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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第23章 6.竜は飼い主に似る?

 そうこうして、鬱蒼とした原生林の中へと入って行く、エクノスとバラッドとターニー。


「ギャオンッ…!」


 都心の中心とは思えない暗い静寂の中に、ミーちゃんの遠吠えがけたたましく響く。


「父上…、これは…本当にもしかして……」


「ああ…、何か得体の知れない猛獣らしきものがいるのは確かなようだな……」


 その場所が近づくにつれて、エクノスとバラッドの額から零れる冷や汗は、その適数を指数関数的に増していく。

 そして歩き続けて30分ほど…、ターニーはついに迷彩結界を解いた。

 術の効力が消えるとともに暗がりにぼんやりと現れたのは、相も変わらず壮観なミーちゃんの姿。

 ただその佇まいは、しょぼんと酷く落ち込んでいるのが一目瞭然であった。


「ミーちゃんっ、ごめんねぇっ〜、ずっと一人にしちゃってぇっ〜」


「ピィー!」


 ターニーは居ても立っても居られずに、彼の大きな鼻先をぎゅっと抱き締める。

 ミーちゃんも金色の目を潤ませて、その(いか)つい図体に似合わない愛らしい返事を返す。

 一方、エクノスとバラッドは…


「あわ……あわわわわ………」


 至極当然ではあるが、口をあんぐり開いたまま、ただ言葉にならない声を漏らすしかなかった。


「あれ…?、お二人ともどうしたんですか?」


「……い…いや……、こ、これは……一体………」


「『これは一体』って…、だから言ったじゃないですかぁ…、竜のミーちゃんですよ?」


「あ、ああ……そ、そうだったな……。し、しかしたまげたなぁ……、本当にこの世に竜なんて存在するとは……」


「ぼ、僕ら…夢を見てるんじゃないですよね……」


 それでも眼前の光景を俄には受け入れ難いバラッド。

 ダメ元で自身の頬をつねってみるが、当たり前に鈍い痛みが走るだけだった。




 こうして、竜がこの世に実在するという現実を、ようやく認知し始めたエクノスとバラッド。

 ところが…


「ところでえっと、そのぅ…、本当にこれは人に危害を加えたりはしないんだな…?」


「失礼なっ、ミーちゃんはそんな悪い子じゃありません!」


 エクノスの言葉に対し、丸い顔をいじらしく紅潮させて、ぷんすかと怒るターニー。


「ご、ごめんなっ…、気に障ることを言ってしまって……」


 エクノスに決して悪気があったわけではない。

 むしろこの状況なら、誰しもが考えるであろうことを口に出したに過ぎないのだが……


「私じゃなくて、ミーちゃんに謝ってくださいっ」


「ええっと……ご、ごめんなミーちゃん……」


 なんと竜に謝れというターニーの無茶振り…。

 困惑しながらも言われるがままに謝罪するエクノスだが、ミーちゃんはあざとらしくプイッと外方(そっぽ)を向く。


「ちゃーんと、ミーちゃんが許してくれるまで謝ってくださいね?」


 圧が強い笑みを浮かべて、エクノスにじっとりと念押しするターニー。


「(えええ……)ごめんよぉ〜、ミーちゃーん、許してぇ〜……」


(なんだこれ……)


 父親が人外生物に涙目で許しを乞うという、そんなカオスでシュールな光景…。

 バラッドは心の中でツッコミを入れながら、呆然と成り行きに任せるしかなかった。




 そんなこんなで、しばらくして…


「ともかくこの竜は、ここに置いとくわけにはいかないな…。僕の知り合いで郊外に広大な山林を所有している人がいるから、その人に頼んでそこに匿わせてもらおう…。ところでターニーちゃん…、君はマルゴスさんの研究を手伝いにフェルトに来たと言っていたが…、ずっとここにいるつもりはないのだろう…?」


「はい…、マルゴスさんとの約束を果たすためにやって来ましたけど、私もジオスに戻るつもりです…。ジオスのことを放ってなんておけないし、クラリスお姉さんたちと『またジオスで会いましょう』って約束したし……、何よりお父さんに会いたいですから……」


 やはり見かけによらず聡いエクノスは、ターニーの心の内を大凡(おおよそ)見抜いていた。


「そうか…、もちろん君の傑出した魔術の才はわかってはいるが…、それでも一大人の心境として、君のような子供を戦地になど行かせたくはない…。そのために僕も、ここウェルザから微力ながら力添えをしているんだ…。だがそこまで言っても…、君はジオスへ行こうとするのだろう?」


「はい…、ごめんなさい……」


「いや…謝らなくたっていい…。だが、一つお願いがある…。このことをフェニーチェにだけは言わないでもらえるか? あの子が聞いたら、自分もジオスへ行くって駄々を捏ねるだろうからな……」


「はい…わかりました……」


 最後は父親としての面目を(しか)と見せるエクノスだった。


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