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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第23章 11.エクノスとミーちゃん

 それから…、日々はあっという間に過ぎ、ジオス出発の前々日のこと。

 ミーちゃんを住まわせていたあの森にて、ターニーを始め皆が集まっていた。

 さすがに竜の存在を他に知られるわけにはいかないので、彼女だけ一足先に出立することにしたのだ。


「あわ……あわわわわ………」


 竜の存在を打ち明けられるも、くだらない冗談程度にしか思ってなかったフェニーチェ。

 途轍もないスケールの実物を前にして、今にも口から泡を吹き出して卒倒しそうになっている。


「こ、これは……魂消(たまげ)たなぁ……。竜なんていうもの本当に存在するとは……。遥か太古昔には竜が盛えた時代もあったとはいうが…、まさかその生き残りなのだろうか……。その手の研究をしている知り合いに教えてやりたいとこだが…、これは黙っておいた方が、後々面倒事にならなさそうだ……」


「ありがとうございます!、先生」


 いつしかマルゴスのことを『先生』と呼ぶようになっていたターニー。

 そんなこんなで、薄暗い森の中で、皆はターニーとの別れを惜しむが……


「ターニーちゃん…、すまなかったな…ペリアのこと……」


 沈痛な面持ちで、エクノスは妻の非を謝罪した。

 というのも実はあれから、ターニーの存在が我が子に悪影響を与えたのではないかと、勘繰るようになったペリア…。

 その結果、ターニーに余所余所しい態度を見せるようになってしまっていたのだ。


「大丈夫です、気にしないでください、伯父様。私のほうこそ色々とお世話になりました。すっごく有意義な時間が過ごせて楽しかったです!、私、ほんとにフェルトに来てよかったです!」


 エクノスの心咎めを和らげてあげるように、ターニーは屈託のない笑顔で元気いっぱいに答えるのだった。




 こうして、ミーちゃんの背の上に乗って、ターニーが飛び立つ直前のこと…


「気を付けてな、ターニーちゃん…。ところで、君はこのままジオスに向かうのか?」


「いえ、最初はそう思ってたんですけど…、よく考えたら、私ミーちゃんとの旅の途中だったんですよねぇ…。まだもう少し時間に猶予がありそうだし、しばらくは自由気ままにこの子と世界中の空を飛んで、いろんなものを見て回ろうかと思ってます」


「ええっ、なによぉ〜、それぇっ…! 一人だけサボるなんてズルいじゃないっ!」


 ターニーが示した意思に、番犬のようにギャンギャンと噛み付くフェニーチェ。


「こらこら…、フェニーチェ、やめないか…、ターニーちゃんの好きなようにさせてあげなさい。いいじゃないか、世界中の空を自由気ままに飛び回るなんて…。この広い世界で君だけに与えられた特権だ。思い存分楽しんで、色んなことを学んでくるといいさ」


「はいっ、ありがとうございます!」


 エクノスは我が子同然に、ターニーに慈しみに溢れた言葉を贈る。

 ところが、その時だった!


 べちょん……


「う、うわぁっ…!?、な、なんだっ……」


 なんとミーちゃんが、カーペットのような巨大な舌で、エクノスの体をべっちょりと舐めた。

 一瞬パニックに陥りそうになったエクノスだったが……


「……ミーちゃん……」


「ピィー……」


 ミーちゃんはその黄金色の瞳を潤ませて、エクノスをうら悲しそうに見つめていた。

 とんだ成り行きで、ミーちゃんのお世話をすることになったエクノス。

 人外生物らしからぬお茶目な悪戯(いたずら)心で、いつも彼を困らせていたミーちゃんだが、いつしか睦まじさを覚えるようになっていたのだ。


「すごいっ…、私ですらミーちゃんに舐められたことないのに……。竜の舐める行為は、親子の絆を表してるみたいなんです。すっごいですね〜、伯父様」


 ミーちゃんはそれからも、まるで愛撫をするようにエクノスの体をべちょべちょと舐め回す。

 ちなみに、ターニーに対してそのような行為をしなかったのは、ミーちゃんが彼女を別の意味で恋いているからなのだろう。


 ………………………



「では、皆さんっ、色々とお世話になりましたっ!、またジオスでっ!」


「ありがとう、ターニーっ!、色々話せて楽しかったよっー!」


「あんまりぶらぶらしてないで、早く来なさいよねっ!……べ、別に寂しいからとかっ…そんなんじゃないんだからねっ

…!」


「君と念願の研究が出来て、本当に有意義な時間を過ごせたよ!、道中、気を付けてな!」


「ピィーっ!」


 皆と最後の挨拶を交わして、ついにフェルトの地から飛び立って行ったターニーであったが……


(ミーちゃん……)


 最後の最後で情が通じ合ったエクノスとミーちゃん。

 身体中唾液塗れの彼の心には、ミーちゃんの巨体さながらの大きな穴が、ぽっかりと空いてしまったのだった。


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