイシスの顔は、(たちま)ち電球が灯るようにパァっと華やぐ。

 すると…


「えっ…、マリンさんっ…!?」


「マリン姉ちゃんっ…、何でここに……」


「あれっ…?、クラリスちゃんにリグくんっ…?」


 そう、突然の来訪者の少女とはマリンだったのだ。


「あらぁ…、二人とも、この女の子を知ってるの…?」


「う、うん……まぁ……」


「そうなのぉ…とっても可愛らしい子ねぇ……にへへへ……」


 アイシスの顔は邪念すら覚えるほどにニタニタと歪んでいる。

 最早嫌な予感しかしないクラリスとリグであった。


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