第23章 13.秘密道具の正体
そんなこんなで…
「お、おほんっ…、さっきは娘がとんだ失礼をしてすまなかったな…。ところで、君らに調べてくれるよう頼んでいた二人の子供の件だが…、本当に無事ジオスにいるんだな?」
「ああ、間違いはないだろう…。俺らは直接は見てはいないが、アスターがそいつらと面会している。二人はフォークにいるそうだ」
「そうか…、ならば安心した…。よかったなみんな、向こうに行けばクラリスちゃんとリグに会えるぞ?」
「はいっ」
「やったぁっー!、お姉様に会える〜!」
「リグ……待っててくれよ……今行ってやるからな……」
…………………………
突然ですが、時を同じくしてここはフォークの街…
「ひぃ……」
「ど、どうしたの…?、リグくん……」
「よくわかんねえけど……、いきなり背筋がゾクってなって……、体を悪寒が突き抜けていくような……」
「なんだろう…風邪かな…?」
…………………………
アルタスの “リグちゃん” への衷心の想いと、それにリンクするようなクラリスとリグとの会話だが、あくまで偶然の一致に過ぎない。
なにはともあれ、二人の無事を聞いて歓喜と安堵を露わにする一同。
ところが…
「最初にアスターたちの話が耳に入った時は気のせいだと思ってたが……、やっぱり…本当にあのクラリスとリグなんだよな…?」
震え声で口を開くスキンヘッドの男。
「な、なんだ…『あの』って……。まさか、あの子たちのことを知っていたのか…?」
「ああ…、実は一年前…ジオスからフェルトまであいつらを乗せたのは俺らだったんだ……。そりゃあ、最初一目見た時から何やら訳ありだとは思ってたが…、まさかここまで辛え境遇だったなんてよ……うっううう……。あんなに小っせえガキたちが、ここまで苦労をしなきゃならねえなんて……、こんな酷え話があるかよっ……うううう……。こんなことなら…うっううう……、もっとあいつらに…優しく接してやればよかったぜ……うおおおおんっ……!」
クラリスとリグの真実を知り、スキンヘッドの男は徐々に感情を昂らせて、人目を憚ることなく大号泣する。
「やめろ、さっきからみっともねえ…。あいつらが無事ジオスに戻って来た……それだけで十分だろうが…」
そんな不恰好で情け深い相方を、顎髭の男は相変わらず素っ気なく宥めた。
それからしばらくして…
「ところで、エクノスさんよ…、確か “マルゴス” とか言ったか…?、あんたが言っていた野郎はまだ来ないのか? 何やら大掛かりな荷物があると聞いて、ずっと貨物搬入口を開けて待機させてるんだがな…」
「ああ…、すまないな、面倒をかけて…。そろそろ来る頃だと思うんだが……」
出航時間が着々と迫る中、マルゴスはまだ現地に来ていなかった。
ところが、その時…
ブオオオオンッ……!
「な、なんだっ、何か近づいて来るぞっ…!?」
「猛獣の群れっ…?、んなわけねえよなぁ……」
もくもくと立ち上がる煙のように砂埃を巻き上げながら、轟音を伴って猛スピードで接近する謎の物体。
その正体は…
ギイイイッ!
「ふう…、何とか間に合ったようだ…。皆、遅れて申し訳ない」
けたたましい急ブレーキ音が止むと同時に、声を発したのはマルゴス。
その横には相方のレーンも乗っている。
現れたのは彼らが乗った自動車であったが…、それは人々が一般的にイメージするものとは随分と様相が違った。
大口径のホイールに溝深く接地面積の広いタイヤ…、大きく目立つ頑丈なバンパーと泥除け…、世間の流行りとは一線を画す、ルーフのない角張った無骨な車体デザイン…。
いわゆるジープ型の自動車だった。
「す、すごいですねぇ、これ…。どこの自動車メーカーの車ですか…?」
「はははは…、どこのものでもないよ、エクノス君。僕が大学で密かに制作してたんだ。周りの研究者仲間や、さらにはターニーちゃんの力も借りてね…。これだったら、悪路ばかりで整備もされていないジオスの道でも走破出来るだろう」
エクノスの反応に大層に満足げな様子で、マルゴスは説明を加える。
「すげえなぁ…これ……。普通に自動車を見ただけであんなにビックリしてたのによぉ……、こんなんまであるなんて……」
「まったく…散々待たせたと思いきや、とんでもねえもん持って来やがったな…。これは積み込むのに苦労しそうだ…」
一方、あんぐりと空けたままの口が塞がらないスキンヘッドの男と、苦々しく表情を崩す顎髭の男。
ともあれ二人は、流れるようにしてマルゴスの “愛車” の船積作業に入った。




