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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第23章 閑話2.ケロスケに捧ぐ(後編)

 そうこうして、真夜中のデート?も終盤…、フェニーチェとケロスケは甲板に出た。


「当たり前だけど、真っ暗で何にも見えないわね…」


「でも、この波音と潮風でわかるゲロ…、この船の周りにはきっと青一面の海が広がってるゲロ…。オイラ今までずっと狭いところに押し込められてばかりだったから、こうして海を感じられるだけでも嬉しいゲロ」


「そう…、よかったわね……」


 感慨深く彼方を見つめるケロスケの姿に、そこはかとなく胸が引き締められるフェニーチェ。

 しばらく二人?は、若干肌寒い潮風に当たりながら、余韻に浸るようにその場に佇んでいた。

 ところが…、その時!


 ヒュゥ……ヒュゥ……ヒュゥ………


「えっ……、な、何なの…アレ……」


 喘鳴(ぜんめい)のようなノイズを伴って、不意に現れた人魂型のゆらめく発光体。

 最初は一つ、二つ、三つ…、気付けばいつしか二人を取り巻くまでの数になっていた。

 動くケロスケを見た時は何にも怖くなかったフェニーチェも、さすがにこの現象には背筋が凍り付く。


「こ、これは…、おそらくこの海に(うごめ)く、この海で死んでいった者たちの怨念だゲロ…。呪詛の憑代(よりしろ)であるオイラに引き付けられて集まって来たんだゲロ…」


「ええっ…!?、ど、どうすんのよっ………ッツ!?、キャアアアアッ…!!!」


 死者の怨念が具現化された発光体は、間髪入れずに一斉にフェニーチェに襲い掛かるが……


 ピッシッ!……ピッシッ!……ピッシッ………


「ふぇ……えっ…?、ケロスケっ…!?」


 なんとケロスケ…、そのひょろ長い手足を鞭のようにしならせて、向かって来た発光体を打ち消した。


「ふふふふ…、実はオイラはこんな体だから、怨霊の類には強いんだゲロ。お嬢ちゃん、ここはオイラに任せるゲロ!」


 こうしてケロスケは、フェニーチェを守るため一人怨念たちと戦い続ける。


(ケロスケ……)


 固唾を飲んでケロスケの勇姿を見守るフェニーチェ。

 あの間抜け面も、今この時だけは心なしか輝いてカッコよく見えた。

 だが皮肉なことに、そのケロスケの輝きに寄せられるようにして、怨念の数は増える一方…。


(このままでは埒があかないゲロ…。でもこのままじゃお嬢ちゃんが………仕方ないゲロ…アレをやるしかないゲロ…!)


 何やら覚悟を決めたケロスケは手足を大の字に広げて、自身が(まと)う漆黒のオーラを何倍にも増強させた。

 するとなんと、無数の怨念たちの発光体がケロスケの体に次々と吸い込まれていく!


「ケロスケっ…!?、アンタ一体何をっ…!?」


「オイラは呪詛の憑代ゲロ…、だから怨念たちを全てオイラの体に取り込んだんだゲロ…。あとは…、オイラの体もろとも、この怨念たちを全て浄化してやればいいゲロ……」


「そ、そんなっ…、そんなことしたらアンタはっ……。だってぇっ、やっと300年ぶりに目覚めたばかりじゃないのっ…!」


「目覚めたところで、この世界にオイラに居場所なんてないゲロ…。でも…、お嬢ちゃんに逢えた……それだけでオイラは幸せだったゲロ…。オイラのこと叩いたりしても、その後はいつもオイラのこと優しく抱きしめて一緒に寝かせてくれたゲロね……。それにケロスケっていう名前も…、本当はとっても嬉しかったゲロ……。そろそろお別れだゲロ…、体がもう耐え切れないゲロ…。お嬢ちゃん…ごめんゲロ……そして…ありがとう……」


「そ、そんなぁっ……ケロスケっ……!」


 ドボンッ…!


 取り込んだ怨念たちと心中するようにして、ケロスケはどす黒い海の中へと蛙らしく飛び込んだ。


 …………………………

 …………………

 …………



「ケロスケぇ……ケロスケぇ……うっううう………ん?…うーん……」


 早朝から燦々(さんさん)と降り注ぐ陽射しを顔に浴びて、フェニーチェは起床した。

 泣き続けたせいで、長い睫毛には目脂(めやに)が大量に付着し、目をぱっちりと開けるのも一苦労だ。

 そしてあのケロスケは……、当たり前のように彼女の隣にいた。

 動いたりも喋ったりもしない、ただの不細工なぬいぐるみである。

 その状況を見て、フェニーチェは昨夜の出来事が全て夢だったのだと即座に理解した。


(そりゃあそうよねぇ…、ぬいぐるみが喋ったり動いたり物を食べたりするわけないものね……。よくよく思えば、不自然なことばっかだったし……)


 ほっと一息()いたフェニーチェは、改めてケロスケと対面する。


「ふふふふ…、本当に不細工(ぶちゃいく)な顔してるわね…。まあ、本当に化けて出られても困るし、これからはもうちょっと優しくしてあげなきゃね……。でも…、あの時のアンタ、ちょっとだけだけどカッコよかったわよ…?、わたしのこと守ってくれてありがとね…ケロスケ…」


 夢の中でケロスケと過ごした、掛け替えのない時間を偲ぶフェニーチェだったが……


「おーいっ、チビスケー、そろそろ朝飯の時間だぞー!」


「………ッツ!?」


 フェニーチェを呼びに部屋に現れたレーン。

 彼女はケロスケを乱雑にシーツの中に押し込む。


「な、何なのよっ、いきなりレディーの部屋に入るなんて失礼でしょうがっ…!」


「いや…、一応俺ノックはしたけど……ん?、どうしたんだお前…、目ぇ真っ赤だぞ? まさか家が恋しくなったのかぁ…?、おむらしとかしてるんじゃないだろうなぁ?」


「バ、バカっ…、そんなわけないじゃないっ……! あれよ…そのっ…ゴ、ゴミが目に入って擦っちゃっただけよっ…!」


「ふーん…、まあ元気そうならいいや。ほらっ、さっさと行かねえと、船員の兄ちゃんたちに食われちまうぞ?」


「わ、わかってるわよっ…。ほらっ、もたもたしてないでさっさと行くわよ!」


 何はともあれ、こうしてフェニーチェの一日は今日も元気に始まるのだった。




 ところで…


「おっ、おいっ……、だ、誰だっ、俺の酒すっからかんにしやがった奴はっ…!?」


「なーに言ってやがる…、瓶には皆名前を書いてんだ…、間違うことなどあり得ないだろが…。野郎同士で間接キスなんざ死んでも御免だしな…」


「ジェッツさん、そう言って前も記憶が飛んでただけで自分で飲んでたじゃないっすか…。どうせ今度も夜中にこっそり抜けて一人で酒かっくらってたんでしょ?」


「ほんとほんと、ここに置いておいた食材まで摘みで食っちゃってさぁ…。どんだけ腹減ってたんっすか…。普段あんだけ食っときながら……」


「ちげえよっ…、今回は本当にちげえんだよぉっ…! くっそぉっ…、この酒すげえ高かったんだぞ……ううう……」


 愛酒の盗み飲みの被害を切実に訴えるスキンヘッドの男と、そんな彼を白々しい目で見る仲間たちだが、それはまた別の話である。


これにて第23章を終わりです。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。次回はクラリスたちの日常エピソードをお送りします。

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