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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
524/623

第23章 15.すべては一枚の写真から…

 さて、一行がアスタリア号に乗り込む直前のこと…


「あっ、おーいっ、君ぃ!」


 突然、数メートル横を通り過ぎようとしていた男を呼び止めたエクノス。

 そうして一行の元にやって来たのは、濃密で彫りの深い顔立ちが印象的な、中肉中背の壮年の男だった。

 何やら、金属製のアタッシュケースに入った、機材らしきものを携えている。


「ああ、マルゴスさん、あとお前たちにも紹介しておこう。新聞記者のロッソ・パンテリア君です。取材のために彼も同行します」


「皆様、はじめまして。ロッソ・パンテリアと申します」


 彫りの深い男ことロッソは丁重に挨拶をすると、マルゴスに名刺を差し出した。


 “ウェルザ中央通信社 国際報道部 記者 ロッソ・パンテリア”


 ウェルザ中央通信社……新聞社にラジオ局、複数の出版社を擁する、フェルト最大…すなわち世界最大のメディアグループである。


「おっと、これは失礼…、私はこういう者です」


 ハッと促されて、マルゴスも自身の名刺を渡し返す。


「これはこれは…、あなた様があのマルゴス・トニック教授ですか…。ご高名はかねがね伺っております」


「いやはや、恐縮です…。あなたも中央通信社の記者さんだったとは。それで…、やはりジオスへは内戦の取材に?」


「はい、そうです。今、我々の隣国で起きていること…、その真実をその目を見て感じて…ありのままをフェルトのみならず世界中に報道して、ジオスの人々の生き様を後世に伝える……そんな取材が出来たらいいなと思っています」


 ただでさえ濃い顔をさらに一層濃厚にさせて、ジャーナリストとしての決意を語るロッソ。

 すると、ここでエクノスが口を挟む。


「実はね…、僕はこのロッソ君にある期待をしてるんです」


「ほう…、『ある期待』とは?」


「一次情報の伝播ですよ。レイチェル様率いる王国義勇軍が勝利したとしても、世界のジオスに対する目は当分厳しいものになります。どんな経緯があれ、(はた)から見れば現王室に対する反乱であることには変わりないのですから…。ましてやこれからは、技術の飛躍的発展によって、世界の国々との距離は一層近くなっていきます。国際社会で、ジオスはますます苦しい立場に立たされるでしょう…。しかしロッソ君の報道で、ジオス(現地)の生の声を世界中の人々が知ることが出来れば、きっと緩やかながらもジオスを見る目は変わっていくはずです。活用次第ではどんな戦力や政治力よりも強大な、ジオスを救う手立てになり得るかもしれません」


「さすがはエクノス君…、抜かりがないな…」


 エクノスの先見の明に、思わずマルゴスも感服させられた。




 ところで…


(あれ…、『ロッソ・パンテリア』……この人の名前どこかで………あっ…!)


 突然、その場で取り憑かれたように自身の鞄の中を漁り出したバラッド。


「お兄様っ…?、一体どうしたのっ……」


 フェニーチェの困惑した声にも耳を傾けず、バラッドは一心不乱に手を動かし続ける。

 そして…


「あっ、あったっ!」


 彼が探し求めたもの…、それはフェルトで隔月で発行されている学習雑誌、“世界ワクワク紀行” だった。

 バラッドが取り出したそれは、昨年の夏に発行された号のようだが……


「あのっ、すいませんっ…、この写真を撮られたのは、あなたですよねっ…?」


「えっ…、フェルカお姉様っ……、あっ、じゃあこの人がっ……」


「な、なんだってっ……、これを撮ったのは君だったのかっ……?」


 クラリスとリグが世界を巡る旅に出る、そのきっかけになった雑誌内のフェルカの写真…。

 さすがにその撮影者の名までは覚えているはずもない。

 だが物覚えの良いバラッドは、記憶の枠の(ふち)から零れ落ちる寸前のところで、このロッソ・パンテリアの名をハッと思い出したのだ。

 何かに役立つかもしれないという漠然とした勘で、その雑誌を持参していたことも幸いした。


「確かに…、これは私が撮ったものですね…。1年前、私はヴェッタへ取材に行っていてね…、たまたま立ち寄った食堂でこのお嬢さんを見て、是非写真に収めたいって思ったんです。直感でそう思わせるほどに、健気で笑顔が素敵な少女だった…。それでも、あくまで私は、私的にこの写真を撮っただけなんです。そもそも、何の変哲もない日常風景に過ぎないしね…。それが偶然にもワクワク紀行の編集長の目に止まって、是非当誌で使いたいと頼まれて…、そうして掲載となったんですよ」


 当時の余韻に浸りながら、雑誌にフェルカの写真が掲載された経緯を語るロッソ。

 ちなみにこの世界ワクワク紀行も、中央通信社系列の出版社から出版されている。


「そうだったんですね…。ありがとうございます…、あなたの写真のおかげで大切な人に逢えた人たちがいたんです…」


「そうですか…、詳しい事情はよくわからないが、そう言ってもらえると記者冥利に尽きますね…。事実を正確に伝えることももちろんだが、報道を通じて人々の心を動かしたい…、それが理由で私はこの仕事を選んだのですから……」


 この後、ロッソは皆からクラリスとリグの話を聞くこととなる。

 だがさらにそこから、自身の写真が旅の途中で二人と関わった人々の生き様を変えた遠因であったことなど、当の本人は知る由もなかった。


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