第23章 最終話.楽しいヤツ
原稿ストックが厳しくなり、しばらく投稿を差し控えていました。今後更新ペースが以前よりも大幅に下がるかと思いますが、今後ともお付き合いいただけるとうれしいです。
そうこうして…
「おーいっ!、あと5分で出港すんぞぉっ!」
「早く乗れぇっ!、ボサボサしてっと置いてくぞぉっ!」
海の男の性なのだろう…、決して怒っているわけではないが、気性が荒さが目立つチームアスタリアの面々。
「よし…、じゃあこれでお別れだ…。みんな、気を付けて行って来るんだぞ? マルゴスさん、レーン君…、子供たちのことよろしくお願いします」
彼らに急かされつつ、エクノスの見送りを受けながら一行は船内へと乗り込んだ。
ボォ〜!
間もなくして、けたたましい重低音を轟かせながら、アスタリア号は港から悠然と離れて行く。
世界最大の推進力を誇るこの艦船…、あっという間に周囲は遮るものなき青海へと移り変わった。
さて、時は夕暮れ、甲板にて…
東大陸の西側を航行するアスタリア号から見れば東側、モールタリア方面に落ちる雄大な焼ける夕陽。
それを一人ポツンと眺めながら、フェニーチェは柄にもなく物思いに沈んでいた。
するとそこに…
「よぉ、チビスケ、こんなとこで何やってんだ?、そろそろメシの時間だぞ? 行かねえなら、俺お前の分まで食っちゃうぞ、はははは」
相も変わらずフェニーチェの頭をぽんぽんと叩いて、朗らかに笑うレーン。
いつものように、彼女のちょっかいを出された猫のような反応を期待したのだろう。
だが、フェニーチェの口から出た言葉に、レーンは我が耳を疑った。
「さっきはごめんなさい…、あなたのことを足手まといみたいに言ってしまって……」
なんと、レーンのことを『あなた』呼びして、しおらしく謝ったフェニーチェ。
「お、おい…、一体どうしたんだよ……、お前本当にあのチビスケか…? まさかこの後、嵐でもやって来るんじゃないだろうなぁ…、俺嫌だぜ、海の上で遭難なんて、はははは…」
困惑しつつも揶揄いを入れることを忘れないレーンだが、それでもフェニーチェは湿っぽい顔色を変えることはない。
「な、なあ…、ほんとにどうしたって言うんだよ…? 体の具合でも悪いのか?」
さすがに冗談言ってる場合ではないと察したレーンは、大層心配そうに尋ねる。
意地っ張りが服を着て歩くようなフェニーチェだが、この時彼女はレーンに自身の心の内を吐露した。
「フェルトが見えなくなったら、急に何だか怖くなっちゃって……。お姉様やみんなに会いたくて会いたくて…、ただそれだけで何にも考えずに付いて来たけど……、今になって、わたしなんかが来てよかったのかなって……ちょっと後悔してるっていうか……」
「そんなのお前だけじゃないだろ…。お前の兄貴のバラッドだって……」
「お兄様はわたしなんかと違うもん…。あの人はすっごく頭いいから、もっといろんなこと考えてるに違いないし…。それに比べて、わたしはお勉強もあんまりできないし、アルタスみたいに運動ができるわけでもないし、アンタみたいに何か特技があるわけでもないし…、みんなの足手まといなのはわたしなのよ……」
「でもお前は魔術が使えるんだろ?、それだけでも十分すげえじゃねえか」
「そりゃあ、元々は魔導士の家系だから使えるけど…、だからってそれが何かの役に立ったことなんて一回もないし……。実は前にヤバい男たちに襲われたことがあって…、でもその時、わたし怖くて怖くて……なんにもできなかったの……。そんな弱虫で落ちこぼれのわたしなんかジオスに行ったって、みんなのお荷物になるだけ……。だから先に、『ごめんね』って言っておく……」
これまで散々片意地を張って来た反動なのか、フェニーチェはこれでもかと弱音を吐き続ける。
ところが…
「ふふふふっ……あはははっ!」
あろうことかレーンは、腹が捩れる勢いで哄笑を上げた。
「な、なによっ…!、人が真剣に話ししてるのにぃっ…!」
期待外れにもほどがあるレーンの反応に、顔を真っ赤にして、ようやくいつもの喧しい声が出たフェニーチェ。
(何なのよっ……こいつにだったら何でも打ち明けられるって思って、勇気を出して言ったのにぃ………って、わたしったら何考えてるのよっ…? キイイイィっ、悔しいっ…、こんなやつに心まで弄ばれるなんてっ…!)
すっかりいつもの調子で妄想を拗らせる彼女だったが……
「はははは…、悪りぃ悪りぃ、笑っちまって…。お前がいきなりそんなこと言うもんだから、つい可笑しくてさ……。でもありがとな?、俺なんかに相談してくれて……。いつもはあんだけ意地張ってるお前が、ここまで自分の弱さを打ち明けるなんて…、辛かったよな…?」
一転、感傷気味に優しく微笑むレーン。
その笑顔に、フェニーチェはぽうっと釘付けになる。
「まあ、俺もまだまだ若いし偉そうなことは言えないけどさ…、いちいち他人と自分を比べる必要もないと思うぜ?、お前はお前じゃねえか。今出来ないってことは、それだけ伸び代がある…、頑張り次第でどのようにもなれるってことだろ? それにさ…、お前は意地っ張りな自分の性格が嫌なのかもしれないけど、俺はそんなお前と一緒にいると退屈しないし楽しいぜ? だから、そう落ち込むなよ」
「……ッ、バ、バッカじゃないのっ…、べ、別にわたし、アンタを楽しませる気なんてないし、アンタと一緒にいても何も楽しくないしっ…! ちょっといいこと言ったからって、いい気になるんじゃないわよっ…、バカっ…!」
「はははは、そうか、俺いいこと言ったか?」
「ちっ、違うったらっ……だ、誰がアンタの言葉なんかにぃっ……、てか、どさくさにまぎれて頭触るんじゃないわよっ…!」
そんなこんなで、二人っきりのだだ広い甲板で、いつものようにドタバタと他愛のない時間を過ごすレーンとフェニーチェ。
さてその頃…、バラッドは自室で机に向かい、休学中に学校側から課された山盛りの宿題を黙々と熟していた。
アルタスはあることを一心に想いながら、ひたすらに筋トレに励む。
時同じくして、リグが得も言われぬ悪寒に苦しんだのは、あくまで偶然である。
マルゴスは学術書を読み耽り、ロッソは商売道具である写真機の手入れに余念がない。
そして、フェルトでの一仕事を終えたチームアスタリアの面々は、早々に騒がしく酒盛りをおっ始めている。
こうして、各々の多種多様な営みを運んで…、アスタリア号は一路フェルトへと北上するのだった。
本章最終話としましたが、あと1話おまけエピソードを投稿予定です。




